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第十八話 王位のやべーやつ

「……ふむ」


 城内ではかなりの品質であろう武具があちらこちらに飾られていた。


 兵士たちもみな屈強だ。


 それだけ武を好むということだろうか。


 しかしそれにしては少しだけ違和感があるような……。


 しばらくの道のりを兵士に連れて行かれて、オーディン王家固有の紋章が飾られた扉の前に招かれた。


 兵士が扉を開けたので、覚えたての礼法を守りつつ中に入る。


「貴殿が使者殿か」


「はい。二等文官のアリアと申します」


 現れたのはオールバックの銀髪に、長い顎髭を蓄えた50ほどの男性だった。


 確かに強そうだ。顔も腕も……見える範囲は傷だらけだし。


 俺なんかでは相手にもがならない……とまでは言わないが。


 しかし、彼が絶不調かつ、俺が絶好調のときに100回やって2、3回勝てるかどうかというところだろう。


 隣に立っている……おそらくヘルラート一等武官であろう男も相当強そうだ。


 こちらは俺と互角程度か。あるいは俺のほうが強いかもしれない。


 俺の観察眼がどこまで信用できるか、というのもあるが。


「私はオーセン・ヘベウラートだ。まあ、知っているとは思うがね」


 それからしばらく形式的な雑談をした。


 元・平民とはいえど、豪農出身だけはあるのか、本人の資質が大きいのか、確かな知性を感じる。


 俺の知識は結構偏っているから、オールマイティな知識の持ち主には少し気後れしてしまう。


 しかしそれならば、もっと領地が潤っていてもいいだろうに……。


 まあ、有名歴史シミュレーションの神君の野望シリーズでも頭のキレは知謀と政務、あと統率に分けられていたしそういうものなのかもしれない。


 それに、エリートのはずなのに後世から罵られるようなことをやらかした人物も少なくないしな。


「王都に面白い者が入ってきたとは聞いていたが、なかなかではないか。漂う武威もなかなかだ」


「いえ、それほどでも……」


 褒められた……が、雰囲気からしてただ褒めただけではなさそうだよな。


「貴殿ほどの者ならば、大いにテレネシエードの役に立つだろう。……どうだ?我らにつかぬか?」


 将軍はニヤリと笑いながらそう言った。


 ……あー、城に入れてくれると言うこと自体が罠だったのね。


 全部俺をテレネシエードに付かせるための罠ってことだ。


 しかし、兵士が取り囲んだりはしない。


 それは実力差がありすぎるから当たり前だが、俺と同等かそれ以上の実力を持つ二人も特に構えたりはしない。


 逃げようと思えばいつでも逃げられるだろう。


「ははは。まあ、すぐに鞍替えはせぬよな。しかし、私はもうオーディンに戻るつもりはないぞ。あの愚昧な王にはさんざん煮え湯を飲まされてきたからな……!!」


「……実は将軍と王の間に何があったのか、よく知らないのです。教えてくださると助かります」


 この周回でどうこうしようとかは考えていない。


 今回は精度の高い情報を手に入れるのが先だろう。


 時間がなさすぎて、二人の間に何があったのかほとんどわからない。


 概要は聞いていたけど、それが原因かはわからないし。


 それは次の周回で他の人に聞いてもいいが、どうせなら本人にも聞いて照らし合わせたほうがいいだろう。


 伝聞はすぐ歪むし、本人の情報は本人の情報で主観が入って捻じ曲げられる。


 将軍は知性はあれども感情的な人のようだから、後者が起こっても何らおかしくはないだろう。


「そうか……では話してやろう。王を憎む理由の序章を。30年前、5人枠にギリギリ入れる程度に強くなり、恋人もできて順風満帆だと思っていた頃の話だ」


 当時の将軍は堅物で、周りが遊び歩く中、恋人との時間も確保しつつも壮大な鍛錬を積んでいたという。


「彼女とは幼馴染だった。間違いなく愛し合っていたし、結婚も考えていた。否、承諾をもらっていた。そんな日々を送る中、私は防衛戦へ駆り出された」


 今よりは弱かった若き頃の王も相当の実力者だったが、病気をしていたせいで戦場には来なかったらしい。


「私は先鋒として戦った。今では治っているが、重症も負った。しかし、私の勝利によって軍は勢いづき、戦いには勝利した」


 そして戦争に勝利してしばらく経ったあと。


「王に呼び出された。実力は少しずつ高まっていたから、将軍の補佐にでも昇進できるかと思って喜んださ。しかし、王の隣には私の恋人が立っていた」


 なんでも、王は将軍の恋人に横恋慕していたらしい。


 特段美人というわけではなかったというが、とにかく王は将軍から恋人を奪い取ってしまったという。


「そして奴はこう言った。『妻を王に渡せるなど、最高の栄誉ではないか。わしは忠義者を持ったものだ』と」


 ……この話は初めて聞いたな。ヤバすぎてひた隠されたのか?


 しかしいくらなんでも煽り文句が酷すぎる……。


 この国に仕えてて大丈夫なのか?俺も同じようなことされないか?


 うわー……この国、守る価値なくない?


 次の周回ではアーレを連れてテレネシエードに亡命しようかな……。


 いやいや、それでは村人が大変だし……。


 優先順位を間違えちゃいけない。


 でもその選択肢も考えなくちゃな。


「それから奴は第二王妃を持つこともなく、情婦すら持たずに二人で仲睦まじく暮らしているというのが気に入らない。アン……いや、王妃が私より奴を選んだというのも気に入らない。ことあるごとに仲の良さを見せつけてくる嫌がらせをしてきたのはさらに気に入らない」


 寝取るところまでは百歩譲って理解できても、見せつけるというのは流石に酷い。


 第二王妃すら持たないということであれば、本気で惚れたんだろうから理解はできるが、最後のはどうかと思うね。


「だがこれは些事と言っていいだろう。本質的な問題ではない」


「えっ……」


 これだけの問題を許しちゃうの!?


 どんだけ度量広いんだよこの人!


「ヌハマにたぶらかされ、私と王の仲はそのうち修復された。ぎこちなさは残った。私の出自を侮る発言もあった。それでも、信頼関係は構築できた。侮る発言は王なりの軽口だったのだともわかっている。不器用なお方だからな。あの件は若気の至りによるものが大きかったのだろう。私も忠義を持って誠心誠意仕えた」


 折り合いはそこまで悪くなかったということか。


 だが、将軍の顔は怒りに歪んだ。


「しかし、しかしだ!王は特に問題を起こしてもいないアーキスを、名誉剥奪の上死刑にしようとしたのだ!」


「アーキス……?」


 俺を殺しまくったあの山賊がどうしてここで出てくるんだ?


 注意深く話を聞くことにした。

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