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13:元婚約者に存在がバレました⁉︎

今話と次話はアリア視点のみです。


話のタイトル通り、あのお方の登場です。(1話目以来)

親同士を介入しなくても、仮だったので当事者同士が受け入れれば婚約を解消出来るという契約を結んでいたので、ラトル様との婚約は解消という形を取りました。お兄様とララス家から帰った後でお父様に報告はしましたけれど。本当ならどんな結果でも待つのが一番なのは解っています。頭では理解していても、ラトル様の気持ちが落ち着くまで待っている間、不安と折り合いが付けられる気がしませんでした。


そう、不安だったのです。


リリーの元婚約者だったトマス様が、約束を守らないのは割と始めのうちからだったので、呆れの気持ちばかりでしたし、またですか、と見切りを付けるだけでした。


でも。

ラトル様相手ですと、こんな前世を持つわたくしを受け入れてくれるのかしら? 頭のおかしな娘だと否定されるでしょうか? そもそも、仮婚約でも、わたくしはラトル様に興味が有って……そして、恋をしていました。

だからこそ。


わたくしは前世の記憶が有る事をラトル様に話すことが益々怖くなっていたのです。この判断が正しいのか間違いなのか。それは分かりません。きっと、この判断で良かったと思う事も有れば、この判断を悔やむ事も有るのでしょう。

ただ、不安を抱えながらラトル様を待つだけの気概がわたくしには無い。

それだけのことなのです。でも、それが全てなのです。


わたくしは弱いから、ラトル様を待つ事が出来ずに逃げました。もっとわたくしが大人だったら逃げずに済んだのでしょうか。リリーの記憶が有ってもわたくしは弱い。いえ、考えずとも分かるはずです。だって、リリーとして生きたのは14年。もう今のわたくしは、リリーの年齢に近くなったのです。小さな頃はリリーの記憶が有る事で自分で言うのもなんですが、大人びていたはずです。でも、もうリリーの年齢に近いわたくしは、その先の事は未知なのです。


リリーとアリアは別ですが。自分で別人と言いながらも、リリーの記憶を頼っていた気がします。

その記憶に残るリリーの読書量からくる知識にも助けられる事は有りました。たくさんの知識には、成人を迎え大人の仲間入りをした後に大切なものや、たくさんの他人の物語で自分が大人になってからの事を想像してきました。でも、それは想像でしか無いのです。わたくしはこれからアリアとして大人になっていくのです。それなのに、こんな弱いわたくしは大人になれるのでしょうか。ラトル様を待つ事も出来ないで逃げるようなわたくしが……。


そんな事を思いながら、ラトル様との仮婚約が解消されてから気付いたら3ヶ月も時が経っていました。


その間にララス家との交渉を取り止める事をララス家に伝えたのですが……。ハリーお父様に号泣されました。あー……そうですよね。本当になさけな……いえ、涙腺の弱いお人ですわ……。取り敢えず、話し合った結果。年に一度、交流をするという事がお互いの落とし所でした。あれ以上号泣するハリーお父様を宥めるのはめんどうくさ……いえ、ええと。疲労するのでしかたな……いえ、ええと。大変でしたので。


そうして本日は、とある子爵家のお茶会に招待されたので参加しております。わたくしのお茶会デビューの時に参加されていた子爵令嬢のお一人ですわ。()()()()のお付き合いをする、と決めた。

それなりとはいえ、招待されれば参加はしますわ。それが誘われる頻度の3〜4回に1度で有っても。最近2度断ってしまったので、今回は参加致しますの。


ですが、今回の参加程、断れば良かった。


と、心底後悔した事は有りません。


「本日は趣向を凝らしてみましたの、皆さま楽しみになさって下さいましな」


ニタリ(令嬢らしいニコリではなく、なんだか薄気味悪いニタリです)と笑った子爵令嬢様。趣向? どのような? そう思った時でした。


「本日はお招きをありがとう、お嬢さん」


……現れたのは、まさかまさかのトマス・パテルス様でした。……いやいや、えええっ⁉︎ どういうことですの⁉︎


「いいえ。こちらこそご参加を頂きありがとう存じますわ、トマス・パテルス子爵令息様」


まさかの人の登場に頭が真っ白になったわたくしでしたが、件の令嬢……というか子爵が招待したと聞いて、は? と我に返りました。紛れもなく今日の趣向とやらは、トマス様を招待して参加させた事、でしょう。一体、何故?


「トマス様、是非ぜひ、トマス様と亡くなられた最愛の婚約者様との愛の物語をお聞かせ下さいませ」


はぁ⁉︎ 誰と誰の愛の物語、だって⁉︎


「うむうむ。最近、亡きリリーとの愛の物語を聞きたがるご令嬢が多いのであちこちで話しているが、君も聞きたいのだね?」


「まぁ! わたくしだけではなくて、此処にいらしている皆さまが全員、お聞きしたいと思っておりますのよ?」


ちょーっと待って!

はぃいいいい⁉︎ えっ、ど、どどどどどどういうことですの⁉︎

リリーとの愛の物語? はぁ⁉︎ そんなもん、これっぽっちもありませんけど⁉︎

というか、あちこちで話しているってどういう事です⁉︎


わたくしは、唖然としつつ、本日の茶会メンバーの中では1番マシ(()()()()の付き合いの方でも1番マトモという事ですわ!)な男爵令嬢様に近寄ってそっと尋ねました。


「わたくし、このトマス・パテルス子爵令息様というお方と初めてお会いしますの。どのような方ですの?」


「あら、フォードネス様、ご存知有りません? 愛する婚約者を亡くした悲劇のパテルス子爵令息様を?」


あれよね、アリアがリリーとしての記憶を取り戻した3年前にラークやローレンスお兄様がお話されていた事ですわよね?


「ええと。噂は耳にしましたのよ? なんでも婚約を破棄だか解消だかされた令嬢を思っていらっしゃるとか、なんとか」


とぼけてそう口に致しましたら、男爵令嬢様は嬉々として頷かれてお聞かせ下さいました。


「そう! そうなんです。トマス様は、長く婚約者としてお付き合いされたご令嬢がいらして。リリー・ララス様と仰る男爵家の令嬢様ですわ。で。トマス様が一度だけ、別のご令嬢に目を向けられたそうですの。それがリリー様への不誠実だと思われたトマス様は、リリー様に謝罪をして、こんな自分は相応しくない、と婚約を解消されたそうですわ。ですが、トマス様を愛していらっしゃったリリー様は、婚約解消を望まれておらず、目を向けただけならば浮気では無い、と泣いて縋られたそうです! それでも頑なに婚約解消を強行されたトマス様……。その事でリリー様は精神的に気に病まれてしまい……トマス様を愛するあまり、自死を選ばれたそうですわ……。トマス様は、自分が別の令嬢に目を向けなければ、リリー様は婚約を続行していたから、死ぬ事など無かった……と。それ故にトマス様はリリー様の愛を貫くために新たに婚約者は作らず、未だにご結婚をされてないそうですわ!」


…………………………………………。


なに、それ。

正直に言ってよろしいかしら。

なにそれ、きもちわるい。


あのお方、おバカなだけでなくナルシストでしたの⁉︎

というか、何を勝手に悲劇の主人公気取りですの⁉︎

いつ、わたくしが、いえ、リリー・ララスが、あなたを好きだったと言いますの⁉︎

勝手に婚約破棄を告げて来ておいて、いえ、それは最高に嬉しいものでしたけども。それをさも自分の不貞が悪いから身を引いた風に話すって気持ち悪いだけではなく、どれだけ自分勝手なのでしょう!

リリーの気持ちも存在も侮辱しているし、ララス家への侮辱にも聞こえますけど⁉︎


「ま、まぁ……そういうお方ですの。ララス家の方もご同意されていますの?」


内心は怒り狂ってますが、わたくしは更にこの一件について世間の話を聞いていきます。それにしても、何故今更にこの一件が注目されてトマス様が注目されていらっしゃるのかしら……?


「ララス家は沈黙を守っていますわ。ここだけの話ですが、お話も愛の物語として素敵ですが、それだけでは有りませんの」


「と仰ると?」


「トマス様は、おそらくリリー様を愛しく思うあまり、なのでしょうが。生まれ変わりを待っているそうですの」


「えっ……」


「フォードネス様も驚きますわよね? もちろんわたくしも驚きましたわ。ですが、少しでもリリー様に似てる、と、トマス様が判断されるとその方がその日の“トマス様のリリー様”になりますの。実はこのお茶会の趣向は、そこに有りますのよ? 誰が本日の“トマス様のリリー様”になるのか、皆さま楽しんでますの」


なっ……嘘でしょう⁉︎

なんですの、その趣向はっ! 悪趣味では有りませんか!


「で、では、過去にも選ばれた方が……?」


「ええ。始まりは、半年程前でしたかしら。いつものようにトマス様が他家のお茶会に参加された時に、リリー様の思い出話をされまして。その頃はあまりトマス様の事を快く思っていない方が多く……。とあるご令嬢が腹に据えかねたのか、トマス様に忠告されましたの。そうしたら、まるでリリーのようだ! とトマス様がお叫びになられ、その方は嫌々なのに、初めて、その日の“リリー様”になりましたの。本人はたいそう嫌がっておられましたわ」


それはそうでしょうね。亡くなった婚約者の代わりに仕立て上げられるなんて気持ち良くないでしょうし、トマス様の評判が良くないものなら余計でしょう。しかも勝手に亡くなった婚約者と周りに見られて……心中いかばかりか。どうして周りも止めなかったのかしら。


「周りの方はお止めにならなかったの?」


「そのお茶会、実は……」


なんてこと、あの伯爵家主催なんてっ! あの伯爵家はそういった嫌がらせというか悪趣味というか……そういう事しか考えてないお茶会を開催するではないですか! おまけに下手に地位が有る上に、おそらくは質の悪い方法でしょうが、貴族向けの高利貸しをしていらっしゃるから、そのお茶会に参加しなければ、どんな目に遭わされるか分からない……と仕方なく皆さまお茶会に参加されている、とか……。そうですの、そのお茶会で、そのような事が有りましたのね。それでは誰も止めなかったのでしょう。


まぁ、あの伯爵家は我が“法の番人”のフォードネス家が目を付けてますから、おそらくお茶会の一件も耳にしておりましょうが。わたくしに忠告が無かったのは、下手に心配させないためだったのでしょうか? 後でオレインお父様の考えを聞いておきましょう。


「では、その方は?」


心を病まれていなければいいのですが……。まぁ嫌な気持ちはされたでしょうが。


「それが、此処からが、不思議なお話ですの。その方を筆頭に、既に3人のお方が“本日のリリー様”に選ばれたのですが、その直後に3人とも、良い縁談に恵まれましたのよ。だから、実は皆さま、密かに“本日のリリー様”に選ばれる事を期待していますのよ」


は⁉︎

なんですか、それ……。ま、まぁ良い縁談に恵まれたのなら喜ばしい事ですが。3人も、ですか……。良い縁談のために本日のリリーに選ばれるって……なんだかわたくしは複雑ですわ……。それにしても。そんな不思議なことが有るならば、それは確かにトマス様がこんな年齢の離れた方々が集まるお茶会に参加しますわね……。


お茶会って本来、情報交換の場ですが、余興を楽しむ場にもなりつつ有りますものね……。


それにしても、本日のリリーに選ばれた方々が皆、良縁というのも引っかかりますわ。ローレンスお兄様にお耳に入れておこうかしら? そんな事を考えている間にもトマス様のお話……リリーへの愛の物語が始まってしまいました。

聞きたくない事この上無いのですが、聞かないわけにはいきません。だってお茶会に参加してしまったのですもの! 聞いているフリでもしようかとは思いましたが、下手に感想でも問われたら聞いてなかった事がバレてしまいますし、うっかりリリーしか知らない事を話すわけにもいきません。

しかし……聞いていて思いました。




後悔。




この一言に尽きます。

聞かなければ良かった。気持ち悪い。とにかく気持ち悪いんです。

例えば、リリーとの出会い。トマス様の家であるパテルス子爵家で出会ったのは確かですが、普通に応接室でしたよ。なんですか、薔薇が咲き誇る庭園で一目見てトマス様に恋したわたくしがうっとりとトマス様を見ていた……って。

記憶力が無いという以前に記憶改竄では有りませんか! 記憶改竄というか……誰も真実を知らないから嘘・出鱈目だらけ……。気持ち悪い。本当に気持ち悪い。嫌なんですけれどっ!


他にも2人でデートした場所は……とか言ってますが、それはアレですよね、デートなんかではなくて、わたくし……リリーが弟であるラークと共に王都の貴族街より裕福な平民向けのお店の方が近いので、そちらでラークが持っても大丈夫な羽ペンを購入しに行った時に、偶然にも出会ったから、一緒に文具屋内を回っただけですよね⁉︎ それをどこをどうしたら、トマス様のエスコートでわたくしが……リリーが、頬を染めながらトマス様専用の便箋を一緒に買う話、とかになっているんですの!


じ、事実が捻じ曲げられるとは、こうして人の思惑を介する……と、お父様がいつだったかお話して下さいましたが。さすが、“法の番人”の異名を誇るフォードネス家当主の言葉ですわ、こういう事を仰いますのね、納得致しました。


納得は致しましたが!


それと記憶改竄・事実無根・妄想爆発のトマス様のお話は、関係なく、きもちわるいですわぁ!


とりはだ。

鳥肌が立ってますわ。

皆さまは、人によってはウットリと恋愛話を聞いて、人によってはあまりにも物語みたいな話故に笑っていて、楽しいのかもしれませんが、わたくし自身は楽しくなんて、これっぽっちも有りません!


気持ち悪い。


ゾワゾワと全身の毛穴が開いてますわ! 本当にきもちわるいですわ……。

本音は今すぐ此処を去って、この気持ち悪さを何とかしたいですが、微笑みを浮かべつつ、留まってます。未だ主催だけでなく他家の方々にも挨拶をしておりませんのよ。挨拶も無しに早々に立ち去るという事は、体調不良という話題を提供する事になります。

我がフォードネス家の足元を掬いたい者達に、そんなマイナスな話題を提供するわけにはいきませんのよ! せめて挨拶くらいはしてから帰らねば……!


ああ、早くこの気持ち悪いトマス様劇場とでも言うべき気持ち悪い偽りの恋愛話が終わらないかしらっ!


そんな風に思っていたわたくしは、無意識のうちに、何かリリーを思わせる仕草をしていたのでしょうか。恋愛物語とやらを終えたトマス様と視線が合いーー


「君はリリーの生まれ変わりだね!」


と、目を向けられました。

はぁ⁉︎ そうですけど、わたくしなんて視界に入れないで下さいませ!


「まぁ本日の“リリー様”は、アリア様ですのね!」


注目を浴びっぱなしだったトマス様に、こんな事を言われたものですから、主催者の子爵令嬢様がにこやかにそんな事を仰り。この場からさっさと立ち去る事が叶わなくなりました。というか、わたくしは確かにリリーの生まれ変わりですけど、トマス様、なんで解りましたの!


いえ、本当にリリーだと思っていらっしゃるのが怖いですわ!


そうしてわたくしは、わたくしの意志など一切考慮しないトマス様と周りの方々の所為で、トマス様と同じテーブルに無理やりつかされてしまいました……。


ああ!

貴族の対面等諸々を忘れて、とっとと逃げてしまえば良かったのですわ!

ああ、もう、不運ですわ……。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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