第二話「会議」
魔物増加バーン!
ロイベルク陸軍省、堅牢にして荘厳な雰囲気を纏った、星型要塞に備えられた、王国軍の中枢。
黒鷲の翻る彼の地で、参謀会議が開かれていた。
大公の肝いりで創り上げられた、ランデール辺境伯特別司令部、魔物との戦いの最前線から、憂慮すべき事態が報告されたのである。
重大事を議論するべく、参謀会議には、陸軍大臣、参謀総長、各参謀達という、名だたる面々が参加し、定例会議に並ぶ規模となっていた。
フリードリヒ大公が、前口上として口火を切る。
「諸君、本日は、良くぞ集まってくれた。
残念ながら、陛下が参加なされる事は叶わなかった、だが、陛下も、今回の報告に、強い関心を抱いておられる。
故に、この場では、私が、王族として、陛下の代行として出席する。
しかし、私は、王族であると同時に、映えある王国軍の、参謀総長でもある。
その為、王族として、というよりも、参謀総長として、この場に居る。
少なくとも、私はそのつもりだ。」
少しの間を置くと、会議室は、万来の拍手で満たされた。
暫くの後に、フリードリヒが片手を上げた事で、拍手が収まっていく。
完全に拍手が収まった時、再び彼は口を開いた。
「では、早速本題に移ろう。
既に、報告書は読んでくれた事だと思うが、改めて確認する。
ランデール辺境伯特別司令部、その司令長官たる、ハインツ大佐からの報告だ。
これを見れば良く分かると思うのだが、僅か半年、その半年間で、魔物の出現数が2倍になっている。
それだけならば、ある程度は起こり得る事だ。
だが、特異なことがある。それは、第三等級以上の出現率も、2倍になっていることだ。
諸君ならば、よく理解しているだろう、これが、如何に異常なのかを。」
会議室には、ピンと張り詰めた空気が漂っていた。
重い沈黙、改めて突き付けられた事実は、余りにも重い物であった。
誰とも無しに、吐息を漏らす。
溜息にも似たそれが溢れた直後、フリードリヒが、その雰囲気を振り払うように、言った。
「現状を良く理解してくれた所で、諸君らには、対策に付いて、考案してもらいたい。
階級は関係無い。今は、少しでも多くのアイデアが欲しい。」
暫くの沈黙が流れた後、直ぐに多くの意見が溢れた。
一先ず、増援を送るべきだと言うもの、それでは何も解決しない、原因究明が先決だと言うもの、様々な意見が飛び交う。
参謀会議の日常が、そこにはあった。
「活況溢れる議論は、ロイエンベルクの美学」
嘗て、始祖王が遺した名言。
それを思い起こしながら、フリードリヒは、流れに身を任せていた。
そんな中、静かに意見を聞いていた男が、意を決したように手を挙げる。
戦術参謀、ミハイル・ホーエンディルゲン少将。
新進気鋭の英雄の発言に、参謀会議全体が注目する。
「我々は軍人です、魔物の増加に関しては、研究者の領分でしょう。
そこで、私は、王立中央研究所への、協力要請を提言します。
そして、優先すべきは、救援であると考えます。
同胞が危機に瀕している状況、そして、魔物の出現数の増加は、明らかにランデールのキャパシティを越えています。
一刻も早い増派が必要であると、提言します。」
その発言は、場の意見を纏め上げたものであったが、具体性があり、説得力に優れていた。
周囲の参謀達は、皆同意するように頷いている。
場が落ち着いたのを見計らい、フリードリヒが口を開く。
「では、ミハイル戦術参謀の意見を、全面的に採用しよう。
王立中央研究所には、ペルツェル陸軍大臣に、協力要請を出してもらう。
それでは、ランデールに送る、戦力の選定を行おう。
それが、我等軍人の本分だからな。」
最後のフリードリヒの発言に、ミハイルは、思わず苦笑いを返す。
「では、私は、研究所のマッドサイエンティスト共の説得へ向かうとしよう。
選定された部隊の、ランデールへの配置換えを、陸軍大臣の権限で承認する事を、先に言っておこうと思う。
それでは、閣下、お先に失礼します。」
ペルツェルが、研究所へ向かうのを、同情を込めた眼差しで見送った、参謀一堂は、再び活発な議論を交わし始めた。
数時間が経過する頃には、最適な戦力の分析が完了していた。
フリードリヒが、最後の確認を行う。
「それでは、ランデールへ増派し、ハインツ大佐の指揮下に置く部隊の、内訳を確認する。
第四等級以下へ対応するための、四百名からなる、歩兵大隊一つ、第二、三等級へ対応する為の、長10.5cm魔導砲12門、8.8cm野戦魔導砲18門からなる、砲兵大隊二つ。
合計で1200名、総勢三大隊の増派となる。
また、指揮権拡大に伴い、ハインツ司令官の階級を、少将へ昇格とする。
彼の隷下に居る兵士数は、これで合計2400名。
旅団規模の指揮官が、大佐では困るからな。
各員、異論は無いな?
それでは、これにて参謀会議は閉会とする。
諸君、ご苦労であった。」
簡潔なフリードリヒの説明の後に、参謀達は互いに握手を交わし、各々の業務へと戻っていった。
参謀の業務は激務であり、この後も、多くの仕事が控えていたからだ。
彼等は、王国軍を支え、その中核を担う、国防の要とも言える存在だったのである。
フリードリヒの、そしてミハイルの判断は、一つの真実を浮かび上がらせていく。
その事実は、王国を、やがては大陸全体を巻き込むこと事となる、それを、知る者は、現状誰も居ない。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。




