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わたしは悪い子

 いつも申し訳なく思っていた。だから「ごめんなさい」とか「申し訳ありません」と、ぶたれながら何度謝っても許してもらえなかった。それが口癖になるほど謝り続けた。許されることは一度もなかった。どれだけ謝罪をしようと、わたしをムチ打つ手は絶対に止まらなかった。


 そうされて当たり前なのだ。わたしが悪い子だから、わたしが悪いことや粗相をしたから、ムチでぶたれて当たり前なのだ。両親も姉も、悪い子のわたしを泣く泣くぶっている。わたしをいい子にしてくれる為に、ムチを握る手を痛めてでもぶってくれている。


 そういうふうに考えるようになった。いつの頃からかはわからないけれど。


 ムチでぶたれることは、朝起きて夜眠ることと同じこと。


 なくてはならない、いわばルーティンのようなもの。


 だったら、いかに痛みを軽減させるか、あるいは感じなくなれるか。体と心に負担をかけない方法をいろいろ考え、ぶたれ始めるとそれを実践してみた。しかし、どれもこれもうまくいかなかった。何十通りの方法を考えだし、そのすべてが効果がないとわかったとき、シンプルに諦めた。それに、その頃にはぶたれ慣れすぎていて感覚が麻痺してしまっていたこともある。


 しかし、体も心も正直である。ムチを見るとどうしても子どもの頃からの恐怖心がぶり返す。怖くて怖くて体が動かなくなる。心も頭も恐怖心に占領されるだけで、それ以外なにも考えたり思い浮かんだりはしない。


 だけど、それもすべてわたしのせいなのだから仕方がない。


 そう諦めている。いつもそのように諦めている。


 

 体が重い。


 まるでなにかに押しつぶされているような、そんな感覚にハッと気がついた。


 薄暗い。だけど、見えないわけではない。部屋にいて、室内は白く光っている。その光は、灯火によるものではなくて月の光であることがなぜかわかった。


(わたしの部屋?)


 一瞬、思い出せなかった。なにもかも。


 思い瞼を何度か開いたり閉じたりしながら思い出そうと試みる。あいかわらず体が重い。


 とりあえず、わたしはいま自分の部屋の自分の寝台に横になっていることはたしか。


 ローマン様の屋敷にやってきてから、屋敷内の部屋を使わせてもらっている。それはわたしだけでなく、ヨハンさんやオリーたち使用人全員が住み込みでいる。


 部屋にはちゃんと寝台と机と椅子とクローゼットと本棚まであり、窓からは牧草地が見渡せて快適にすごせている。


 実家にいた頃は、地下にある物置小屋ですごしていた。そこにある木箱を並べ、捨てられた毛布をかぶせ、違う毛布を体に巻いて寒さをしのいだりしていた。窓はなく、換気口もない。ロウソクの短くなったのを集めておいてそれを灯りに使っていたが、ロウソクに限りはある上に換気にも気を遣わねばならなかった。


 そういうことを思えば、いまのこの部屋は夢のような部屋である。


 その部屋の寝台の上に横になっている。


 だけど、いつものように夜になって就寝したという記憶がない。


 思い出そうと必死に記憶の糸をたどっていてやっと気がついた。体の重みの正体を、である。


「オリー?」


 おもわず声をだしてしまった。


 わたしの体の上にオリーがのっている。


 彼女の規則正しい寝息が、静寂満ちる室内にゆっくり流れていく。


 いままで眠っていたはずなのに、その寝息をきいていると猛烈な睡魔に襲われてしまった。


 瞼を見開き、カツを入れる。


 すこしだけスッキリした頭で思ったのは、オリーが風邪をひいてしまうのではないかということ。


 上半身になにか羽織るものでもかけてあげないと。


 だけど、彼女の体がわたしの体の上にのっかっている。つまり、身動きがとれない。というか、動こうと思えば動けるけれど、それだと彼女を起こしてしまう。


 どうしたらいいものかと考えあぐねていると、不意に彼女がガバッと跳ね起きた。


「キャッ」


 驚きのあまり小さく悲鳴を上げてしまった。


 同時に思い出した。自分の悲鳴で思い出したのである。


 わたしの身になにがあったのか、を。



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