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ちいさなその手

作者: こたろー

 

 小さな、小さなこのお手てを 離さないでね。

 早く、早く! パパとママに会いたいんだ!

 

 お腹の中の小さな命が、毎晩語りかけてくる。

「ママもパパも、早くあなたに会いたいよ」

 愛しい我が子を、早くこの手に抱く日を待ちわびている。

 

 しかし、私たち夫婦に悲しい出来事が起こる。

 妊娠28週目、いつも通り妊婦検診を受けに病院へと足を運んでいた。まだ、それほど重くは感じられないが、見た目で『妊婦』とわかるほどのお腹。少し、腰痛もするようだ。

 その日は、検診を受けてそのまま自宅へと帰ったものの、3日後、改めてその病院から電話がかかってきた。


『やっぱり、胎児の心拍数が少ないようです。紹介状を書きますので、そちらの病院へ行ってみてください』


 胎児の心拍数が少ない……不安を抱えたまま紹介された病院へと向かい、検査を受ける。夫婦で先生に呼ばれるまでの間、手をとり合い、「大丈夫」「きっとなんともない」そう、言いながら待っていた。

 しかし、現実とは残酷なもので、お腹の子供には先天性の心疾患があることがわかったのだ。

 かつて、こんなに絶望感でいっぱいになり、目の前が真っ暗になるという体験をしたことがあっただろうか? ――いや、ない。


 それから、すぐに入院。入院して何日かは、消灯後、何度も声を殺して泣いた。健康に産んであげられない。私のせいで、この子は病気を抱えてしまった。本当に苦しい毎日だった。

 しかし、お腹の中で我が子が懸命に私を励ます。『ぽこっ』『ぽこっ』と、何度も腹壁を蹴る。そう、胎動だ。

 『ママ頑張って! そんなに悲しまないで。私を、どうか受け入れてね』

 そう言われているような気がして、お腹を撫でるたびに愛しさが込み上げる。


 ――ママ、頑張るね。


 涙で濡れた瞳を拭いながら、生きていることを伝えてくれるお腹に手を当てて、一緒に頑張ろう、と何度も何度も呟いた。

 翌日、先生からの提案で、出産は予定帝王切開になった。手術は初めてだったのに、我が子に会える喜びで、ちっとも怖さはなかった。むしろ怖かったのは、お腹から胎児を出した後、我が子が地上の空気に耐えられるのかということだけだ。

 胎児を取り上げ、さっと私の前に見せてくれる助産師さん。真っ赤で、小さな小さな我が子。

 わずか1500グラムほどで産まれた、弱々しい我が子。でも、会えた喜びはとても大きかった。


 すぐに心拍数を上げる点滴を打ち、NICUに入ることになった。私は手術後なので病室へと運ばれ、1日中会うことを許されなかった。我が子との対面は、手術室での30秒間だけ。

 次の日、我が子に会いに行くために起き上がろうと試みたが、お腹を手術で切った為、激痛が私を襲う。けれど、その激痛に耐えながら、6階の病室から4階のNICUに車椅子で会いに行った。

 NICUで我が子との対面。その時、正直涙が出たのだ。

 あまりにも小さな我が子。沢山の点滴。細々とした体。人工呼吸器。


「頑張って。頑張って生きようね。一緒にお家に帰ろうね」

 涙を堪えながら話しかけた。産んで2日目、未だに抱けぬ我が子にそっと指先で掌を触って……。ちいさなその手が『ぎゅっ』と握り返す。


 『泣かないで。たくさんあたしに笑いかけて、話しかけてね。パパとママのこと、たくさん教えてね』


 何度も何度も語りかける。たくさん話しかけるから、たくさん触れるから。ちょっとしか一緒にいられないけど、寂しくないよね? お友達たくさん周りにいるから、大丈夫だよね? 

 

 そんな可愛い小さな我が子、何度も命の危険に晒されてきた我が子。一生治らない心臓の病気。

 それでも、今。とっても元気に過ごしている。

 普通より成長は遅いけれど、健康な子より運動制限はあるけれど、一生懸命生きている。


 笑って 泣いて 食べて。

 こんな『当たり前』のことが、とても嬉しく思える。

 

 生きるってすごいことなんだなぁ。


 そう、命の素晴らしさを感じられたのは、我が子のおかげ。

 命の大切さを、どうしてもこの場で伝えたかった。


 ――これを読んでいるあなたが、どうぞ命を大事にしてくださいますように。


 

 こんにちは、こたろーです。

 今回は、どうしても描きたかった事を描かせていただきました。皆さんにとっして「生きること」とは何でしょうか?普段そんなこと考えませんよね。私だってそうです。でも、我が子がこういう形で生まれてきたことを、どうしてもこうして文章にしてみたかったんです。 作者の自己満足です。申し訳ありません。

最後に1つ。心臓が悪いとは言え、ずんずん歩いて、笑って、泣いて。普通の子と同じように元気ですので。そのことだけ、お伝えしておきますね。

では、読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

読んでくださった皆様が、『生きる』ことの素晴らしさを共感してくださいますように……。

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