第三話 覚悟を決めて
「……逃げるしかないよなぁ」
とは言ってみても、子供一人で逃げたところでまともに生きられはしない。
遊女にでもなれば比較的金銭関連はマシなのかもしれないが、男とそういうことをするのは本当に無理だ。
しかも商売で、となると地獄だろう。
そして病気も怖い。
となるとなんだ。罠でも仕掛けるか?
だが、俺一人で仕掛けられる罠はたかが知れてる。
そもそも止められるだろう。
あー、俺とバーズの立場が逆だったらまだやれることもあったのに。
……となると、あいつらを正面から倒すくらいしか道はないわけだが。
倒せるの?この細腕で?
この世界はスキル制の世界で、何かを鍛えるごとに特定のスキルのレベルが上がり、身体能力や魔力など……対応する『力』が高くなる。
しかし、俺にはどうにもあまり才能はなさそうだった。
ない、というかごく普通というか。
まあ、そもそも鍛えたことすらないのだから、なんとも言えないかもしれない。
一応この世界にも魔法は存在するが、この村には魔法使いはいないし、習得するなら本から独学で覚えなければならない。
それだけであの山賊の軍団を倒すには十年以上はかかるだろう。
と、そこまで考えたところで一つ名案が思いついた。
なら、十年かければいいんだよ!
俺には死に戻りというチートがある。
ならば時間はどうとでも工面できる。
よし、学ぶことにしよう。
まずは前回と同じように、村長の家へと歩いていった。
「ベイガルさん!いますか?」
そして、ほどなくして村長が出てきた。
「おう、アリアちゃんじゃねぇか。今日はどうしたよ。バーズのやつなら、裏庭で素振りをしているぜ。呼んでこようか?」
「いえ、それには及びません。ただ一つお願いがありまして」
「なんだ?言ってみろ」
「実は……魔法を覚えたくなったのですが、魔法書を貸してもらうことはできますか?」
「おう、構わんぜ。じゃあ書斎についてきな」
村長の家の中に案内される。
途中、メイドさんなどもいたが村長は呼んだ時、いつも自分の足で会いに来てくれる。
そういうところから、村人から慕われたりしているが……。
3回ほど死んだからか、少し不用心だななどと思ってしまった。
村長自身がチートじみた強さだから問題ないのかもしれないが。
「アリアちゃんは昔、ここにある歴史書は全部読んじまったもんなぁ。才女なんて呼ばれてたが、今度は魔法も覚えちまうのか。やっぱり天才は違うねぇ。うちのバーズにも見習わせたいぜ」
その言葉に『恐縮です』とだけ返し、魔法関係の本を片っ端から取り出した。
「本当にありがとうございます。これで道が開けたら嬉しいのですが……」
「うん?なにか悩んでいるようだが……ははは、行き詰まったら俺やバーズに相談してみろよ」
「ははは、どうも、お世話になりました」
この周回ではこれ以上世話にならないだろうし、本を返すこともないんだろうけど、そう考えると少し悲しくなる。
俺にとっては次があるからいいけど他の人にとっては違うだろうからな。
この世界が本当に時間逆行しているのか、似たような世界に意識だけ転移させているのかはよくわからないし。
はたまた並行世界ってこともあり得ると思う。
だから、できるだけその次が訪れないように鍛えなければ。
俺は、一心不乱に本をめくった。
そうしているうちに、山賊が現れて俺は殺された。
––アリア、死亡4回目。魔法を学ぼうと集中しすぎた結果、気づかないうちに死亡。
「……すぅすぅ。……ハッ!」
気づかないうちに殺されたためか、久しぶりにいい寝心地だった。
しかし、魔法の概要はよくわかった。
本の内容は全部暗記した。
どうにも、周回が始まってから記憶力が上昇しているようだ。
もともと記憶力は良かったが、それにも増して高い。
理由はわからないが、必死になっているからだろうか。
今までの俺は前世を含めてものぐさで、どこかカッコつけたがりだった。
一人称の「自分」だったり、妙な口調なんかは頭が良さそうに見えそうだからやってるという非常に酷い理由だし。
そも、元の世界では歴史なんて学んでいなかった。
この世界では学んでいるのは、まともな娯楽が少なく、また小説なんかも基本的に質が低いので歴史を学んでいる方がよっぽどストーリーを楽しめるという理由ゆえだ。
しかし、今の俺は躊躇が薄い。
ようやく本気になれたということだろうか。
しかし、『明日から本気出す』ならぬ『死んでから本気出す』とは我ながらクソだと思う。
だが、ここで本気を出さねば永遠に殺され続けるだけだ。
ここからが俺の逆襲の始まりだ。
いい気になっている山賊共、見ているが良いさ。