第七話 死線を超えて
早速山賊の一団がやってきたが、とりあえず入門無魔法の「ギアエ」を山賊たちに4発撃ち込む。
「ぐぎゃっ!」
3人の山賊が同時に悲鳴を出して倒れた。
そして、怒った山賊が俺に向かって弓を放とうとしてくる
「……よくも俺っちの仲間を!」
3人ほどは殺せたが、4発も撃ったら3秒ほどは魔法を使えない。
となると、剣しかないわけだ。
「あなた達の動きくらい、読めていますよ!」
まずは生き残りの弓兵へと接近し、首を落とす。
それまでの間に弓を撃たれたが、剣術レベルや体術、槍術レベルのおかげで避けるのはたやすくなっている。
それに、弓術レベルが高いのは特に大きいだろう。
それに、山賊ごときが高速で動く的に当てるのも厳しいだろうし。
いや、この山賊団は相当練度が高いようだけど。
「ひとーつ……」
弓兵の首を蹴り、嘲りながら踏みにじると山賊の剣士が怒りをにじませて突っ込んできた。
これは次の行動を確定させるための布石だ。
もう魔法は使えるが、こいつのアミュレットは特別性だ。
魔法が効きづらいために剣による一撃のほうが早い。
でも流石に、憎い山賊相手でもこんな嘲った行動は好き好んで取りたくない。
……ただの、死者への冒涜だ。
「オラ!!!死ねや!!!!」
「ぬるいですね」
勢い任せの突き。
それを『まるで予想していたかのように』、軽々と避け、首に銅剣を突き刺す。
知っているから。その動き。
「ふたーつ」
青銅製である以上切れ味は悪い……というか用途が違うが、これくらい剣を扱えるのなら余裕だ。
そして、その剣士は山賊内でそれなりの使い手なので割と良い剣を持っている。
いつもどおりに拝借する。
「ひ、ひぃぃいぃ!!!ば、バケモンだ!」
「こんなつえぇ女のガキがいるとは聞いてねぇぞ!」
恐慌を起こして何人かの山賊が逃げようとしたので、いつもよりも疾く、踏み込んで新調した剣で首を斬る。
「みっつ、よっつ、いつつ……やっつ」
これ加えて3人を魔法で倒したので合計11人を殺した。
今の俺には良心の呵責なんてものはない。
必要があれば人を殺すことに躊躇はないし、俺を殺し続けたコイツラならば進んで殺したいくらいだ。
流石に、首を蹴り嘲るなんてことはできるだけしたくはないが。
だって、あの剣士強いんだもの。装備は棟梁に遠く及ばないが、技量では少し劣る程度には使える。
29くらいだろうか。
消耗したくないという一心でこれをしている。
しかし、それも慣れた。
あんまり良くないことなんだろうけど、こういう葛藤を捨てなきゃ俺は生き残れない。
……現代日本だったら即刻刑務所にぶち込まれるような人間性になっていそうで怖いな。
「他の持ち場に向かいますので、皆さんは一応ここを見張っていてください」
「あ、ああ……しかし、アリアちゃんってこんな強かったんだな。……怖くてチビリそうだった。特に首を踏みにじるのは……いや、すまん。仕方なかったんだよな。わかってる」
この言葉は毎周言われる。
『前に』周りを見渡したら、俺の強さと首を蹴るという最低な行動に恐怖と嫌悪感を覚えているものも結構いた。
だが、それでどうなるわけでもない。
村長やバーズの師匠組、親友のエフ、それと両親あたりに嫌われないならもうそれで良い。
あとは、生き残ってさえくれれば多くは望まない。
……今回の行動がやりすぎで、村から排斥されるのならば、またやり直すだけだし。
俺は村の西側からやってきた山賊のもとへと駆け出した。
「さっさと死んでください!」
「うぎゃっ!」
13歳ほどの少女が、剣を振るい、魔法を撃ち、時には槍を振り回して戦う。
山賊たちはそれに抗うすべも持たず、殺されていく。
そのさまは明らかに異常で、もしかしたら鬼神じみて見えるかもしれない。
それでも、今回は今まで見えなかった結末に辿り着けそうだった。
「……くっ!」
「息子共々手こずらせてくれるじゃねぇか。だが……これで終わりだ!」
他の山賊を殺し尽くしていると、村長と山賊の棟梁が一騎打ちをしていた。
そばには倒れ伏しているバーズがいるが、命に別状はなさそうだ。
とりあえず村長がとどめを刺されそうだったのでそこに割って入る。
「……この剣を受け止めるとは、やるな小娘。何もんだ。名乗れ」
名乗りを重視するところから見るに、この山賊の棟梁はおそらく騎士崩れだろう。
騎士として食っていけないなにかをやらかして、山賊に落ちたならず者。
しかしその実力は確かで、さらに魔法を防ぐ鎧も来ている。
……大丈夫だ。いままでは村長が殺される前に辿り着くことはできなかったが、今回は間に合ったのだから、たしかに俺は強くなっているんだ。
––殺せる。
「自分の名はアリア。いずれはかつての剣聖、ベルバーチュアを超え、名宰相、オーディと並ぶ者。覚えておいてくださいね」
俺は極大の殺意を研ぎ澄ませながら、そう名乗った
「はっはっは、大言壮語を吐いたものだな。面白いから認めてやりたいところだが、あいつらを全員殺してきたのならば許してはおけねぇ。お前はここで死ぬが定めだぜ!」
アーキスは間違いなくブチギレている。
山賊なんていうクズだろうが、友情のような感情はあるようだ。
もっとも、俺のほうがキレているがな。
「俺の名はアーキス・ベルドバルド。剣術の未来を望むものだ、さぁ、死ねぇ!」
こいつはまずは右袈裟で斬りかかってくる。
故に、それに対応するためにひねりながら深く沈んで突きを放つのだが……。
未来は今まで積んだ行動によって変わる。
今回は村長やバーズを助けられたことで普段とは未来が変わったのか、水平突きを放ってきた。
「ほう、これを避けるか……おもしれぇ!」
アーキスが選んだ行動は突きの連打。
このままではそのうち倒されてしまうだろう。
主に膂力と装備の差によって。
アーキスの剣術レベルは31程度だと思うが、やつは鍛えられている上にかなり質の良い装備をしている。
下手したら、国の精兵よりよっぽど良い武具だ。
なので、このままなら俺は負ける。
剣術と槍術、体術、弓術のスキルレベルは高いので膂力や体力、あと防御力も高いのだが、それでも騎士として鍛えられた大人と、一切の鍛錬を行っていないヒョロガリの女児とでは当然差が付いてしまう。
全てのスキルにおいて10ほどの差を離して勝っていれば、それでも上回れたのだろうが、そこまでの差はない。
アーキスの槍術や弓術は俺より上だし、元は騎士だろうから馬術だって習っているだろう。
なので、スキルの優位は少ししかない。
剣術勝負においてはいい意味で結構な差があるが、ただの身体能力勝負では相当に劣っていた。
なのでここではその差を埋めることにしようか。
「『アロス』」
入門魔法のなかで、この戦いの鍵を最も握る魔法、無魔法のアロスを自分にかける。
これは身体能力強化の魔法だ。
入門用の覚えやすい魔法であるがゆえにクールタイムやデメリットが大きいが、各種魔法のスキルレベルによって軽減される。
それにデメリットと言っても翌日に筋肉痛になるくらいだ。
この戦いの途中では問題ないから意味がない。
後退しながら突きを躱し、隙を見て俺も突きを放つ。
胴体……鎧に命中した!
アーキスは少しよろめくも、すぐに態勢を立て直して斬りかかってきた。
しかし思ったが、今回のアーキスはいつもより弱い。
いつもならもっと力強い剣を振るっていた。
なぜかはわからないが……これはチャンスだ。
俺はほくそ笑んだ。
ヒロインは次の章から出てきます。