第十一話「断片」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
国家乱立バーン!!
日夜徹夜は当たり前。1日28時間労働で励んでも尚、研究に進展は見られない。
そんな事は当たり前だ。しかし、此処まで、手掛かりすらも見つからないというのは、珍しいことであった。
今度こそ成果を上げてやる。
そう意気込んで出勤した交代の研究員も、研究室に入ると、満ち満ちるドンヨリとした空気に飲まれる。
『一度入れば、3日は出られない。』
実しやかにそう囁かれる。
確かに蓄積される情報。
資料を捲り、メモを取り、情報を纏め、再び資料を捲る。
そうしている内に、日は陰り、一人、また一人と、デスクに倒れ伏していった。
窓の外は暗闇に沈み、都市は静かに眠りに就いていく。
そんな中で、一人の金髪紫目の女が、革張りの椅子に座り、ドス黒いクマを作りながら、気怠げに資料を捲っている。
紙のこすれる静かな音が、魔導灯の青い明かりに照らされながら、研究室に響く。
つい数時間前まで、タップリのコーヒーでハイになりながら分析結果を纏めていた研究員達は、皆仲良く、半分気絶するように、デスクに突っ伏しているようだ。
革張りの椅子に座る女、クリスティアーネは、中央研究所所長としての権限を存分に用い、王家の禁書の写本すらも手に入れ、特級怪物の情報を探っていた。
彼女の重厚なデスクにも、コーヒーカップが散乱している。
彼女は、デスクに置かれているコーヒーカップを手に取ると、もう欠片ほどの湯気も立っていないソレを、一気に飲み干し、ため息を吐きながら呟いた。
「…これで何杯目だ?そろそろ致死量のカフェインを摂取している気がするな…。
味も酷い…泥水を飲んだほうがマシだな。」
そう言う彼女の目は、クマとは対照的に、爛々と輝いていた。
完全に自律神経が狂ってしまい、眠気が吹き飛んでいるのだ。
ふと、資料を捲る手が止まる。
素早く万年筆を手に取ると、先程までの気怠さが嘘のように、メモを取り始めた。
資料を捲り戻し、また元の場所まで捲る。
それを何度も繰り返すと、終いには資料を最後まで読み込んでしまった。
メモを書く手も止まり、クリスティアーネは、顎に手をやり、ブツブツと独り言を発する。
「文章…それも同じ物が複数回出ている…?
穴開きだらけで判読は難しいが、この回数は異常だ…。
これは…。」
彼女の頭脳は、それを素早く叩き出す。
「平均の…2倍!?
儀式に関する所だけというのも、何ともはや、流石は旧宗教国家群と言うべきか…?」
天を仰ぎ、両手で顔を覆う。
暫くそうしていると、クリスティアーネはメモを手に取り、コーヒーカップでデスクを打ち鳴らした。
響く打突音。ある者は肩をビクリと揺らし、ある者は目を擦する。
死んだような表情の研究員達に対して、彼女は、深夜の静寂に負けないように、声を張り上げ告げた。
「諸君、残念ながら仕事の時間だ。
3時間くらいは寝られたろう?さぁ、これを読め、意見を出せ。
結論が出たら、1日の休日をやろう。
参謀本部の馬鹿共が文句を言ってきたら、手元のコーヒーカップで殴り殺してでも休暇をもぎ取ってきてやる。」
そう言い放ち、ロイエンベルクの貴族として、実に相応しい獰猛な笑みを浮かべる彼女の姿に、研究員達は、早くも回転を始めた頭脳に従い、壊れたように笑い出す者、震える手で眼鏡を拭く者、そして枯れ果てたコーヒーカップから、存在しないコーヒーを摂取しようとする者等も現れつつ、いつの間にか配られた資料を元に、仕事に戻るのであった。
其れ等の反応は、またたく間に飛び火すると、中央研究所全体が、喧騒に包まれていた。
とある資料編纂室からは、断片的資料が持ち込まれ、そして更なる資料を求めて、参謀本部に、鬼のような魔信が送られる。
一説によれば、この頃の中央研究所からの怒涛の魔信から、『鬼電』という単語が生まれたのだという。
ともあれ、数多の情報が、その搾り滓まで持ち込まれ、王国最高の頭脳が火花を散らした。
時計が何度鳴ったか、数える者は無い。
板張りの床には、打ち捨てられた資料が散らばり、その上を革靴が踏みしめる。
アンナ研究員が、脱力しつつ報告する。
「…情報精査、完了しました。」
クリスティアーネも、静かに頷いて告げる。
「あぁ…分かっている。私も一緒にやったからなぁ…。
さて、諸君。御苦労であった。
暖かい家が、愛しい恋人が、伴侶が、そして子が家で待っている者も多いだろう。
そうでない者も、今日は私のポケットマネーから、細やかなチップをだそう。
酒に使うも良し、美食に舌鼓を打つも良し、貯めるも良しだ。
好きに使い給え。諸君らに、1日の休暇を与える。
明後日の朝10時に、此処で会おう。
私も、今日は家に帰るよ…夫が待っているのでね。」
そうして、欠伸をする彼女の姿に、研究員は笑いを零し、口々に労いの言葉を掛ける。
糸が切れたように気絶し、医務室に運ばれていった者も居て、荷物も何もかも置いて帰る者も居る。
十分も経たずに、研究所の鍵は閉められ、火が消える。
研究室の黒板。マグネットで留められた資料群。
数多の文章の羅列の中で、一際強調された一文。
禍々しさすらも感じられる其れは、不完全なモノであった。
「…世の…陣………………我……神……現…る。」
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




