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気を失ってしまったのね

「ミサ? ああ、よかった。気がついたのね」


 オリーは椅子に座り直すと、わたしの両肩をがっしりつかんで起き上がるのを手伝ってくれた。それから、激しく揺すり始めた。


「え、ええ、ええ」


 上半身が激しく揺らされる中、そう答えるのがせいいっぱいだった。


「気を失ったままだったのよ。もう目を覚まさないかと心配で心配で」

「オリ―、心配をかけてほんとうにごめんなさい」


 彼女の手が止まった。頭がクラクラするのをガマンしつつ、そう謝った。


「また謝る。謝らなくってもいいって言ったでしょう? とにかくよかったわ。それで、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。オリ―、あなたがついていてくれたお蔭よ」

「ローマン様がついていてやってくれ、と」

「ローマン様が?」


 そう。わたしは、ローマン様の前で倒れたのだ。


 一瞬、倒れる直前の光景が脳裏をよぎった。


 恐怖がぶり返し、無意識の内に両腕でわが身を抱きしめていた。


「ミサ? ねぇ、ほんとうに大丈夫?」


 オリーに何度目かに尋ねられ、首を縦に振って大丈夫だと示した。


 まったく大丈夫には見えないかもしれない、と思いつつ。

 

「ローマン様、なにかおっしゃっていた?」

「言葉に出してはなにも。だけど、すごく心配そうだった。ねぇ、ミサ。言いにくいんだけど、あなたの体の痣って、家族にぶたれたとかなにかよね? ごめんなさい。夜着に着替えさせたときに見てしまったの。その痣を見て、ローマン様が言ったことに合点がいったの」


 そう言われ、自分が夜着を着用していることに気がついた。


「オリ―、あなたが着替えさせてくれたの? ごめんなさい。大変だったでしょう?」

「だから、謝らなくてもいいってば。っていうか、そこじゃないでしょう?」

「ごめんなさい。つい」

「また謝る」


 二人の視線が合うと、どちらからともなくふきだした。


「それで、あなたはムチでぶたれたわけ? ローマン様にじゃないわよ。家族にって意味よ」


 ひとしきり笑った後、オリ―が表情をあらためて尋ねた。


 無言で頷く。


「ずっと? 小さな頃から? だからムチが怖いのね?」


 また無言で頷く。


「ミサ、あなたの屋敷はどこ? 王都のどの辺にあるの? ほんっとムカつくわ。すぐにでも乗り込んで、あなたの家族をひとりずつぶっ飛ばしてやりたい。まず、ぶっ飛ばすの。それから、顔を踏みつけながら罵倒して、最後にムチでぶつの」

「オリ―、ごめんなさい。また、言ってしまったわ。ごめんなさい。とにかく、不愉快なものを見せたりきかせたりして申し訳ないと思っている。でも、ムチでぶたれたのはわたしのせいなの。わたしが悪い子だったからよ。言いつけを守れなかったり、頼まれたことが出来なかったり。だから、ぶたれて当然なの」


 オリ―は寝台の上に飛び乗り、なぜか正座した。そして、わたしの両手首を痛いほど握りしめた。


「違う。あなたは、思い違いをしているのよ。あなたの家族のあなたへの仕打ちは、ムチだけのことじゃない。すべての仕打ちがふつうじゃない。おかしいのよ。すごくおかしい。あなたは、洗脳されているだけ。目を覚ましなさい。あなたは、家族があなたにしてきた数々の非道を認めなくてはならない。このままでは、あなたは一生ビクビクしながら生きていかなくてはならない。他人に異常なまでに気を遣い、謝ってばかりするような人生を歩まなければならない。人生って、そういうものではないわ。もっと楽しまなくては」


 彼女は、肩で息をするほど興奮している。


 わたしのことについて熱弁してくれているのに、かんじんのわたしは他人事のようにきいている。


 彼女の言うことがよくわからない。


 それが、いまのほんとうの気持ち。


 わたしのことより、ローマン様のことが気がかりで仕方がない。


 突然気を失うような失態をしてしまい、きっと不愉快だったに違いないでしょうから。


 それから、ムダに心配をかけてしまったから。 


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