(好き)
(へへへへ・・・)
天井を見ながら、ヨウコの顔が徐々ににやけていく。
カコはうつむいたまま暗い表情で歩いている。
「ヨウコちゃん足が大丈夫?」
「へ?足ぃ?」
いきなり夢から現実に引き戻され、ヨウコが上ずった変な声を出す。
カコが微妙にたじろぐ。
「コホン」
咳払いをしたヨウコが軽く目を細める。
「大丈夫だよ。こうしているとねえ、まーね…。フフッ」
セリフの後半、ヨウコが子供らしい無邪気な笑顔になる。
「?」
「カコちゃんちに行く時は、柿をぎょーさん持ってくね!うちの柿、とってもおいしーんよ」
「わっ、楽しみ。今年はまだ柿、食べてないんだ」
(あっ…)
ヨウコがカコの髪にモミジが一つ、のっていることに気がつく。
「あははっ、モミジひっついてるよ」
「えっ、うそ」
カコが自分の髪を撫でるが、モミジが捕まらない。ヨウコが代わりに取る。
「お嬢さんは、随分おしゃれな髪飾りしてますねぇ」
ヨウコが、モミジからカコに視線をちらりと移し、半目でせせら笑う。
「も~」
カコが泣いているような、むすっとしているような変な顔でうなる。
「冗談冗談。でも、ほぉんに綺麗な紅の花みたいなモミジやけぇ、似合ってたよ」
「…もー」
カコが先ほどより小さな声で、照れたような呆れたような表情をする。
「なんで、そんなこと言うかなあ?ヨウコちゃん、時々男の子みたい。友達は大切にしないとダメよ」
「へぇ、へぇ」
ヨウコが片手の親指と一指し指でモミジをクルクル回しながら、生返事をする。
「はあ…」
カコが「言っても無駄か」と言いたそうにため息をついて、先に教室に入る。
ヨウコがカコの後ろ姿を見送って、廊下の窓に近づく。風で髪が揺れる。
ヨウコの口元がモミジで隠れている。
(カコちゃんとの時間は、大切な思い出だよ)
雨はもう降っていない。
モミジが風で飛んで行き、見えなくなる。
ヨウコが少し悲しそうに微笑み、静かに目を閉じる。
雨粒がのったツヤツヤな、柿が実った木がある。
その一つにひらりとモミジがのる。