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第46話 帰りたかったら……

「えええ、うっそ!? 葉月、上手くない?」


 えぇ、ちょっといまのどうやったの、ねぇねぇ!? と興奮気味のおパさんが袖を引く。


「ええい、引っ張るな! 手元が狂うやろがいぃ!」

「おい、これは麦より上手いんじゃないのか?」

「うう、認めたくありませんが、そのようですね。動きに全く無駄がありません」


 夕食を終えた後、さっさと帰ろうとしたあたしを引き止めたのはケモ耳ーズだった。コントローラーを、ずずい、と押し付け、


「帰りたかったら、ぼく達を倒してからにするんだ!」


 なんて威勢の良いことを言って。


 つまりは、一緒にゲームしようぜ、ってことらしい。

 

 ゲーム? ゲームですって? このあたしに!?

 舐めちゃいかんよ、もふもふ共。あたしはね、自慢じゃないけど、謎解き要素さえ無ければ、ゲーム大得意なんだから。格ゲーだろうがシューティングだろうがどんと来いよ。縦スクロールでも横スクロールでも任せとけぃ!


 ちなみに、彼らが持っているソフトと言えば、あたしが生まれるずっと前に第一弾が発売された『マルコ・ビアンコの大冒険』シリーズの、『ハイパーマルコランド』のみである。しかも最新作ですらない。

 これは、修理職人であるマルコ・ビアンコというキャラを操作して、向かってくる敵をかわしたり、パワーアップアイテムで変身したりしながらゴールを目指す、という横スクロールアクションゲームだ。


 つまり、対決の要素は0。何をもって『ぼく達を倒す』なのだろうか。


 どうやらケモ耳ーズの中でこれをクリアしたのは麦さんだけらしく、おパさんと純コさんは中難易度の面で止まっている状態のようである。


「あたしこれ、めっちゃやり込んでるから。三十……いや、二十分で全クリ出来るからね」

「嘘だ! 麦だって二時間かかるのに!」

「葉月、さすがに二十分は不可能では!?」

「そんなの歓太郎だって無理だよなぁ?! なぁ、歓太郎?!」


 純コさんが後ろのソファで缶ビールを飲んでいる歓太郎さんにそう言うと、「ほぁ?」と気の抜けた返事である。あれ、神主さんってお酒OKなの? 飲んじゃ駄目なのはお坊さんだっけ? いや、お坊さんってマジでお酒駄目なんだっけ?


「俺だって出来るもーん」


 ごく、と喉を鳴らして、にひひ、と笑う。


「あれでしょ、はっちゃん。裏面出してワープするやつでしょ」

「そうそう。そんで、ぴょーん、って最終ステージの島まで飛んでさぁ」

「やっぱタイム競うよね」

「当然!」

「ちなみに、はっちゃんの最高記録は?」

「うーん、全盛期はね、確か十五分とかでいけたのよ。ただ、めっちゃ上手く行った時ね」

 

 でも、だいぶなまってるからなぁ、と首を回すと、ケモ耳達は、ぎゅう、と三人で固まって「なまってる……?」「あれで……?」「こっわぁ……」と震え出した。


「俺も……まぁそれくらいかなぁ」

「いまも?」

「いやー、さすがにいまはどうかなぁ」


 そう言いつつも、口はにんまりと弧を描いている。その笑みが腹立たしい。


「……勝負しようや、歓太郎さん」

「ふふん、望むところだ」


 下ろしていた長い髪を腕につけたシュシュでざっくりとまとめ、空になったビールの缶をテーブルに置く。ちなみにそのシュシュもパステルカラーのマーブル模様だったりする。アイテムがイチイチあざとい。それともアレか、元カノの置き忘れみたいなやつか!?


「ちなみに、俺が勝ったら何か賞品とかあったりする?」

「はぁ?」

「はっちゃんのチューが良いなぁ、俺」

「馬鹿じゃないの。駄目に決まってんだろ。死ね」

「残念、百歳まで生きる。仕方ないなぁ、そんじゃチューは諦めるけど……そうだなぁ、今晩お泊まりとか、どう?」

「んあぁ?!」


 嫁入り前の女が、こんな野郎しかいねぇとこにお泊まりとか、ふざけんな! と返したが、やだなぁはっちゃん、と軽くいなされる。


「客間もちゃんとあるしさ、別に襲ったりしないって。ただ俺はね? 純粋に寝起きのはっちゃんを見たいって言うかさ。とんでもない寝ぐせでさ、瞼が開き切ってない感じの、だるーんとしたはっちゃんを愛でたいって言うかさ。いや、ほんとはね? 俺の部屋着を貸したいよ? 大丈夫、ちゃんと洗ってはあるから。欲を言えばさ? そりゃあ一緒のベッドで寝たいさ。大丈夫、大丈夫だって、何もしない。そこはマジで耐えてみせる。意外と紳士なの、俺。ただね、こう、起きた時に? 俺の方を向いてよだれ垂らしながら寝てるはっちゃんの顔が見られたら最高っていうか腕枕くらいは良いでしょ? 全然俺の腕によだれ垂らしてくれて良いから、――って、あれ、聞いてる?」

 

 聞いてられるか! といそいそ帰り仕度に取り掛かる。


 えええ、お泊まりしてってよぉ、葉月ぃ、とおパさんが二の腕を掴んでくる。反対側――さすがに二の腕じゃなくて手首だったけど――は麦さんだ。そんで、一人あぶれた純コさんが、コントローラーを差し出してうるうると瞳を潤ませている。


「ぼく、絶対葉月お泊まりだと思ってお夜食の準備もしたんだよぉ?!」

「お客様用の寝間着も布団もちゃんと用意してますし!」

「おれらと夜更かししようぜぇぇぇ!」

「いや、そうは言ってもさ」


 畜生、一番の常識人(だと思いたい)慶次郎さんはどこに行ってしまったんだ! あいつ、黙々と飯食ったらさっさとどこかに行っちまったんだよなぁ。トイレ、にしては長いし、風呂かな?

 

 

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