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鬼の宴

作者: 蟻緋徒虹

 神宮祭。それは音無町で行われる祭りである。


 神宮祭は三つの町と幾つもの村が団結して始まったとされている。


 三つの町はそれぞれ北に位置する炎琵獅町、南に位置する空水町、東に位置する風鈴町と呼ばれている。


 そんな神宮祭でのとある出来事。


_________________神宮祭_________________


 少年は歩く。ワイワイと賑やかな声と、カランコロン、カランコロンと下駄のコロコロとした音が鳴り響く。


 青い着物を着た少年は、道の傍にある屋台を覗きながら神社に向かっていた。


 歩いている途中、ふと少年はお面を売っている屋台で足を止めた。お面屋で売ってあった一つのお面に目を引かれたのだ。


 そのお面は狐面の形をしていて、所々に剝がれかけの青や赤の漆喰が塗られていた。


 少年は売り物にならないようなお面を売っているのに興味が引かれて、屋台のおじいさんに聞いてみた。


 白髪交じりのおじいさんはこちらをちらりと見やってから、地面に目を向けてぼそぼそと語り始めた。


 おじいさん曰く、このお面は今は潰れてなくなってしまった町の守り神様をかたどっていると言ってくれた。


 少年はその話を聞いてなぜだか分からないがそのお面が無性に気になってしまった。


 結局少年はそのお面を買い、頭の上にのせてまた神社に向かって歩いて行った。


 徐々に人が多くなっていき、騒がしくなった道をするすると人の隙間を縫って歩いていく。そんな調子で進んでいると、少し古ぼけた神社の前についていた。どこか寂しく感じられ、おいて行かれたような雰囲気を醸し出していた。


 神社の周りに屋台は並んでおらず、不思議と人もあまりいなかった。


 ザァッと風が舞い、髪の毛が後ろに流れた。


その瞬間…。


世界の音が消えた。


 あんなにも交錯していた人々のざわめきも、下駄の音もなくなった。


 少年が不思議に思って振り返ってみたら、屋台の通りには誰もいなかった。


 再度神社のほうを向いてみると賽銭箱に腰かけた何かがいた。その顔は影のせいでよく見えなかったが、何か良くないものだとはなんとなくわかった。


 そしてその何かはこちらを幾ばくか見た後、賽銭箱からゆっくりと下りた。


 何かが地面に足をつけた瞬間、ガチャッと音が鳴り、その音に思わず後ろに半歩下がった。


 少年はさらに、その何かの顔を見て全身の血の気が引いた気がした。


 その何かは、額に赤い角をはやしていた。


 鬼だ…。反射的にそう考えてしまった。


 コスプレだったり、お面だったりするのだろう。そんなことも考えられた。しかし少年はなぜだかその時、これは本物の鬼だと感じた。


そして、逃げないと死ぬと分かった、分かってしまった。


後ろへと向かって駆け出した。それと同時に、後ろからもガシャガシャと音を立ててこちらに近づく音が聞こえてきた。


 恐怖で頭が真っ白になり歯がガチガチとなる。


 屋台の通りを走り抜け、とにかく神社の敷地から出ようと走る。


 そんな時、背中にひやりとした感覚が伝った。とっさに前へと身を投げ出す。その瞬間、ブオンという風が背中を押し出した。


 石畳の上で受け身をとると、狐面がカランと音を立てて石畳に落ちた。


 慌てて体勢を立て直し鬼を見ると、奴がいつの間にか持っていた刀が石畳に深々と突き刺さっていた。鬼は無造作に刀を引き抜き、またこちらへと構えてきた。


 また走ろうと地面に手をつけて立ち上がろうとした。しかしうまく力が入らない。


 少年は息を忘れて鬼を見つめた。間近で見た鬼は冷酷な顔をしていて、それでいてどこか悲しそうな表情が混じりあっていた。


 刀が振り下ろされる瞬間、石畳に落ちていた狐面が赤と青の光を放った。


 鬼は光に驚いた顔をした後、苦笑いをした。


 その瞬間、誰かに後ろから抱きしめられているような感覚に少年はなった。それはどこか懐かしいような気がするもので、稲穂のにおいが鼻腔をくすぐった。


 遠くの神社の方角から涼やかな鈴の音が鳴り響き、少年の視界は白に染まった。



 気が付くと、少年は鳥居の前に立っていた。神社の方角から重々しい鈴の音と、笙がぼんやりと聞こえてくる。


 まだ人が少なく閑散としている石畳の階段をぼんやりと見上げ、あれはだったのかと考える。


 夢だったのか…?


 そんなことを考えていると、カランっと頭から何かがずり落ちた。


 慌てて拾おうとかがんで、それを見た。


 少年が落としたのは赤と青の漆喰が綺麗に塗られた一つの狐面だった。


ーendー

久しぶりに書きました。

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