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ローマン様の変化

「ほんとボロボロよね。伯爵令嬢の手だなんて、だれも思わないわ」

「オリー、やめろよ」

「うるさいわね、クルト。ほんとうのことじゃない」

「それはそうかもしれないが、もっとこうやわらかくとか遠まわしにとか言えないものかね」

「ムリよ。それがわたしだから」


 オリ―は、そう言って肩をすくめた。


 クルトさんは呆れ返っているけれど、いまのオリ―の「それがわたしだから」という表現は彼女らしかった。だから、つい笑ってしまった。


「すまなかったね、ミサ。ローマン様からきいて驚いたよ。まさか、きみたちレディ二人が荒れ地の整備を考えてくれていたなんて思いもしなかったから。だけど、もうやめて欲しい。ああいう力仕事は、わたしたち男性の仕事だから」

「ヨハンさんの言う通りだ。ケガをしてしまったら大変だ。なにより、きみたちになにかあったらローマン様が気に病んでしまうだろう」


 ヨハンさんとルディさんに注意されたので、また謝ってしまった。


「申し訳ありません。ローマン様からもきつく注意をされました」

「いや、ミサ。それは、注意ではないよ。もちろん、わたしたちも注意をしているつもりではないのだが。気持ちはうれしい。だけど、やはりあれは力のいる仕事だからね」

「レディだって力はあるわよ。ミサは、それを証明したかっただけ」

「オリ―、まるで他人事じゃないか。きみがミサを誘ったんだろう? それを彼女一人にやらせて、きみは呑気に屋敷でひと休みして……」

「クルト、失礼なことを言わないでちょうだい。わたしたち二人分のお水を井戸に汲みに行く途中にローマン様に会ったのよ。そうしたら、ローマン様がなんと言ったかわかる? 『おれが行くからきみはもういい』って言ったのよ。だから、二人の邪魔をしちゃ悪いと思っただけ。お邪魔虫は、屋敷でいじけていたわけ。だから、ミサをほったらかしにしていたとかではないわ」

「なんだって? ローマン様がそんなことを?」


 オリ―の説明にみんながざわめいた。


 ヨハンさんとルディさんとクルトさんは、三人で顔を見合わせている。


「ローマン様もようやくって感じかしら? あれだけミサが献身的にお世話をしているんですもの。気になって当たり前よね」

「オリ―、いい加減なことを言うのは控えた方がいい」

「ヨハンさん。ヨハンさんだってローマン様がはやく立ち直って奥様を迎えた方がいいでしょう? 違う?」

「そ、それはそうだが……」

「でしょう? だったら、わたしたちはなにをすればいい? 応援よ。ローマン様とミサの応援をするのよ。というわけでミサ。わたしたち、あなたたちの応援をするわ。全身全霊をもってね。だから、心おきなくローマン様にぶつかって散りなさい。いいわね」

「はい? ぶつかって散る?」


 オリ―の言うことが謎すぎるわ。


「オリ―、なんてことを言うんだ」

「そうだぞ、オリ―」

「いい加減すぎる」


 ヨハンさんとルディさんとクルトさんが同時に叫んだ。


「しかし、なんだな。オリ―の言うことはまったくの見当違いではない。ローマン様のしあわせを望むのなら、たしかにチャンスをいかすべきだ」


 ヨハンさんのつぶやきに、ルディさんとクルトさんとオリーが大きく頷いた。


 ただ一人、わたしだけが置いてけぼりにされている。


 わたしだけが、なにがなにやらわからないでいる。


 どういうことかわかる日がくるのかしら?




 ローマン様の前で倒れてしまった頃から、彼の態度がすこしずつかわってきた気がする。


 朝のルーティンでも、以前ほど不愛想ではなくなった。なんと、会話を交わすようになったのである。ぎこちなく、ではあるけれど。


 いままでは、わたしが一方的に話しかけていた。だから、独り言みたいな感覚だった。わたし自身それでもよかった。返事がなかったからと、勝手に落ち込んだり残念だったりということはなかった。もちろん、返事があって出来れば言葉のやり取りがあった方が楽しいに決まっている。しかし、ローマン様の性格なら、過度に期待する方が違っている気がする。だから、気にしなかった。


 それが、いまは違う。


 いったん会話らしきものをするようになると、ローマン様はやさしく気遣い抜群で、なにより面白くて話題豊富な方だということがわかった。


 ヨハンさんやルディさんやエルヴィスさんやクルトさんとたいしてかわらない。特別な人ではなく、ましてや「怪物公爵」などでもない。


 ほんとうにふつうの男性だった。


 楽しく会話を交わしながら、一方で彼がなにかを怖がっているらしいと感じた。怖がっているというか、臆病というか、とにかくそういう恐怖心のようなものを彼から感じる。


 この朝、いつものようにお喋りをしながらローマン様の身支度のお手伝いや室内の掃除をしていた。


 洗面台を磨こうとしたけれど、この朝は本格的に磨きたかった。だから後回しにすることにし、先にベッドメイクをしておこうと思いついた。いつものルーティンとはじゃっかん異なり、洗面室から室内にはやく戻った。


 すると、ローマン様がちょうど着替えの最中だった。室内に朝の光が満ち溢れる中、ローマン様の傷だらけの上半身が目に飛び込んできた。



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