お茶の時間 2
「ほら、クルト。いまのミサの言葉、きいたでしょう?」
「ミサはやさしいからね。当然、きみの言うことを肯定するよ」
「うるさいわね。うるさい人は、こうなるのよ。ミサ、口を開けて」
「ちょ、ちょちょちょ、待てよ……」
彼女は、クルトさんの分のクッキーを両手でつまみ上げた。それから、彼が止める暇もなく左手のクッキーは自分の口に放り込み、右手のクッキーを彼女に言われて反射的に開いたわたしの口に放り込んだ。
「ひどいじゃないか。ジンジャークッキー、おれの大好物なのに」
クルトさんは木製の椅子から立ち上がり、文字通り地団駄を踏んだ。
「ふんっ! レディをバカにした天罰よ。あら、もう時間ね。ミサ、行きましょう。洗濯物を取り込まなきゃ。仕事は、たーくさん残っているんですもの」
オリーは口惜しがるクルトさんを見向きもせず、全員のカップとお皿を回収して屋敷へと歩き始めた。
「クソッ、なんだよもうっ!」
悲し気にうなだれているクルトさんが可愛すぎる。
彼は、いつもオリーにおやつを奪われてしまうのである。
「クルトさん、がんばって」
自分でもなにをがんばって欲しいのかわからないまま、とりあえずそれしか思い浮かばなかったらそう声をかけた。
それから、オリーを追いかけようと振り返った。
視線を感じる。最近、つねにだれかに見られている感じがする。いまも、ここでお茶をし始めてからずっと感じていた。
根拠はないし、ましてや確信しているわけでもない。だけど、たしかに見られているという感覚に襲われている。
駆けだす前、屋敷を見た。
すると、二階の一室のガラス扉でなにかが動いたような気がした。
気のせいかもしれない。もしかすると、カーテンが揺れたのかも。
しかし、その部屋のガラス扉は開いてはいない。だから、カーテンが風で揺れることは考えにくい。
ガラス扉の外側、つまりテラスに人影はない。ということは、内側にだれかがいたということだけど……。
しかし、その部屋の主がわたしを見ているわけがない。でも、見張っているとすればありえるかもしれない。それでも、彼がそんなことをするわけはない。そもそも、彼はわたしにかかわることじたい拒否しているのだから。
視線を感じる部屋の主は、ローマン様なのである。
彼のメイドとしていろいろ世話を焼こうと試みているけれど、いまだにすべてを拒まれている。それどころか、睨みつけられたり怒鳴られたりする始末。
それでもなお、わたしはめげずにチャレンジしているのだけれど。
わたしは、なぜか彼が怖くない。睨まれても怒鳴られても、なぜか彼に恐怖心を抱けないでいる。
それはともかく、とにかくローマン様がわたしを見ていたり見張ったりする理由はない。
やはり気のせいよね。
そう結論付けることにした。
もう一度ローマン様の部屋を見ると、ふっきるように頭を振ってからオリーを追いかけた。