第十話「瓦解」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
現代描写バーン!!宗教分裂ドーン!!
とある者は熱狂に沸き、またある者は暗く沈んでいる。
また一つ、新たな旗がネルキア教のロサーリオを覆したのだ。
街道を、黒い甲冑を着込んだ集団が、乗馬しながら行進する。
傍らには、同じく黒い装束を着た従者が侍っていた。
「独立万歳!アルガリア王国万歳!真なる国王陛下、カール陛下にネルキアの御加護があらん事を!」
そんな声が群衆から聴こえると、集団の中心で、一際目立つ、青い甲冑を身に付けた男が、ヘルムを脇に抱え、その顔を顕にして群衆を見渡し、彼等に向けて手を振った。
より一層、群衆の熱狂が高まったのを見ると、前を向き、毅然とした態度で前進するのであった。
進む先には、処刑台があり、其処には、ボロボロの白い装束を身に付けた、初老の男がいた。
元は、華美であったことが分かる装束は、しかし、何度も鞭打たれた影響で、ソコラの浮浪者にも劣る有様となっている。
アルガリア王は、処刑台の後ろにある、観覧場の玉座に座ると、側に侍る、錫杖を持つ黒装束の男に、何かを囁いた。
黒装束の男は、一歩前に進み出て告げる。
「今より、ガリア大司教、フェルペの公開裁判を執行する!
厳正なる審問の結果、彼奴は父なる神の使徒を自称し、我等に偽の信仰を植え付けんと画策した、サタンの手下であると、その罪の意識に耐えかねて自白した。
魔は浄化されなければならない!
我等、人格派アルガリア国教会は、今ここに、フェルペを神格派の異端であると認定し、死刑を求刑する!」
それに対して、王は自ら口を開くと、言った。
「群衆よ、何か異論はあるか!
恐れずに告げよ、そして、異論無き者は、拍手にてその意志を示すが良い!!」
一瞬の間の後に、場は万雷の拍手で満たされる。
雄叫びすらも聞こえ、皆が皆、何かに浮かされたように、頰を紅潮させ、一体感に酔いしれていた。
王が片手を上げると、場が静まる。
そして、群衆を見渡した後に、笑みを浮かべて、一つ頷くと、宣言した。
「判決を言い渡す。
フェルペは神格派の異端者であり、サタンの申し子である。
故に、被告人を、斬首刑に処す!」
その宣言から間もなく、図体のデカい、顔を隠した男が、フェルペの横に進み出ると、その豪腕を大きく振り上げ、大剣を構えた。
民衆は息を呑み、この振って湧いたエンターテインメントを、片時も見逃すまいと目を血走らせる。
アルガリア王が、親指で首を掻っ切る動作をすると、処刑人の刃が振り下ろされた。
血飛沫が周囲に散乱し、処刑人の手で、フェルペの生首が掲げられると、民衆は歓声を上げ、口々に叫んだ。
「「「神格派に死を!サタンの手先に天誅を!人格派万歳!国教会万歳!国王陛下万歳!!」」」
しばらくすると、グニャリと風景が歪む。
景色が切り替わると、その眼下には、多くの司教や枢機卿が集い、中央の玉座には教王が座る、荘厳なシノドスの光景が映っていた。
しかし、司教の顔は一様に暗く、険しげに顔を歪めているものも多く居た。
教王が立ち上がると、少しざわめいていた場は静まり、視線が集まる。
教王は、周囲を睥睨すると、一つ息を吸い口を開いた。
「現在、唯一正統たる我がネルキア教会は、諸君の知っての通り、危機的な状況にある。
つい先日、アルガリア王が、その神聖なる使命に背き、造反したとの報が、我が耳に届いた。」
それを聞いた司教達に、動揺が走る。教王が手を上げると、直ぐにそれは収まった。
「諸君の動揺も良く分かる。だが、神の御意志を代弁するシノドスの最中に、心を乱すことは罷りならぬ。
静まるが良い…。」
そして、少し目を伏せると、子が死に悲しむ父のような面持ちで、声を発する。
「諸君に、このような知らせをしなければならないことが、悔しくてならない。
神の意志に背き、聖なる使命を冒涜する異端者は、アルガリア王だけではないのだ。
他にも、エトルリア王、イスパニョーラ王、ノルデンラント王が離反した。
奴等は、悪魔に魂を売ったのである。」
教王は、そこで言葉を切ると、顔を上げ、溜めるように沈黙し、声を張り上げる。
その声は、先程までの哀しげなものでは無い。
それは司教達の耳朶を叩き、物理的な圧力すらも伴っているかのように感じさせた。
「これは、断じて許されない行為だ!
神の御意志に背き、その支配権に挑戦する…そのような事は、万死に値する!
故に、余は今此処に、アルガリア、エトルリア、イスパニョーラ、ノルデンラントの諸王に対して、破門を宣言する!
彼等とその臣民は、神の御慈悲を受けることは出来ず、後悔しながら死ぬこととなるだろう!!
おぉ、神よ、我等を救い給え。
スペーロ」
「「「「「スペーロ」」」」」
祈りの言葉を捧げると共に、シノドスの雰囲気は高揚していく。
そして、教王と、数人の枢機卿が立ち上がると、皆がそれに注目した。
立ち上がった枢機卿は、聖歌を口にする。
司教と、他の枢機卿達は、何処か夢見心地な様子で、体を左右に揺らし始めた。
教王は、厳かに言葉を発する。
「そして、諸君に、実に喜ばしい知らせがある。
…本日、救世の法陣が完成した。
神より授けられた我等の使命、人々を救済に導くという信仰を、完遂する手段を得たのだ。
しかし、神は未だに我々に試練をお与えくださる。
救済の法陣は、その聖なる威を発揮するには、多くの血が必要となる。
そして、神は、悪魔に魂を売った、異端者の血を求めているのである。
故に余は、このシノドス、神の御意志を代弁する場で、聖戦の決意を固めたいと思う。
反対の者は、今直ぐこの場から立ち去るが良い。
賛成の者は、ただこの場に残るのだ。」
シノドスの会場。それを守る、大扉が開くことは、ついになかった。
皆が残ったのだ。
教王は、満足気に頷く。
「…これぞ神の御意志だ。我等ネルキア教会は、神聖にして正統なる教会は、今この時より、聖戦を宣言する!
聖騎士団は異端者を叩き斬り、神の名の下に、家の一軒、木の洞までも探し出し、例え泣き叫ぶ赤子であっても、迷うこと無く地面に叩きつけ、忌々しい悪魔崇拝者を討伐するだろう。
しかし、案ずることはない。彼等にとっても、それは救済なのだ。苦しき現世からの解放。その為の礎となることで、悪魔崇拝者の魂は浄化され、天国への道は開ける。
おぉ、神よ、貴方は何と慈悲深いのだろうか!
スペーロ! スペーロ!! スペーロ!!!」
その声に呼応するように、さざ波のように声が上がる。
「「「「「…スペーロ…スペーロ…スペーロ…」」」」」
天を振り仰ぎ、両腕を広げ祈る教王。その目はギラギラと輝き、耳まで達するかと思えるほどの笑みが、確かに其処には浮かんでいた。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




