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第28話 令和の陰陽師は洋服って言ったじゃん!

「いや、噓でしょ……」

「嘘ではないです」

「じゃあ、夢? 幻?」

「あの、現実、なんですが」


 慶次郎さんは十四分三十秒ほどで戻ってきた。十五分って言ったけど、よくよく考えたら、たぶんあの裏の神社の方に住んでるんだよね? てことはあの石段を往復するわけだ。いや、どう考えてもそれだけで十五分以上かかるんだけど。


 この人実は意外とスポーツマンなのか……? 違うな、きっと何かしらの力を使ったのだろう。


 まぁ、それは良いとして、だ。


 問題は慶次郎さんの恰好である。

 彼がどんな姿で現れたか。


 いや、あたしもね?

 言うても、あたしもですね?

 そりゃあ褒められた恰好ではないですよ。

 男物のTシャツにジーンズ、さらにはサンダルだし、よくよく考えたらノーメイクだしね? だけど。だけどさぁ。


「フツー、街に出るっつってんのに、高校時代のジャージで来る?! それ着て良いのは現役高校生と寝る時だけだわ!」

「だ、だって、これくらいしか!」

「アンタさっき陰陽師でも私服は洋服ですって啖呵切ってたやろがい!」

「じゃ、ジャージも洋服です!」

「そういうことじゃねぇんだよ! これならいっそそのカリギヌ? とかいうやつで来いや!」

「嫌です! 悪目立ちします!」

「悪目立ち度合いなら高校ジャージ(これ)も負けてねぇんだよ!」


 視界の隅で、式神達が「あちゃー」みたいな顔をしているのが見える。彼らは固まって何やらひそひそすると、同時に頷いて、ぽん、と消えた。あれ、どこ行ったんだろ。


 いやしかし、どうする。

 さすがに二十三の男は高校生に見えないし。見えたとしても、何、あたしの弟とかそういう設定で行くわけ?


 腕を組んでうんうん唸っていると――、


「どうやら俺の出番のようだな」


 ふっふっふ、と不敵な笑みを浮かべて、歓太郎さんが現れた。その後ろには、呼んできました、みたいな表情で敬礼しているケモ耳達がいる。よし、でかした! 


 と言いたいところだけど、結局この人も和装男子じゃん、ある意味? えー、大丈夫なの? これで駄目ならマジで濃茶色の着流しだからな?


「いつか慶次郎にもこんな日が来るんじゃないかって思ってさ、俺、準備してたんだよ」


 へへ、と鼻をこすりながら、手に提げていた紙袋を渡す。優しい兄の言葉に慶次郎さんは「歓太郎……!」と瞳を潤ませて声を詰まらせた。いや、ちょろすぎない? 歓太郎さん笑いを必死に堪えてるけど?


「着替えてこい、慶次郎! 頑張れ!」

「わ、わかった!」


 と、そんな茶番を経て、慶次郎さんは店の奥へと駆けて行った。いや、何を頑張るの? その姿が消えたのを見計らって、「歓太郎さんよ」と声をかける。


「うん? 何?」

「ちゃんとしたやつなんでしょうね」

「何、ちゃんとしたやつ、って」

「その、センスっていうかさ。あたし、歓太郎さんの私服とかも知らないから、めっちゃ怖いんだけど」

「だぁーいじょうぶ、大丈夫。俺、いまでこそこんな恰好してるけどさ、学生の頃はそれはそれはイケてたんだから」


 ぐふ、と胸を張るが、このあざとい系ウサギピン男はどうにも信用出来ない。すると、麦さんが「歓太郎はおしゃれですよ」と割り込んで来た。


「そうなの?」

「そうです。何かこう……いろんな色の服を着てましたから」

「いろんな色の……服?」


 いろんな色=おしゃれとは限らないのでは?


「そうそう」


 と今度はおパさんが口を挟んでくる。


「あのね、あの、てるてる坊主みたいな感じのやつね。あれ、ぼく好きだなぁ」

「うん? てるてる坊主? マントってこと?」


 いろんな色のマントって何? 変質者?


「あーあれな」


 はいはい、と言いながら純コさんも参戦である。


「裾にあの、何て言うんだ、数珠の先っちょみたいなふさふさがいっぱいついててな。あれ良かったなぁ、くらげみたいで」

「ちょ、何? どんな服?!」


 全然想像つかんのですけど?! そんでそれを褒めちぎってるけど、ここの人達の感性大丈夫!?


「え? ポンチョだよ、ポンチョ」

「あー、なんだポンチョか。はいはい、あのメキシカンな感じでバンジョー弾いてる感じのあれね」

「メキシカンでバンジョー、ウケる。はっちゃんのイメージはそんな感じか。まぁ、一枚あると便利だよ? 着ないやつあげようか?」

「いや、いらん! えっ、それじゃ何、慶次郎さん、そんなご機嫌なメキシカンでタコスでバンジョーな感じの恰好で来るってこと!?」

 

 ちょっといきなりそれはどうなの!?

 歓太郎さんのキャラならまだしも、慶次郎さんだよ?! そんなの大火傷でしょ!


 慶次郎さん、罠だ! 着るな――――!


 もうこうなったら濃茶着流し一択だ、と走り出そうとしたところで、カウンターの奥にある部屋から、慶次郎さんが、ひょっこりと現れた。意外にも、ただの白Tシャツのようである。な、なんだ……。


 ただの白Tシャツだとしたら「こんな日が来るんじゃないかって思って用意した」とか大袈裟過ぎんか、と思うところだが、きっとそれすらも慶次郎さんには難しいことなのだろう。まぁ、これならギリギリ大丈夫――……


「――じゃない!」

「うわぁ、どうしました、はっちゃん」

「歓太郎さんてめぇ! やっぱりふざけてんじゃねぇか! 何だこのTシャツ!」

「え? 良いでしょ? ネットで買ったやつなんだけどさぁ。サイズ大丈夫だろ、慶次郎?」

「うん、ぴったりだよ。ありがとう歓太郎」

「いや、のんきに礼言ってる場合じゃないから! これはありがとうじゃねぇよ!」

「え? 何がです?」


 首を傾げつつ、ゆっくりと近付いてくる。カウンターで隠れていたボトムスの方はというと、無難なネイビーのスキニージーンズだった。和服の時はわからなかったが、予想通りに細くてまっすぐの美脚である。ちくしょう。


 いや、白Tにスキニージーンズってだけなら、もう全然百点だったのだ。ちょっと飾り気がないのは事実だし。人によってはかなり危険なコーディネートではあるものの、このスタイルと顔ならば、全然問題はないのである。海外セレブの私服って案外こんな感じだし。


 が、それは、例えばそれが無地だったりした場合である。


 少なくとも、胸の辺りにでかでかと、『発光バター』と書かれているネタTシャツではない。その横には下ッ手くそなバターの絵まで描かれている。ご丁寧にぴかぴかと光ってるし。発光してんじゃねぇよ。看板に偽りなしか貴様。


「おお、見違えましたね慶次郎」

「すごい! いまどきの若者みたいだね!」

「うんうん、それっぽいそれっぽい」


 甘やかすなお前達!

 見違えてねぇし! ある意味いまどきの若者はこんなネタTも着るけども! そんで何だ、それっぽいって何だ! 何っぽいんだ!


「そうかな?」


 そんで慶次郎さんも「そうかな?」じゃねぇんだよ! もういっそ一周回っておしゃれに――見えねぇよ! ほら、歓太郎さんもめっちゃ笑ってんじゃんか! やっぱりこいつ狙ってやってんじゃん!


 もう良い! 行くぞこれで!

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