第六話 武術を鍛える・初
「ひ、ひぇ〜。へっぴり腰だな、お前の素振り。剣は左手を中心に振るんだからな。右手は添えるだけだぜ」
バーズにダメ出しされながら、素振りをする。
やつの言うとおり、俺の剣はデクの剣だ。
習ったことすらないのだから当然だけど。
「シッ、ゴッ、ロクッ、シチッ!」
「だが、体力だけはあるんだな。一昨年の俺くらいには疲れ知らずだぜ、お前」
無魔法と火魔法、土魔法スキルにはごくわずかの体力増強効果が含まれているらしい。
頑強さや腕力なんかも多少上がっているが、大人に敵うほどではない。
スキルレベルは高いので、体力は特に消耗せずに素振りを行えている。
「いいか、素振りの基本は一振り一振りに課題を見つけることだ」
俺がよくわからずに漫然と素振りをしていることに気づいたのか、バーズがそんなことを口にした。
「だけど、そんなことをやっていたら気力が持ちま……」
「そうだ。普通はそんなことやってたら気力も体力も持たねぇよ。特に、慣れてねぇうちはな。だが、お前にはあるじゃねぇか。人並外れた体力が!あとは気力だけだぜ」
「はいっ!」
そして、宿命の山賊戦で
「うおおおおおおお!!!!」
「なんだぁ?そのへなちょこ剣術は。オラ、死ね!」
スキルレベル1のへなちょこ剣術を披露して、いつもなら確実に倒せている山賊剣士に殺されて、死んだ。
死ぬ瞬間はいつも痛い。が、これだけ殺されれば多少は慣れてきた。
––679回目
「お前、本当に今日初めて剣を使ったのか?基本が正しくできてるじゃねーか」
あれから俺は、バーズに剣を習いつつ、たまに槍や体術、弓術も習って、山賊相手には魔法を打ち続けるという日々を送っている。
どうにもスキルレベルは実戦のほうが上がりやすいらしく、魔法レベルもほんの少し上がっていた。
しかし、俺の剣術や槍のスキルレベルだと到底戦えるようなレベルではない。
武術の実戦に挑むのは後からにすることにした。
––789回目。
どうにも俺には武術のセンスがないようだ。
やはり、というべきか。
魔法に比べて、どうにも上がりが悪い。
未だにメインで上げている剣術のスキルレベルが23だし。
それでもなんとか、バーズを魔法なしの一対一で倒すことに成功した。
バーズの剣術スキルレベルは19。
ここは男女の膂力差よりも、体を鍛えているかどうかという点が大きかったと思う。
武才はないと言っても、想像よりは遥かにマシだ。
もっとド底辺の武才を想像していたのだから。
本当のド底辺の武才であれば、実践経験を無数に積めて、おまけに必死で鍛えているといえど200日やそこらでここまでの剣は振るえない。
そして、ベイガルさんに教えてもらえることになったので、教わることにした。
ここから、さらに上達するといいな。
俺一人で生き残っても意味がないんだ。
村人みんなが生き残らないと意味がない。
心情的な面でもそうだ。生まれ育った村の人々が虐殺されるのは腸が煮えくり返るような思いだ。
そして、俺一人が生き残ったところでそれから生きていけるわけでもない。
俺には王都で文官として仕官し、やっていくだけの能力はあるはずだ。
自分が特別優れているだのという思い上がりはないが、計算ができて文字が読めるというだけでも十分だろう。
この世界は本の値段が現代日本並みとは言わないが、平民でも買えるほどに安いのに、読み書きできる人は少ないのだから。
しかし、コネがなければ商家で雇ってもらうこともできない。
つまり、詰むんだ。
俺とこの村の人たちは一蓮托生だ。
「うおおおおおお!!!」
「……なかなかやるが、そこのガキと同レベルか。殺すにゃ惜しいが、生かしてやるほどでもない。死ね」
そして、今度は山賊の棟梁の元にまでたどり着いて、結局死んだ。
––1000回目。
「……味がしない」
いつもどおりの朝を迎え、いつもどおりの朝飯を食べる。
食べ飽きすぎて、もはや味がしない。
正直、水を飲むより美味しくない。
それでも食べなければ元気がわかないし、母さんが作ってくれたものだからちゃんといただく。
それからいつもどおりベンガルさんの家に行って、バーズと戦って倒す。
「……くっ」
「これでどうですか?」
「……すげぇ剣の技術だな。もしかしたら俺以上かもしれん。すまんが、教えられることはないな」
そして、どうやら今回で村長から免許皆伝を言い渡されたようだ。
前回の山賊との戦いで剣術レベルが39に上がったからな。
たしか、ベンガルさんの剣術レベルは36のはず。
……そりゃあ、そうなるか。
それでも、魔法無しで戦えば10やって7は負けると思うが。
他のスキルやそもそもの身体能力の兼ね合いで。
どうにもすることがないので、山に籠もって魔法を打ち続けたいのだが、今の俺がまともに魔法を打ったら不味いことになりかねないので諦めた。
そして、山で一人黙々と剣を振るう。
そして、午後3時頃。
「その、俺達……」
「付き合うことになりました!」
バーズがもじもじしながら言うのに対して、エフはさわやかだった。
この動きはいままでの周回で見たことがない。
一体何があったんだ?
「その、俺ってお前に負けただろ?それに親父ですら超えてるってわかってさ。かなりの衝撃だったんだよ」
「それがなんでこうなったんでしょうか?」
「それでエフにお前は諦める、アリアと幸せになれって言ったら……勘違いを正されて、なんか付き合うことになったんだよ」
「なーんだ、そういうことか。エフの矢印が女である自分に向いているなんて勘違いしていたのはお前だけだよ」
俺は前世の影響か、どこか男っぽくて村の女子にも人気があった。
いや、見た目はやたらと可愛いらしいから男子にもやべぇほどに人気は高かったが、女子にも人気があったんだ。
それで、エフも俺のことが好きなんだと勘違いしたわけだ。
仲自体は良かったけど、恋愛感情は一切含まれてなかったのにな。
「なら、負けられなくなったな」
この世界をバッドエンドでは終わらせてやらない。
「山賊が来たぞー!60人ほどだ!」
そうして、タダべーさんの伝令がやってきた。
「なぁっ!?マジかよ!?おいアリア、一緒に親父んとこいくぞ!」
そうして、村長のもとへと走っていった。
「さて、みんなももう知っているとは思うが、山賊の集団が攻めてきた。60人ほどらしいが、俺は負けん!能う者のみ俺について来い!」
「「「オオオオオオオォォォォ!!!」」」
いつもどおりの軽い演説が挟まり、それに対して喝采が巻き起こる。
さて、ここからだな。
まず棟梁は村長に任せることにしよう。
俺は雑魚たちを掃討してくる。
そうしないと村人たちが無駄に殺されるだけだ。
それは間違いなく気分が悪い。
「しかし村長……アリアちゃんも戦うんですか?」
村人の一人……ソエスさんがそう問うた。
「ああ、アリアちゃんは俺よりも強いぞ。少なくとも、剣技の冴えでは俺では勝てなさそうだ」
実際、魔法ありの一対一ならば勝てるだろう。
特に苦労することもなく、だ。
「いや、アリアちゃんは剣を握ったこともないはずですが……」
「いいや、少なくともうちの倅を倒すくらいの実力はあるぜ。そうだよな、バーズ」
バーズがコクリと頷き、動揺が走った。
「というわけで、自分も戦います」
というわけで、俺は第一線に配置された。
第五話の題名が変わっていますが、内容には変化はありません。