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11/16

11:いつかは話さなければならない事でした

少々長めです。

アリア視点


***

「アリア」


「はい、お兄様」


「準備は終えたのかい?」


「もちろんです」


本日は、何度目の訪問か忘れましたがララス家訪問日です。もちろん当初の予定通りローレンスお兄様に付いて行く形、ですが。そろそろそれも終わりでしょうかね。仮では有っても婚約者の居るわたくしが、いつまでも兄離れ出来ないのもラトル様の不信を誘いそうですし。尤も、きちんとお話はしていますが、それでもいつまで兄離れ出来ないのか、と言われてしまう可能性があります。


まぁこの3年の間にラークは結婚しましたし、結婚後にわたくしはお相手の方にお会いしましたけど。それでも表面上はお兄様の友人とその家族に会いに行くのは、そろそろ理由も無いのに……と思われかねません。あ、ラークのお相手の方は、わたくしがリリーの生まれ変わりだという事を、半信半疑だったようですが、ララス家全員がわたくしをリリーとして見る上に、ローレンスお兄様までそれを否定しない事から信じる事にしたようです。柔軟な考えをお持ちで良かったです。


ローレンスお兄様にもようやく婚約者が出来まして、半年後に結婚です。ローレンスお兄様に婚約者が出来なかったのは、フォードネス伯爵家が狙われやすい、という所為も有りますが。どうやらお兄様は学院時代に好きになった方をずっと想っていたようで。忘れられなかったそうです。ラークもそれを知っていて良く話を聞いていた、とか。


なんだか不思議。前世では弟のラークが今世の兄・ローレンスと親友なんて。未だにわたくしはラークを呼び捨てにしてしまうし、ラークもわたくしを姉上と呼びます。でも、一方でわたくしはお兄様の妹なので、お兄様はわたくしをアリアと呼びますし、わたくしもお兄様と呼ぶ。その2人が同い年なんですから不思議な感覚です。

ちなみに、ラークと結婚してくれた心優しく、度量の広い元子爵令嬢のナビアさんは、わたくしを「お義姉様」 と呼ぶし、わたくしも「ナビアちゃん」 と呼んでます。なんでもナビアちゃんは姉が欲しかったそうで、多分、その辺もわたくしの事を受け入れてくれた背景なんでしょうね。


そのナビアちゃんに会えるのも楽しみですが、今回はナビアちゃんとラークに待ちに待った子どもが産まれた事のお祝いにも行くのです。わたくしがリリーだった頃、ラークは「おねえちゃん、おねえちゃん」 と後をくっついて回る子でしたのに。そのラークが今や父親、不思議ですよねぇ。


「お兄様」


「うん?」


フォードネス家が所有する馬車でララス家へ向かう間にわたくしはお兄様に尋ねました。


「ラークに子どもが産まれたと聞くと不思議なんですが、わたくしはそろそろララス家から距離を置こうと思うのです。どう思われますか?」


「……ふむ。難しい質問だね」


お兄様は、わたくしがそのような事を考えていると思わなかったようで、とても驚いた表情を浮かべました。でも言っている事は理解してもらえたようです。ラークに子どもが生まれました。それはとてもおめでたい事ですし、お祝いする気はもちろん有りますとも。リリーとして生きていたら……トマス様と婚約を解消したわたくしが、その後、どなたかと結婚出来たのか? ということはさておき……ラークの子を伯母として可愛がる自信しか有りません。

でも、現実はわたくし、リリーでは無いのです。フォードネス家の家族もララス家の家族も、そしてラークと結婚してくれたナビアちゃんも、わたくしを“リリー・ララス”であり、“アリア・フォードネス”である事を受け入れて下さいます。でも。一方でロードとアネットもわたくしを“リリー”として受け入れてくれては居ますが、わたくしが2人の子にはわたくしの事を話さないように止めています。それでもお兄様と一緒にララス家を訪れるわたくしを、2人の子は不審そうな目で見るのです。


多分、わたくしが“アリア・フォードネス”である事以外に何か有る、と薄々気付いているのでしょう。ロードとアネットに質問をしているらしい事もアネットから聞かされました。お兄様はラークの友人ですからお兄様の存在は受け入れられるけれど……一見、兄離れが出来ていない“アリア”に見えるのに、わたくしやララス家の家族が話す内容や振る舞いを見て、“アリア”では無い何かを感じ取っているのでしょう。ロードもアネットも自分達は使用人だから、と口出しする事を止めているようですが。いつまでもそうしているわけにもいきません。


それは同時に、わたくしが不自然な存在だという事の現れでも有ります。




わたくしはリリーではなくアリアなのですから。


もうそろそろ、この時間を終える頃合いなのでしょう。


リリーとしてララス家の皆と過ごす時間があまりにも短かった。それが思いもかけずリリーの記憶を甦らせたわたくしが、ララス家の皆と過ごす時間を持てた。


でも、それは。

偽りの時間、なのかもしれません。


偽りでも、リリーにも、そしてララス家にも必要な時間だったと思います。

その事に後悔は有りませんが、わたくしがリリーの記憶を持っている事を全ての人に話さないのである限り、いつかは終わらせなくてはならない時間でも、有るのです。




「私に尋ねて来たけれど、もう、アリアの中で結論が出たみたいだね」


お兄様にどう思うか尋ねておきながら、色々と考えていたわたくし。お兄様は、わたくしの表情をずっと見ていらしたのか、静かなお声でそのように仰いました。


「失礼致しましたわ、お兄様」


「いいよ。私の考えは、アリアの意思を尊重する、という一つだけだ」


「……ありがとうございます、お兄様」


思慮深く、周囲を気遣う為に軽率な発言をしないローレンスお兄様。故に寡黙と思われがちで、婚約者を長らく作らなかった事から女性嫌いだとも思われていたようで。熱烈に言い寄る女性は悉くお兄様に振られ。胸に秘めたまま静かにお兄様を思う女性達からは遠くから見られるだけ。

そんなお兄様が長年片想いしていた方は、その、遠巻きに想いを寄せていた女性達のお一人であり、また、その方に婚約者がいらっしゃった為に、お兄様も打ち明ける事は無かったそうです。おまけに、身分差が有りましたし。


お兄様が想っていた女性は、とある侯爵家の令嬢で、ティシア様と仰るお方。ティシア様は侯爵令嬢ながら、穏やかで優しく物静かな性分だそう。お家が少々金銭的に余裕が無い事から領地持ちの伯爵令息様と長らくご婚約されていたそうです。お兄様とは学院で知り合い、同級生の上にクラスも一緒だったとか。お兄様がフォードネス家を継ぐ為に裁判官の道に進むため、早めに学院を卒業して政務官になる為の養成所に入られたため、ご一緒していたのは2年間だけだったようですが。

尚、我が国ではまず学院に入学し、ある程度の学力を修めた後、政務官になる為の養成所で実務経験を積みつつ法律の勉強もします。政務官もある程度法律を知らないと城で勤務出来ませんので。その後、養成所を卒業すると現役の裁判官の補佐をしながら裁判官になる為に専門的な法律知識を蓄え、試験に合格して、初めて裁判官になれます。


つまり、かなり学力が無いと裁判官になれません。


それはそうです。罪を犯したとはいえ、人が人を裁くのですから。専門知識も無い裁判官が適当な量刑を与えて不必要に罪を重くする事や、冤罪で有るのに気分で有罪にする事など有ってはならない事ですから。過去にそのような事が実際に有ったからこその厳しい道です。その頃は裁判官という専門の仕事は無くて、領地持ちの領主の気持ち一つで、そういった罪が裁かれていたそうで。だからこそ、お金で罪を消すような人が後を絶たなかったそうです。専門の言葉で賄賂というそうですが。

それを憂えた当時の国王陛下が裁判官という職を作られ、やがて我がフォードネス家が“法の番人”の異名を取る存在になっていくわけですが、それはさておき。


お兄様はティシア様と過ごした学院の2年間が忘れられず。フォードネス家の事情も有って、これ幸いと婚約者を作らずに居ました。そうして2年前。お兄様とティシア様が19歳を迎えた年の事です。ティシア様は18歳で学院を卒業され、伯爵家に嫁ぐ為に伯爵家へ通いながら結婚の準備もされていたそうですが、ティシア様のご婚約者様は未だ学院に在学されていたそうです。

そこへ、我が国に留学して来たとある国の王女殿下が、見目麗しい殿方を次々と籠絡していき……ええ、ティシア様のご婚約者様もその毒牙に掛かって、何を血迷ったのか王女殿下と結婚出来る、とお考えになられたようでティシア様に婚約破棄を申し出られたそうです。まぁ破棄だとお互いに後味が悪い、という事で解消になったそうで、ティシア様は19歳で婚約者が居ない状態になってしまわれました。


侯爵家への援助金は、慰謝料代わりで返金しなくて良いという事になりましたし、婚約解消に伴い、婚姻しなくても侯爵家と伯爵家の関係に変化が無いように色々と話し合ったとか。つまり、ティシア様だけが犠牲になったようなものですね。その話を社交場に積極的に参加していたり裁判官としてそういった家と家の契約についての流れを耳にしていたお兄様は、即座に動きまして。領地は無くても伯爵位を持つ家の跡取りで有るお兄様ならば、と侯爵家も頷き。


晴れてお兄様はティシア様と婚約致しました。

きちんと、学院時代から恋をしていた事もお兄様は打ち明けられたようで、お兄様って妹のわたくしから見ても落ち着いた人に思えていたのに、そんな情熱を秘めていらしたのですね、と密かに思ったのは秘密です。


そんな思慮深いお兄様が、わたくしの意思を尊重する、と仰って下さったのです。お兄様は多分わたくしが何を考えて決断したのか、理解されているのでしょう。ですから何も言わないし尋ねない。そんなお兄様がお兄様で良かった、とつくづく思います。


本日の訪問の終わりに、ハリーお父様とビアンカお母様にお話しましょう。それまでは、最後と思って楽しみたいと思います。


結局……

ラトル様にはこの事についてお話ししませんでしたが、話さないまま、ララス家と距離を置く事になるわけですし……まぁ良いですかね?




ーーなんて、そんな楽天的な事を考えていたからでしょうか。この後、あんな事になるなんて、わたくしは爪先程も考えていなかったのです。







ラトル視点

***


本当に偶然だった。

元々、爵位は同じ男爵位で同じ領地無しの政務官の家だったから、家は近所だった。その男爵家の令息は俺より7歳年上だから顔は知っていて挨拶くらいは交わすけれど、親しい間柄では無かった。アリアの方が親しいくらいかもしれない、とアリアから話を聞いた時に思ったくらい。

ララス家の令息・ラーク殿とアリアの兄君・ローレンス殿が同い年で学友だとかで、アリアは時々ローレンス殿にくっ付いてそのララス家を訪れる事が有る、とは聞いていた。その時は兄離れが出来ていないアリアがなんだか年相応というより少しだけ幼く思えて。だから少しだけ可愛らしい面も有るのだ、と思っただけでそれ以上の事なんて何も思っていなかった。


ーーこの時までは。


政務官の道ではなく裁判官の道へ進みたい、と望んだ俺は法の勉強も独学で始めていた。その為の本を借りに王都の図書館へ行った帰り。馬車は使わず体力を付けるためにも歩いていたその時。通りの向こうで犬の鳴き声がして、ふとそちらへ目を向けた。その犬のリードを引いているのはアリアで。偶然に、少し胸が熱くなった。多分、嬉しい、と思った。


「アリ……」


俺が声を掛けるより先に、アリアは誰かに気付いたように手を振った。とても親しい相手にする素振り。その視線の先には……ローレンス殿の学友であるラーク・ララス殿。そこまでは、良かった。だが。


「ラークっ」


……俺は衝撃を受けた。

アリアは“法の番人”とも言われるフォードネス伯爵家の令嬢で。自分の立場をきちんと理解しているからこそ、その振る舞いや言葉に注意を払っていた。普段からそんなアリアを思慮深い、と微笑ましく思ったし、自覚している分だけ大人っぽいとも考えていた。


だから。あんな、年相応の、令嬢()()()()()少女のような振る舞いをするアリアを、初めて見た。それを見せる相手が俺ではなく、親しい付き合いをしているという公爵家のサラナーユ嬢でもなく。兄君であるローレンス殿の学友に過ぎない、ラーク・ララス殿に見せている事が信じられなかった。


それはつまり。

ラーク・ララス殿をそれだけ信用している事の表れで。


ーーそれはもしかして、俺以上に信じられる相手、という事か……?


その考えが過ぎった時、俺は腹の中がカッと熱くなって何やら叫び出したい気持ちを抱えてアリアの元へ駆け出した。


何故だ、アリア。

俺に興味を持ったんだろう?

どうして他の男と親しくする?

俺以上に信じられる男が他に居るのは、何故だ?

もう、俺に興味は無くなったのか?


疑問がグルグルと頭の中を駆け巡りながら重たい本を放り投げたい衝動を抑えて、精一杯走ったその先に、アリアとラーク・ララスが良く見える位置まで来た。2人は此方に気付いていないようだ。取り敢えず息を整えよう。息を切らせて話し合いなんて出来るわけがない。


「姉上、ブランを散歩していたんですか?」


「そうなの。わたくしが拾った時はまだ子犬だったけれど、今じゃこんなに大きいから、わたくしの方が引っ張られてしまいますわ」


犬に視線を向ける2人。ブランは、犬の名前だろう。

いや、そんな事はどうでもいい。

今、彼は何て言ったんだ……?


「姉上が川で拾って来て。その所為で姉上はびしょ濡れになって高熱を出した。でも。……ブランに罪は無いですからね。ちゃんと育てましたよ」


「そうね。ありがとう、ラーク。皆でブランを育ててくれたから、この子はこんなに大きくなったんですものね」


「ブランもまさか、姉上が生まれ変わって、こうして散歩をしてくれる事になるなんて、思ってもみなかったでしょうね」


「そうねぇ。それはわたくしも思っていたわ」


ほのぼのとした会話が聞こえて来る。周りに人がそれなりに行き交っているから、きっと会話が聞き取れないように小さめの声で会話をしているのに。

何故か俺には、はっきりと聞こえて来た。

2人を認識しているから、なのか。他の要因が有るのか。解らないけれどはっきりと聞こえて来た会話。

だからこそ、会話の内容が理解出来ず。


「どういう……ことだ?」


呆然と呟いた俺の声は、思った以上に大きかったのか、人の視線を集める。それはそのまま、アリアと……ラーク・ララス殿の視線も集めて。


ーーアリアが動揺したのは、初めて見たな。


何処か他人事のようにボンヤリ考えながら、真っ青に顔色を変えたアリアを見ていた。


「ラトル、さま……」


ややしてアリアも呆然としたように俺の名前を呟いて。何かを察したラーク・ララス殿が犬を連れて「先に戻っているよ」 とアリアに声をかけているのを夢心地のような心境で見ていた。アリアもそれが聞こえていたのかどうか。お互い見つめ合ったまま、言葉も無く立ち尽くす。不意に風が吹いて互いの身を震わせて……ようやく俺もアリアも我に返った。


「アリア」


自分の声がやけに遠くて……そして掠れて聞こえる。掠れているから小さく聞こえただろうに、アリアはまるで耳元で大きな声を出されたように、再び身体を震わせた。


「お話、致しますわ」


それから目をギュッと閉じたアリアは、ゆっくりと開けて俺をしっかり見て。少し諦めたように笑った。

アリアに促されて何故かララス家を訪れる。そこにはアリアの兄君・ローレンス殿が居て。俺の顔を見て驚いたような表情を瞬間見せたけれど、何も言わない。アリアは兄君に目もくれず、迷いない足取りでララス家の母屋に入り……本当に躊躇い無く突き進む。途中、俺の母上よりいくらか若いくらいのメイドか侍女とすれ違う。


「お嬢様」


「アネット。こちら、アリアとしてのわたくしの大切なお客様なの。お茶をお願い」


「……かしこまりました」


そのアリアの命じる口調も、ララス家の使用人であるはずの彼女も、どちらも()()()()のようで。突き進んだ先の一室にアリアは当然のように部屋の扉を開けて「どうぞ」 と微笑んだ。ーーまるで、自室のような。

俺が(いざな)われてその部屋に入れば、物はあまり無いけれど、誰かの部屋のようだ。小物を見るに女性の部屋か。アリアに促されて1人掛けのソファーに腰を下ろし、アリアはベッドの上に腰を下ろした。静かに時が過ぎてノック音と共に先程の女性がお茶を持って来た後、小さなテーブルが俺の前に置かれてその上にお茶を置いて俺もアリアも冷えた身体を温めるように、無言でお茶を喫した。


一息ついた所で、アリアが溜め息を一つ落としてから肩を開いた。


「この部屋は……わたくし、アリアが生まれる前に死んだ、リリー・ララスの部屋です」


「リリー」


そういえば、ララス家にはラーク殿の姉がいらっしゃった、と聞いた事がある。病に罹り呆気なく亡くなった、と。


「そしてわたくしは……そのリリー・ララスの生まれ変わりなのですわ」


何処か予期していた事実だからか、俺は先程より落ち着いてその言葉を受け止めた。……受け入れたわけでは、なく。


「リリーとしての生は普通の令嬢というより平民に近い生活だった、と申し上げておきます。今のアリアとしての生よりも淑やかさも令嬢らしさも何も無かったですが。家族と使用人には恵まれていました。一つ、汚点が有ったと言えば、婚約者の事でしたわ。トマス・パテルス子爵令息。ご存知かしら? あの方がリリーの婚約者でしたの」


その名は聞いた事がある。確か婚約解消した令嬢が自分との婚約解消に落ち込んで死んでしまった、と嘆いて……他の女性と結婚どころか婚約もせず、未だにパテルス子爵の当主の位を引き継げない、とかなんとか。

その、トマス・パテルス子爵令息の元婚約者……?

それがアリアの生まれる前の女性……?

という事は、アリアは……トマス・パテルス子爵令息との婚約解消を嘆いて亡くなった……?


「アリア、もしや、リリー……嬢は婚約者殿を」


「違いますからっ!」


俺が何を尋ねたいのか理解したようで、俺の言葉を遮ってアリアは否定した。


「汚点、と申し上げましたでしょう! あの方との婚約は何度もお父様に婚約解消を願い出てしまうほど、嫌でしたのよ!」


相当嫌だったのか、珍しくアリアは声を荒げて。それからリリー・ララス殿に対するトマス・パテルス子爵令息の婚約時代を教えてくれた。微細に至るまで話すので、少なくともアリアがリリー嬢の記憶を持っている事は嘘では無い、らしい。


「まぁそんな人で、更には好きな人が出来たとか何とかで婚約破棄を告げられたので、円満に別れられる解消にしましたわ。その事とわたくしがリリーとして死んだ事は別です」


その死因と、そしてアリアがリリーの記憶を甦らせた出来事まで、全てをアリアは俺に淡々と話していく。リリー嬢の記憶を甦らせた時に偶然にもラーク殿が居合わせ、そこから、フォードネス家とララス家の家族が集まり、アリアがリリーで有る事を皆で確認し納得し、そして、今も交流を続けていたのだ、とアリアは悲しそうに笑った。ラーク殿の奥方もアリアがリリーで有る事を受け入れている、らしい。


「ラトル様から隠し事はしない、という条件を出された時。アリアとして身を守る事のために話せない事も有ると申し上げましたが、真っ先に思い浮かんだのが、わたくしがリリー・ララスの生まれ変わりで有る事を話すかどうか、でしたの。あの時のわたくしは……いえ、今も、ですわね……愚かにも黙っていれば、こんな秘密がラトル様に知られる事は無い、と思ってしまいましたの。今日、ラトル様が居合わせなければ、ララス家との交流を止める予定でしたし。そうすればラトル様には隠せると思いましたのよ。愚かでしょう?」


アリアは、何かを諦めた顔つきで愚かに全てを打ち明けた。俺は、何も言えなくて。言えないまま、時間切れだとでも言うように、テーブルの上に無意識に置いていたらしい図書館から借りて来た本を俺に差し出して、アリアは「お帰り下さいませ、ラトル様」 と俺を促す。俺もそのままララス家から外へ向かった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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