ビニール傘
ヨウコが母の背中で寝たイツコを自分の背中に移動させ、薄暗い玄関へ向かう。
「よっと」
ヨウコがきちんと並べられた靴をまたいで、裸足のまま外へ出る。
「ちょっと、傘さして行きなさい!」
「大丈夫!それ、お母さんが使って!」
小学校は家から徒歩3分の位置に見える。
「雨雲様、急に土砂降りにしてくれるなよ~」
小声で言いながら、田んぼ道を早足に歩く。
(今日が冬じゃなくて良かった…。まあ、もうすぐ寒くなる時期だけど…)
ヨウコが泥で汚れた自分の足を見る。
去年の冬、雪をシャクシャク踏みながら歩く自分の足を思い出すと身震いした。
ヨウコの前で黒い車が止まと、ドアが開き、にゅっと靴を履いた足が出る。
「あっ、おはよー、ヨウコちゃん」
「おはよう…」
カコが花の模様がついたビニール傘を開く。ヨウコがわずかに目を見開く。
(わあー、ガラスみたい…。透明な傘ってあるんだ…。うちのボロ傘とは大違い。お金持ちはいいな…)
などと、ぼやぼや考えていると、急にバケツをひっくり返したような雨が降った。
「おわわわわわわあ~!」
「ギャー!」
ヨウコの声に驚いたイツコが泣き出す。
ヨウコが校舎へ走り出そうとすると、カコが傘に引き入れる。
「赤ちゃんがいるのに走るのは良くないよ」
「ごめん…」
「ははっ、別にとがめてはないよ?ご苦労様」