街でおおいに楽しむ
「いや、ちょっと待ってくれ。それはまだはやい……」
「ローマン様と花嫁様がよろこんでくださるよう、趣向を凝らしますので楽しみにしていてください」
「さっそくアレンス司祭に相談しよう」
「これから忙しくなるぞ」
ローマン様が慌てているのもかまわず、街の人たちはさらに盛り上がっている。
ようやくドレス店に入ることが出来たけれど、そこでも店主夫妻にチヤホヤされた。
一着でいいと何度言っても、ききいれてもらえなかった。
フォーマルドレスやカジュアルドレスは、オーダーメイドで購入してくれた。それらだけではない。シャツやスカート、さらには乗馬服にいたるまで既製品やオーダーメイドで購入してくれた。驚くべきことに、靴やバックや装飾品まで揃えてくれた。オリーの分とともに。
揃い次第、屋敷まで届けてくれるという。
採寸や試着が終わったときには、お昼をとっくの昔にまわっていた。
それから、街でお昼ご飯を食べることにした。
すごく美味しい食堂があるということで、連れて行ってもらった。
道行く人たちと会話を交わしたり、紹介してもらったりしながらやっと食堂に到着した。そこでもやはり、お客さんや店主夫婦に大歓迎された。みんながワイワイと話をしているのをききながら、名物のウサギのシチューを堪能した。
美味しすぎる。
ルディさんの美味しい料理のせいで大食漢になってしまっている。
今日もシチューとパンとサラダをペロリと平らげてしまった。
「きみは、ほんとうにしあわせそうに食うな。おれまでしあわせな気分になる」
ローマン様は、ガツガツと食べるわたしをジッと見つめていた。呆れ返っているらしく、ポツリとつぶやいた。
「申し訳ありません。こちらの料理もルディさんの料理に負けず劣らずとても美味しいものですから、ついつい必死に食べてしまいました」
「いや、いいんだ。これだけ旨そうに食ってくれたら、連れてきた甲斐があったというものだ」
「ローマン様は、いつもこのウサギのシチューですものね」
「オリー、きみも知っているだろう? このシチューだけは、ルディでも真似出来ないからな」
「ですよね? ローマン様におごってもらっている分、余計に美味しい気がします」
「だろうな」
オリーのあけっぴろげな発言に、ローマン様と顔を見合わせて笑ってしまった。
食後、四人で街をブラブラした。教会や学校や病院や公園、それから市場などをまわった。
どこに行っても、ローマン様の人気はすごすぎる。
そして、だれからも謎の祝福を受けている。
婚儀ときいて、ふと思い出した。
そういえば、わたしはお姉様の身代わりで嫁いできたのだった。
ということは、街の人たち、というよりかは領地内の人たちは勘違いしているのかしら?
だったら大変。
ローマン様がお姉様と結婚すると思い込んでいる。それは間違いなのだと、事実ではないのだと正さなくては。
途中からそのことが気になって仕方がない。ローマン様に何度も告げようと試みてみたけれど、街の人たちの盛り上がりに負けてしまってなかなか告げることが出来ない。
結局、夕方になって帰路についた。
二人きりになったら告げよう。
そう思っていたけれど、帰りはオリーがいっしょに馬車に乗ると言い出した。夕方になって気温が急激に落ちてしまっている。だから、馭者台では寒くてたまらないのだとか。
オリーと並んで座り、向かいの座席にローマン様が座った。
しばらくは三人で話をしていたけれど、今日一日歩きまわったのと街の人たちに囲まれたり声をかけられたりとして緊張のし通しで精神的に疲れてしまった。それに加えて馬車の揺れが心地よく、ウツラウツラしてしまった。
隣を見ると、オリーは上半身を横に倒して座席に置いてあるクッションに埋もれて眠ってしまっている。
「ミサ、こちらにきておれにもたれるといい」
ローマン様に手をひっぱられ、そちらの座席に移った。
ローマン様に肩を抱かれ、そのまま彼にもたれかかる。
わたしの肩を抱くローマン様の腕があたたかい。
なにより、やさしさに溢れている。
いつの間にか瞼を閉じ、眠ってしまっていた。
そうして、楽しい一日が終わった。




