第四話「対抗」
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン! 調査隊壊滅バーン!
長さ数十kmにも及ぶ、ヘビのような塹壕に、ハリネズミのように機関銃が備え付けられた、竪穴。
その後方には、要塞砲が多数備え付けられ、前線には、絶えずサーチライトが睨みを利かせている。
堅牢なる要塞、その様を、静かに見つめる眼差し。
フリードリヒは、傍らに侍る男に向けて、呟いた。
「見事なものだな。これほどの軍備を備えた要塞等、我が王国内にも、両手で数えられる程しかあるまい。」
ミハイルは、フリードリヒと同じ方向を向きながら、答える。
「旧宗教国家群との、境界ですからね。
報告所によれば、毎日数十から数百もの魔物が、襲撃してくるそうです。
これらの軍備も、当然かと。
だからこそ、『オペレーション・オーバーチュア』の、集積地に選ばれたのですから。」
フリードリヒは、意味有りげに微笑むと、ミハイルに向き合い、挑発するように話す。
「なんだ、ミハイル、口調が硬いぞ?
緊張しているのか、柄にもなく?」
ミハイルは、眉を顰め、フリードリヒを睨むと、ため息混じりに言った。
「当然でしょう。そもそも、今は前線に居るのですよ?
規律の観点からも、いつも通りに話すことなど、出来ません。
閣下…フリードリヒこそ、どうしたんです?
貴方が、この様にからかってくるなど、随分と久しぶりなんですが。」
フリードリヒは、少し思案する。
「ふむ、確かに。
私が、人をからかうなど、軍学校を卒業して、それきりだった気がするよ。
ざっと、27年ぶりか…緊張しているのは、私もだったのかもしれんな。」
ミハイルから、少し心配するように、見つめられる。
彼が、何か言いたげに口を開いた時、一人の将校が、二人に向けて駆け寄ってくる。
「前線司令部より伝令!部隊の集結が完了しました。
前線司令部へお越し下さい。」
「分かった、今すぐ向かおう。」
話を打ち切る様に、フリードリヒが歩き出す。
一つため息をつくと、ミハイルも、直ぐにその後を追った。
フリードリヒ達が入室すると、前線司令部の空気が、明らかに引き締まる。
小型魔導炉により空気が振動し、魔導灯が、場を青く照らす中、最後の作戦会議が、開始される事になる。
フリードリヒは、暫しの瞑目の後、その場に集う、将校を見渡す。
そうして、十分に視線を集めた所で、口を開いた。
「諸君、今や、情勢は逼迫している。
前口上等、許されない贅沢だと、知ってもらいたい。
では、これより、作戦名『オーバーチュア』の、最終調整に入ろうと思う。
オーバーチュアの概要は、戦術参謀が説明する。」
ミハイルは、フリードリヒに言われると、立ち上がり、事務的に続ける。
「戦術参謀の、ミハイルと申します。
作戦名『オーバーチュア』の説明を担当します。
とは言え、皆さん、周知のとおりでありますので、簡潔に概要をなぞるに留めようと思います。
2週間前、特級怪物の、覚醒の兆候が確認されました。
本作戦は、特級怪物の休眠に向けた、特別軍事作戦となります。
本作戦での動員兵力は、以下の通りです。
歩兵12万、騎兵4万、火砲2000門。
内、主力となる28cm魔導要塞砲は、800門が投入されます。
作戦第一段階では、特級怪物の存在する地点から、半径2km圏内に砲兵隊を展開させます。
この際、事前に策定されたグリッドに基づき、確実な照準調整を行うことが求められます。
歩兵・騎兵諸兵科連合は、砲兵隊から、更に1km後方に展開してください。
これは、砲兵隊を確実に防衛する為であり、如何なる資材を投入してでも、強固な防衛線を構築してください。
展開が確認されれば、作戦第二段階に入ります。
作戦第二段階では、中型魔導炉を設置し、本作戦の為に作成された、試製睡眠砲弾の、魔力充填を行います。
試製であるため、現地での魔力充填が必要となります。
完全な魔力充填が確認され、その時点で作戦遂行が可能であると判断された場合、作戦第三段階に入ります。
砲兵隊による、一斉射撃により、睡眠砲弾を特級怪物に叩き込みます。
この際、砲身の冷却限界を超えた砲撃が、参謀本部より認可されています。
つまり、砲身を焼き切るつもりで、火砲が壊れてでも、最速で砲撃してください。
砲撃が終了しても、特級怪物の休眠が確認されない場合、作戦第四段階に入ります。
中型魔導炉を用い、結界を張り次第、最低限必要なもの以外、全ての物資をその場に放棄し、全力で撤退してください。
特級怪物への攻撃は、この段階で、一切禁止されます。
攻撃を試みた、もしくは、その素振りを見せた段階で、重大な軍法違反と見なし、即時銃殺が行われます。
迅速な撤退による、戦力の温存が、参謀本部より厳命されている事を、末端まで周知徹底してください。
以上が、作戦名『オーバーチュア』の概要となります。」
ミハイルは、説明を終えると、一礼し、着席する。
会議室は、静まり返っていた。
改めて、確認したこの作戦、その異常性を、噛み締めているかのようであった。
フリードリヒは、暫しの間をおいて、場に音を取り戻す。
「ミハイル戦術参謀、説明ご苦労。
諸君、現段階で、作戦に向けて、滞りなく事態は進行している。
しかし、必ず成功する、とは言えない。
特級怪物は未知の相手であり、そして、この世に神は居ないからだ。
我々は、全滅する事も覚悟する必要がある。
全ては、我等が王家、そして、その臣民の生命を守る為だ。
我等は、その為に、命を投げ出す事も、厭ってはならない。
如何なる形であろうと、どのような結果になろうと、我々には、本作戦を、やり遂げる責務がある。
各員の、一層の奮励を期待する。
私からは以上だ。」
ロイエンベルク歴333年、8月21日。
この日が、「オーバーチュア」となったのである。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。




