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ローマン様と食事をすることに

「あー、オリー。ありがとう。あとはミサにやってもらうから、きみはさがってくれていい。きみもヨハンたちといっしょに食事をしたまえ」

「なぜですか? ミサも食事をするのです。メイドとしては完璧なミサでも、食べながら給仕は出来ないと思います。それに、応援しなければならないのです」


 オリーは、なぜか得意満面に説明した。


「ミサは、たしかに完璧だ。それに、食いながら給仕は出来ない。だが、すでに彼女が準備してくれていてこれ以上追加は必要はない。食器は、食って終ってから下げれば充分だ。したがって、給仕は必要ない。というか、応援とはどういう意味……」

「オリー、いい加減にしないかっ!」


 ローマン様が怪訝そうに尋ねかけたタイミングで、ヨハンさんが食堂に飛び込んできた。


「ローマン様、ミサ。失礼いたしました。どうぞごゆっくりお召し上がりください。さぁオリー、行くぞ」

「でも、ヨハンさん。わたしは、応援しなきゃ」

「だから、もういいから」


 ヨハンさんは、文字通りオリーをひきずり始めた。


「ローマン様、ミサ、応援しているわ。がんばってねぇぇぇぇっ」


 彼女は、ヨハンさんにひきずりだされながらずっと声援を送り続けていた。


「その、なんだ。オリーもかわっているな」

「ですが、とても面白くていつも元気をもらっています」

「ああ。それはいえている」


 テーブルは、それほど大きくはない。


 それぞれ六席ずつある長いテーブルで、食事は向かい合わせに準備しておいた。もちろん、ローマン様の指示である。


 夕食のメニューは、いつも通り質素である。今夜は、魚を揚げたものを酢漬けにしたものと野菜たっぷりのスープ。それから、三種類の焼き立てのパンとチーズ。どれも美味しくて食事が進む。


 食事中、会話が弾んだ。ローマン様もわたしも、食べることと喋ることときくことに忙しかった。


「やはり、だれかと食事をするのは楽しいな」


 ローマン様は、何度もそう言っていた。


 それがつくづくという感じで、とてもしあわせそうに感じられた。


 その様子を見ると、わたしもしあわせな気分になった。




 この夜、生まれて初めて葡萄酒をいただいた。とはいえ、ほんのすこしだけである。


 食後、ルディさんは特製のチョコレートをデザートとして準備してくれていた。


 それを、居間でいただくことにした。


 その際、ローマン様が葡萄酒を勧めてくれた。


 葡萄酒というよりかは、お酒そのものが初めてなので不安だった。しかし、ローマン様のお役に立とうと挑戦してみることにした。


 ふんわり体が浮くような感覚に驚くやら気持ちがいいやらで、グラスに半分ほど飲み終わったときには可笑しくて可笑しくて笑いが止まらなくなった。


 と、そこまでは記憶がある。


 たしかに、可笑しくて可笑しくてゲラゲラ笑っていた記憶があるにはある。


 だけど、それ以上のことは覚えていない。


 驚くべきことに、というか不可思議なことに、それ以降の記憶がまったくない。


 ハッと気がついたとき、わたしは横になっていた。


 自分の部屋の自分の寝台の上にいた。


 そうか。いままでのは夢だったんだ。


 早朝の独特の空気を頬に感じつつ、ボーッとした頭でそう結論付けた。


 いつものようにローマン様を起こしに行った。


 すでにローマン様は起きていて、しかも身支度も終わっていた。


「ああ、ミサ。大丈夫か? ほんのわずかな葡萄酒で酔い潰れてしまったからな。酒が初めてのきみには、あの量でもすぎたに違いない。悪かった」


 ローマン様に謝罪され、夢でなかったのだと悟った。


(だったら、いったいどういうこと?)


 いまのローマン様の言葉を頼りに、頭の中で必死に思い出したり推測を試みた。


 昨夜の途中から記憶がなく、気がついたら自分の寝台で眠っていた。ということは、葡萄酒で眠ってしまってローマン様が運んでくれたに違いない。


 前回ローマン様といたときに気絶したときとは違い、さすがに服は記憶がなくなったときのままだった。


 よかった。服までかわっていたら、恥ずかしさと申し訳なさでどうにかなってしまうところだった。


 ある意味ホッとした。


「も、申し訳ありません」


 ローマン様に謝罪した。


「謝る必要はない。だが、どうやら大丈夫そうだな」


 ローマン様は、シャツのボタンを留める手を止めてこちらに振り返った。


「先程も言った通り、きみが酒じたい初めて飲むということを知っておきながら飲ませてしまったのだ。おれが悪い。おれも、まさかきみがグラスの半分で酔いつぶれてしまうとは思いもしなかったからな。それはともかく、葡萄酒は美味くなかったか? あるいは、不快だったとか気に入らなかったか?」

「いいえ、そういうことはありません。正直なところ、味は美味しいのか不味いのかわかりません。ですが、すごく気持ちがよかったです」

「どうやらきみは、酒に弱いだけでなく笑い上戸のようだ。酔い潰れる前までひたすら笑っていたよ。もっとも、飲んで暴れるよりかはずっといいがな。不快でなかったのなら、すこしずつ飲む練習をするといい。慣れれば、多少の量なら酔い潰れずに飲めるようになるかもしれん」

「はい、ローマン様。ですが、お酒はわたしには贅沢だと思います」

「ムリには勧めんが、酒はときにはいい気分転換になる。もちろん、酒もすぎればよくないがな。おれ自身、それほど強いわけではない。しかし、ときどき飲みたくなる。そういうとき、きみに付き合ってもらえれば楽しく飲めるかもしれない」

「食事と同じですね。承知しました。それでしたら、がんばって飲めるようになります」

「ハハハッ。がんばって飲めるように、か」


(ローマン様、最近よく笑ってくれる)


 ローマン様の笑顔は、見ていてとても気持ちがいい。


 わたしまで、つられて笑顔になってしまう。



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