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第41話 ヘタレ陰陽師は変われるのか?

 そんで、その絵本の効果は凄まじかった。何が慶次郎さん(二十三歳の大人)に響いたのかはわからないが、文句も言わずに食べるようになったのである。ただ、味を克服したわけではないため、眉間にシワは寄っていたらしいけれども。だけど、


「慶次郎が何も言わずに食べたよ葉月!」


 とおパさんが目をまん丸くしていたので、かなりの進歩のようである。

 


 そんなこんなで、専属太陽(あたし)のお陰かはさておくとしても、少しずつ彼は変わりつつある。


 ほぼほぼ気まぐれ営業だった『珈琲処みかど』を一日十組という人数制限付き(選り好みなし、先着順)ではあるが、通常営業に戻したのだ。例の『慶次郎さんにしか開けられない』しゅとやらを完全解除とまではいかないが、十組までOKみたいな条件付きに変えたのだという。すげぇ柔軟性あんじゃん。そんなこと出来んだ!?


 とりあえず午前と午後でお客さんを五組まで入れることにし、余程のことがなければすべて彼一人で応対する。フードメニューについても、おパさんが勝手に作った定食系以外は慶次郎さんが作れるやつなので、定食系を撤廃したメニューに作り直した。


「やだやだ、ぼくも作りたい! 葉月だってぼくのご飯食べたいよね? ね?!」


 と駄々をこねるおパさんは「だったら従業員の賄いで出してよ。あたしも食べるしさ」の一言で黙らせた。まぁあたしは従業員ではないんだけど、ほら、マネージャー的な?


「慶次郎一人で本当に大丈夫かよ。お冷係くらいはいた方が良いんじゃねぇの?」


 つまりおれとか、とちゃっかり自分をアピールしてきた純コさんは「それだと慶次郎さんのためにならないんじゃない?」と言ったら、すごすごと引き下がった。


「だけど慶次郎は整理整頓が下手ですからねぇ。片付けくらいは私が」


 とエプロンをいそいそと締めだした麦さんには、「だけど麦さんがしまったら上から降って来るじゃん」と指摘すると「それは……!」と言葉を詰まらせた。


 よし、うるせぇ式神どもは黙らせた。さぁ、これで助けは来ないぞ慶次郎さん! 一人で立派に店を回せ!


 などと言って送り出したものの、それでもやはり心配ではある。

 また升にコーヒーを淹れてしまうんじゃないか、とかではない。

 ちゃんと接客出来るか、だ。


 人数制限をしているとはいえ、おしゃれなカフェとなれば、お客の大半は意識高い系かキラキラ女子と決まっている(偏見)。『最近の日課はお気に入りのコーヒーを飲みながら自分磨き! ワンランク上の自分になるぞ!』みたいな呟きと共に青空の画像や自己啓発本を載せるか、『隠れ家的カフェ発見!イケメン店員さん激写~!』とか言ってバリバリのキメ顔の自撮り(さりげなく慶次郎さんも写ってる)を載せるか、とにかくそのいずれかの人達である(偏見)。


 従業員の画像をSNSに上げるのはやめてください、って貼り紙でもしとけば良かったかな、と式神達に言うと、どうやら彼らは彼らでそれどころではないらしい。いつお呼びがかかるかわからない、と、かっちりエプロン姿で耳と尻尾をピンと立て、きちんと正座までしてそわそわとスタンバイである。


 みかどが通常営業になり、慶次郎さんが一人で店に立つようになってから数日が経ち、あたしは二日ぶりに顔を出したわけなんだけど、どうやら彼らはずっとこの状態らしい。


「安心しろ、お前達!」


 ばばーん、と口で効果音までつけて登場したのは歓太郎さんだ。こいつ、隙あらば仕事サボってくんな。


「あれぇ、どうしたのさ歓太郎」

「神社のお客さん、いないんですか?」

「あれだろ、慶次郎に式神(お手伝いさん)出してもらったんだろ、さては」


 隅っこで横並びになり、きちんと正座をしている式神達をじぃぃと眺め、「あれ? お説教中?」と首を傾げた神主姿の歓太郎さんは、ケモ耳達の「違うよ!」「違います!」「んなわけねぇだろ!」の言葉に「なぁんだ」と言って、やぁやぁはっちゃん今日も可愛いねと愛想を振りまきつつソファに腰かけた。


 手に持っているのは、タブレット端末である。神主さんに似合わないアイテムベストテンに入るんじゃなかろうか。何か違和感がすごい。神主×タブレットの違和感に比べたら、彼の本日のピンが二段重ねのアイスクリーム(しかもチョコレートシロップがかかったやつ)なんて全然どうということはない。いや、嘘。それもかなりの違和感。こいつこれ系のピン一体いくつ持ってんだよ。


「可愛いは余計だわ。それより何。何持って来たわけ?」

「ふへへ、良いもの良いもの」


 そう言いながら、すいすいと画面を操作する。


 いそいそと式神達が集まって来ると、四人掛けのソファはぎゅうぎゅうだ。


「何? ゲーム?」

「はぁ? ゲームはあれがあるだろ」

「あれ全然クリア出来ないんだもん。ぼく、落ちゲーやりたい! 『ぷにぷに』やりたい!」

「だったらおれシューティングが良いなぁ。縦スクロールの。『虫()ずる姫』とか!」

「それなら私は歩く亡者をばっさばっさと斬るやつが良いです。『斬捨て5MEN』でしたっけ」

「待て待て待て待て。いつの間にそんな情報仕入れたんだ。お前らはまず『ハイパーマルコランド』やってろって」


 麦はともかく、おパと純コはまだクリアしてないだろ、と言うと、二人は揃って肩を落とした。


「そんで? ゲームじゃないのはわかったけど、結局何なの?」


 そう言うと、歓太郎さんは「まぁ見ててよ」と得意気である。ほい、という声と共に表示されたのは――、


「なぁんだ。(みかど)じゃん」


 何てことはない、珈琲処みかどの店内である。いわゆるあれだ。防犯カメラだ。防犯カメラというか、こちらの感覚としては、留守中のペットを観察するとか、隣室で寝ている赤ちゃんの様子が見られるやつとか、そういうのに近い。


「何だとか言わないでよね。設置するの大変だったんだから」

「大変って?」

「え? 慶次郎にバレないようにさ」

「慶次郎さんに内緒でつけたの?!」

「うん、だって俺、オーナーだし」


 へへん、と胸を張ってるけど、それってつまり盗撮だからな?! おい、このお兄ちゃんとんでもねぇぞ慶次郎さんよ!


「だって、見られてるって思ったら、慶次郎のことだから、こっちが気になって仕事どころじゃないだろ?」

「ま、まぁ……一理あるけど」

「でも、ぼくら、慶次郎がピンチの時はわかるよ?」


 こんなの見なくたってねぇ、とおパさんが振ると、残りのケモ耳も「当然」といった顔で頷く。そりゃそうだろう。何せ彼らはそのようにして現れたのだから。こないだの初めてのお遣いの時はGPS(文明の利器)に頼ってたけど、基本的にはやはり精神的な繋がりがあるのだろう。


「お前らだけわかってもね? はっちゃんだって気になるよねぇ?」

「えっ、ま、まぁ……、気にならな……くはないかな? うん」

「でっしょぉ~?」


 ふっふー、さっすが俺! とどや顔をキメているのがまた腹立だしい。

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