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6:お茶会デビューで・2

庭で咲き誇るチューリップ。というか、オレインお父様のイアナお母様への愛?


「まぁ、綺麗な色合い。初めて見ましたわ」


弾むような声音にチラリとそちらを見れば、サラナーユがやや興奮したような表情で見ている。公爵令嬢としては、表情が変わるのは良くないとは思うけれど、素直なサラナーユにわたくしの頬も緩む。


「ありがとう存じます。隣国の種類で我が国には無い品種だそうですの。お父様がお母様に、と隣国から取り寄せたそうです」


サラナーユに話しているが、一応皆さん黙っているので(聞いている・いないは知らないけれど)説明は皆さんに届いた事だろう。隣国から取り寄せた、という所で表情を変えたのは、子爵家の令息が2人。男爵家の令息が8人。その財力が有る事に気付いた、といった所ですか。他の子爵家・男爵家・伯爵家は興味なさそうな令息か、チューリップに夢中になっている令嬢ですね。

さすがに、公爵・侯爵家は食いついて来ないですよね。その程度の財力は有りますもんね。


まぁ、野心が有る事は良い事でしょうし、この発言で財力が有る事に気付ける頭の良さは好ましいので、別にこの点で何を思うという事も有りません。


令嬢達は初めて見るチューリップに夢中ですけど、令息方はチラリと見たら、後はどうでも良さそうですね。

後を静かに着いて来ていた執事をチラリと見れば、コクリと頷いて来たので、新しいお菓子が準備出来た、という事。


「此方のチューリップを見て頂きましたから、会場に戻ってまた別のお茶を楽しみませんか? チューリップと共に隣国からも茶葉を取り寄せましたの。同じく隣国では有名なお菓子も用意していますわ」


皆さんに聞こえるように話して促す。同時に、ある程度お茶とお菓子を堪能してもらった後は、自由行動みたいなもので、各々自由にしてもらおう。

わたくしのお茶会デビューですが、同時に人脈作りと言っても良いですからね。そんなわけで今度はある程度お茶とお菓子を堪能して頂いたら交流してもらいます。リリーの時はこういう経験って、数回しか無かったですが、それでもお茶会には出ていましたからね。お茶会が社交の一種というのは理解してますよ。


一度席を決めてしまえば、そこから動く事は無いのですが。それでは他の方と交流は出来ないので、ある程度したら席は席として、少し自由に動いて(会場内ですが)互いに挨拶(主催者と参加者ではなく参加者同士でという意味で)をして人脈を作っていくのです。あと、情報収集ですよ。同じ派閥内だからといって、付き合う家が全て一緒なんて事は無いわけで。他家との交流で別の派閥の動向やら王家の動向やら他国の動向やら国内での流行やら新商品やら……と沢山情報収集には事欠かないのがお茶会なのです。


綺麗に着飾って美味しいお茶とお菓子でキャッキャウフフだけがお茶会では無いのです。


尤も、現在は成人してない、つまり夜会に参加出来ない年齢のわたくし達ですから、このくらいの年齢のお茶会など、本当に人脈作りです。友人を作り、婚約者を作り、当たり障りの無い付き合いの相手を作り、派閥内の軋轢を生まない様な付き合い方を覚えていくわけですね。そうです。貴族の上下関係も覚えていくのですよ。いくら家庭教師に爵位が上の方達が凄いとか、上位貴族の付き合い方や下位貴族の付き合い方を教えられたって、実践してみなくちゃ意味が無い。その実践の機会が、このお茶会なのです。


故に、あまりにも小さい頃からお茶会に参加はしません。もし、そんな事が有るなら、それは本当にごく親しい間柄の家のみ。若しくは、侯爵位以上の家柄でしょう。伯爵位は上位貴族に入りますが、侯爵位以上の上位貴族は、伯爵位などとは本当に違います。ええ、全然違う。


我が国では公爵家というのは代々の王族が興した爵位です。初代国王陛下の弟君3人が最初の公爵3家ですね。歴史の中では、国王陛下の姉君や妹君と結婚された相手が公爵家を興す事も有りました。ですが、代々の国王陛下のご兄弟が臣下に降る度に公爵家を興して連綿と続きますと、公爵家だらけになってしまいますから、例えば初代公爵3家から時を経る事5代目からは、だいぶ血が薄くなったと判断されて、時の国王陛下のご兄弟・ご姉妹が嫁入り・婿入りする事が許可されました。


これにより、他の公爵家でも初代から数えて5代目以降は王家から嫁・婿を迎えられるようになりまして。まぁつまり、際限なく公爵家が増える事も無くなったわけです。或いは臣下に降らず、王族のままでいた国王陛下のご兄弟もいらっしゃいまして。その場合は、王弟・王妹・王兄・王姉の身分はそのままに、必ず外交を担当する、という事も法で決まっています。始まりは、3代国王陛下の姉君で。元々他国に婚約者がいらっしゃったので、そちらへ嫁ぐ予定でしたが、お相手の方が儚くなられて嫁ぎ先が無くなり、別のお相手を探すよりも3代国王陛下をお助けしたい、と生涯独身を貫かれた上に王姉の身分で外交を担当されたのです。そこから、敢えて臣下に降らない王族の方もいらっしゃいます。

そんなわけで、現在の国王陛下から3代前までには公爵家の数は固定されました。ですので、公爵家は血の濃さに差はあれど、王族の家柄なのです。


そして、侯爵位を賜っている家は、臣下のトップというわけですが、簡単に侯爵位は与えられません。まぁ当たり前ですけど。侯爵位は、初代国王陛下が建国する時から臣下だった家が賜っている、とか、歴代の国王陛下の御世に、ちょっとした……ではなく多大な貢献をした家が賜っているわけで。臣下の家柄といえど、王家の信が篤い家を表します。まぁそんなわけで。

公爵家並びに侯爵家の令息・令嬢はマナーさえ出来ていれば、3歳くらいからお茶会に参加させられる……と。だから侯爵位以上は、全然違うんですよ、伯爵位とは。わたくし、伯爵位の生まれで良かったです。リリーの記憶が甦ってからは、リリーが生前暇潰しに読んでいた本の記憶も凄くてですね。その本の知識に引っ張られる事も有るんです。


公爵家の興りについてとか、寧ろ甦って良かった! とか思うものも有りますが、その。付随して4代国王陛下の御世の某公爵家の廃嫡されて幽閉された〇〇令息の醜聞! なんていうタイトルの本とかの記憶も甦ってますので、侯爵位以上だったら、うっかりその本の中身を暴露していたかもしれません。……いえ、実際、うっかりわたくしはローレンスお兄様に暴露して、慌てたお兄様が、


「それは他家では話さないでくれよ!」


なんて、怖いお顔で釘を刺して来ましたからね。……上位貴族に生まれ変わっていたら、わたくしはどうなっていたことやら。……あら? もしかして、上位だの下位だの関係なく、話してはいけない部類の記憶かしら?

いえ、でも、あの本、図書館に有った暴露本ですから。多分、リリーなんかは面白い読み物扱いでしたわよね。……あれか。下位貴族だからこそ、上位貴族にあまり関わらないために、一種の御伽話感覚だった、とか。でも、お兄様のあの慌てようって……噂、ではなくて、事実、だったとか? ああいう暴露本って暴露本という割に「そういう噂も有った」 扱いで締め括るんですが。


……いえ、深く考えるのはやめましょう。深入りするのは藪蛇です。


さて。人脈作り、頑張りましょう。


「隣国の茶葉はいかがですか?」


皆さまにお声がけお声がけ。サラナーユが後でこの茶葉の仕入れ先を知りたい、と言っていましたから商会に連絡しておきましょう。あ、フォードネス家が利用している商会のことです。他家の利用はまだ無いはずですね。


「フォードネス嬢。隣国と深い関わりが有るのか?」


お声を掛けてきたのは、他テーブルの侯爵家の令息様ですね。同い年の確か……ヴォレク侯爵家のネセス・ゲム様でしたか。ヴォレク領って確か……領地が海沿いに有るので観光地として有名な領地でしたね。観光が資源ですからお土産物もたくさん有りますよね。ヴォレク領の事もリリーの読書量の中に有りました。リリーの記憶、凄くないですかね。


「はい。ヴォレク侯爵令息様。深い関わりと言いますか。わたくしのお母様の妹……わたくしの叔母様が隣国の男爵家へ嫁いでおりますので」


「成る程」


現在ヴォレク領を預かっているゲム家は、曾祖父様が当時のヴォレク侯爵の甥御様で直系が絶えてしまわれた事から養子縁組という形ではなく、完全にゲム家へ譲られたのでしたっけ。曾祖父様をゲム家初代と見るなら現当主様は3代目。ヴォレク侯爵令息様は嫡男でいらっしゃるから4代目ですね。


「フォードネス嬢」


「何か」


「少々この菓子について聞きたいのだが」


真剣な表情を見るに、同い年のはずなのですが、どうやら随分とヴォレク侯爵家を背負う心構えが出来ていそうです。本当に10歳ですか? って訊ねたくなるような顔つきですが、こういった方は結構好きです。さっきまでの(わたくしと婚約したいような素振りの)親の意向を受けていた表情は子どもらしい、とわたくしが言うのもなんですが。子どもらしかったですが、今は跡取りの自覚が出た凛々しい顔つきです。良いですね、こちらの顔つき。


「かしこまりました。皆さまも是非思い思いにお話下さいませ」


一言皆さんにお声がけをして、わたくしはヴォレク侯爵令息様に歩み寄りました。わたくしの声がけで男女別にグループが出来たり男女が共になったグループが出来たりしています。どうぞ皆さん人脈作りして下さいませ。


「フォードネス嬢。ゲムの方で良いよ」


「かしこまりました、ゲム令息様」


ヴォレク侯爵領を預かっている家の令息様、ではなくて、ゲム家の令息様という扱いで良いという事ですね。つまり爵位抜きの付き合いで良い、という事ですか。


「フォードネス嬢は、ヴォレク領がどんな領か知っている?」


「確か海沿いに面しているため、観光地ではなかったでしょうか」


「へぇ。知っていてくれてありがとう。じゃあ、観光客向けに新しい土産物を考えている事も?」


「そこまでは存じ上げませんでしたが、定番のお土産だけでは飽きてしまう方もいらっしゃるでしょうから、納得です」


「ああ、それを理解してくれるのか。本当に君は同い年? ベルドネ公女様くらいだよ。同い年でそんな賢さを持つ令嬢と会ったの」


「まぁ、恐れ多いですわ。でも嬉しいです、ありがとうございます、ゲム令息様」


「いや、うん、どういたしまして。でも、そうか。こんなに賢い方なら……。ねぇ、フォードネス嬢。僕は両親から君の家と繋ぎを持ちたいって言われているんだよね」


「婚約、という事でしょうか?」


「話が早くて助かるよ。どうだろう?」


「爵位が上のヴォレク侯爵令息様を全面に出されたら答えあぐねましたが、ゲム令息様相手でしたら、お断りさせて頂きますわ」


「……へぇ。政略結婚や爵位が上の方からの申し込みならば返事は保留にしたけれど、今の僕は侯爵家の者ではなく、1人の人間という立場だから断った、ということ? 面白いね。それとも、爵位に興味が?」


「まさか。侯爵夫人も公爵夫人も、恐れ多くも王子妃も興味は有りませんわ。結果として付随しているのなら受け入れますが、そうでないなら遠慮したいですの」


「益々面白い。じゃあ断った理由は?」


「お父様が未だ婚約者など要らない、と仰っている事が一つ。もう一つは、わたくし自身が恋愛結婚に夢を見ているから、ですわ」


そのわたくしの発言に目を丸くしたゲム令息様は、赤茶色のフワフワした髪の毛が揺れる程に笑い声を上げました。あらぁ、そんなに面白い事を言ったかしら。少々面白くない気持ちをしながらゲム令息様が笑うのを止めるまで待っていると、深緑の目が悪戯っ子のように輝いてから「気に入った」 と仰いました。なんですの。


「フォードネス嬢、君、面白いね! 政略結婚の可能性も視野に入れながらも恋愛結婚に夢を見ている。やっと同い年らしさ、を見た気がするよ。ねぇ、フォードネス嬢。友人、は、どうかな」


「婚約者でなくて宜しいの?」


「親は婚約したいだろうけど、僕は寧ろ、君と将来家族になるというより、数年後の学院生活を楽しく過ごしたい」


「それは良い提案ですわね」


「では、今日から友人だ。よろしく、ええと……アリア嬢」


「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ネセス様」


そんなわけで、サラナーユに続いて2人目の友人が出来ました。ちなみにこの後、ネセス様が話しかけて来た内容通り、隣国のお菓子について話を始めましたの。

なんでも、ネセス様は定番の土産である菓子の売り上げが伸び悩んでいる事を、ネセス様のお父様とお母様の会話から漏れ聞いた(盗み聞き、と言いますとはしたないですからね)そうで。今回皆さんにお出しした隣国のお菓子が何かヒントにならないか、と思ったそうです。


確か、ヴォレク領の定番お菓子って焼き菓子でしたわね。そして砂糖をかけて有りますの。でも、今回の隣国から取り寄せたお菓子は蜂蜜を生地に入れたほんのり甘い揚げ菓子なのですわ。ですので、焼き菓子に砂糖をかける定番の他に、味を変えてみるのはいかがでしょう? と提案しましたの。隣国のお菓子は蜂蜜を生地に入れたものですが。例えば、出来るかどうかは分かりませんが、茶葉を入れてみる、とかどうですか? と。


「茶葉を?」


「ご存知かどうか分かりませんが、茶葉を入れるにあたり、粉っぽくなる事も有りますの」


「ああ、下級使用人達が粉っぽい茶葉でお茶を飲むと聞いたな」


上級使用人は、主人筋……つまり当主一家に直接関わる、所謂家令・執事・侍従・侍女長・侍女ですわね。下級使用人は、当主一家に直接関われない下働きやメイドや料理人等のこと。ネセス様は、直接関わらないのに良くご存知ですわね。


「良くご存知で?」


「以前、料理長と侍女長が……この2人は夫婦なのだけど……休憩時間に話しているのを偶々聞いてしまってね」


偶々、ですか。普通は休憩時間とはいえ、お仕えする主人達には知られないように休憩するわけですから……それがたとえ上級使用人でも……おそらくネセス様は、使用人達の休憩場所にでもこっそり赴いていらっしゃいましたわね。ご両親のお話を盗み聞き、もとい、漏れ聞いてしまった事といい、割とヤンチャな方かもしれません。


「意外とネセス様は、ヤンチャなお方なのですわね」


へへっ。

わたくしの指摘に、それこそ年相応の悪戯っ子のような笑顔をネセス様は浮かべまして、わたくしは釣られて笑ってしまいました。


「まぁ、そのお茶から出る粉の部分をお菓子に混ぜてみる、とかいかがでしょう? あ、でも。それですと普通のお菓子で領地の特色が出ませんわね」


「確かに。今の土産のお菓子は領地の特色を活かした物だしなぁ」


「海沿いの領地だとの事ですが、お菓子はどういう特色なんですの?」


「ん? ああ形が海の生物を象っていて。それに砂糖をかけた焼き菓子だ」


「まぁ! 海の生物ですの? 以前、本で絵を見た事がありますわ。ヒトデというのは星形だとか」


「ああ、それそれ。その形の焼き菓子なんだ」


「そうですか。うーん……。ヴォレク領は海沿いで観光地ですが、特産品は有りませんの?」


「特産品か! そうだな! 特産品と土産の焼き菓子で新しい味になるかもしれない! 試してみるよ!」


どうやらお役に立てましたでしょうか?

さて……。


「お話は楽しいですが、少々他の方達とも交流を深めたいと思いますので、この辺でよろしいでしょうか?」


名残惜しいですが、ネセス様だけと仲良くしているわけにはいきませんものね。


「うん。人脈作りは大切だからね。次は僕のお茶会に参加してくれる?」


「お招き頂けますなら」


という事で、わたくしはグループを作られている方達の元へ足を運びました。先ずは女性だけで集まられている方達からですね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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