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婚約者の愛人志願⁉︎

友人から婚約者の愛人志願を相談されました。

作者: 夏月 海桜

なんとなく思いついた話で最初と最後だけが思い浮かんだ話です。

「リーリア。こんな事をこんな時に言うのは凄く申し訳ないとは思っているの。でも私はやっぱり諦めきれなくて……」


友人の男爵令嬢・ナッチェがそんな切り出し方で私を見つめる。


「ナッチェ。とにかくいきなりそんな言われ方をしても分からないわ。何が申し訳ないのかゆっくり話して下さる?」


「ええそうね。ごめんなさい。忙しい時に」


「いいのよ。私達友達でしょう?」


忙しいのは忙しい。私子爵令嬢のリーリアは1ヶ月後に婚約者である伯爵令息のハンス様と結婚することになっていてその準備に追われているから。でも友人のナッチェが忙しい事を承知で会いたいと言うからには何か大切な話があるのだろう、とウチに招待した。そこで申し訳ないと彼女は言い出したのだ。取り敢えず落ち着かせるために侍女にお茶を頼んでソファーに促す。お茶を一口飲んだナッチェは何か躊躇うような顔を見せた。


「どうしたの?」


私が促せばナッチェは深呼吸をして私を見る。そしてーー


「ごめんなさいっ。私、実はハンスと恋仲なのよ!」


………………ええと。


「ハンスって私の婚約者の?」


先ずはそこを確認した方がいいわよね。ナッチェはコクリと頷くと堰を切ったように話し出した。


「リーリアからハンスを婚約者だと紹介された後で偶然街中でハンスと会ったの。それでお茶に誘われて話してみたら意気投合して。その日はずっとハンスと一緒に居たわ。彼からプレゼントももらってその後も何度か逢瀬を重ねて……その口付けもしているの」


「あら……」


それは確かに恋仲のようだわ。私2人の事全く知らなかったわ……。でも……


「でもナッチェ。あなたも婚約者がいるでしょう?」


「ええ居るわ。子爵令息のモリドーね」


「そうよね。不貞行為になると思うのだけど……」


私は困ったように告げる。婚約というのは仮の結婚相手でまぁ解消する事もあるけれど大抵はその相手と結婚を前提としている。私とハンス様の場合は完全な政略結婚。伯爵令息のハンス様の家はお金に困っていらしてウチの子爵家は高位の貴族とお近付きになりたいという思惑がある。ウチの領地で作られているワインを使ったお菓子を私が発案したのだけど販売ルートを確保するためにハンス様の家はかなり有力なのよね。伯爵位でも古い家柄だから公爵家や侯爵家とも付き合いがあるし。ハンス様の家の方はハンス様のお母様が作られた借金を返す為にウチと契約したのよねぇ。

だからいくらハンス様とナッチェが恋仲でもそうそう婚約解消は出来ない。せめてナッチェの家である男爵家がウチと同じくらいお金があれば良かったのかもしれないけれど……残念ながら無いのよね。というかだからこそナッチェとモリドー様との婚約が整ったのよね……。ナッチェの家はお金が欲しい。モリドー様の家はとにかく妻を迎えたい。という条件の政略結婚だもの。


「でもね。リーリアもモリドー様の噂はご存知だと思うけれど……」


「ええと。モリドー様は女性に興味が無いって噂かしら?」


「ええ。だって私と会話をするのも嫌そうな顔をされるのよ? でも彼は跡取りだから妻を迎えて跡継ぎを残さなくてはいけないじゃない?」


「そうね」


「でも愛されていない男と結婚生活は耐えられない! でも我が家は既にモリドー様の家のお金を当てにしている。私もそれは分かっているのだけどやっぱり恋仲のハンスを諦めきれないの! だからね? リーリア。ハンスと結婚したら私とハンスの愛人生活を許して欲しいの! ハンスとリーリアも結婚をやめられないでしょう? 私もモリドー様との結婚が半年後にあるし……」


「そう、ねぇ……」


うーん。私は別にハンス様を愛していない。家同士で決められた契約なので割り切っているだけ。ただハンス様も私もお互いに仲良くなろうと交流はしていたし手紙や贈り物も交換してきた。夜会のパートナーもエスコートは申し分無かったし愛情は無くてもお互い穏やかな結婚生活を送れると思ったのよね。でもナッチェの話を聞いてしまうと、そう思っていたのは私だけのような気がするわ。


「お願いよ! あなた以前にハンスの事を愛していないと言っていたじゃない!」


確かにそうだけど……。愛していないからって友人と婚約者の不貞を許すのは別だと思うのよね。……でもまぁいっか。私はハンス様を愛していないし。だったら2人の恋を応援するのもアリね。あ。でも。モリドー様の気持ちはどうなのかしら?


「うーん。そうねぇ。ではこうしましょう? ナッチェ。今日はモリドー様はどうされているの?」


「えっ? 今日? 知らないわ。仕事でもしているのじゃないかしら」


「そう。では今からモリドー様の家に使いを出すわ。モリドー様の気持ちも聞いてモリドー様があなたとハンス様の愛人関係を納得するなら私は構わないわ。だからモリドー様の都合を確認して今日のうちに話し合えるなら話し合ってしまいましょう?」


「えっ? えっ? ちょ、ちょっと……」


「遠慮しないでいいわ、ナッチェ!」


私は執事を呼んでモリドー様の家に使いを出してもらう。今日、都合がつくなら我が家においで下さい、と。その間にナッチェを留めておく。実はこれから結婚の打ち合わせにハンス様がウチを訪ねて来る予定なのでモリドー様もいらっしゃるならちょうど良いと思ったのだ。ナッチェは落ち着かない様子だけど。それはそうかもしれないわね。モリドー様には話していなかったみたいだし。

果たしてモリドー様はハンス様よりやや遅れてウチにいらっしゃった。ハンス様を出迎えていたところへモリドー様がいらっしゃったのだ。ちなみにモリドー様とウチは同じ子爵家なのでそれなりに交流はある。


「リーリア。ええと何故彼がここに?」


「ええ。その事でちょっとハンス様にもお話があるの。モリドー様もようこそいらっしゃいました。お話をさせて頂いても宜しいかしら?」


男性2人は戸惑っているようだけど否定はされないから私は応接室へ案内する。そこにナッチェも居ると2人に説明した。2人はまた戸惑っているご様子。お茶を全員分侍女に用意してもらった後人払いをしてドアもきっちり閉めて私は3人を見回した。


「さて。モリドー様、急にお呼び立てしてすみませんでした」


「いや。呼ばれる理由に心当たりは無いがリーリア嬢は我が婚約者のナッチェの友人だと聞いていたからナッチェの事だろう、とは思った」


「ええ。そうなんです。ナッチェ。ここにいるのは私達だけ。モリドー様にもちゃんとお話して認めて頂いて? そうすれば私たち公認よ?」


「リーリア? 話が見えないんだが……」


私がナッチェに声をかけるとハンス様が困った顔をする。あら。ナッチェと話し合っているのではないのかしら?


「話はハンス様とナッチェの事ですわ」


「私とナッチェ嬢の?」


ハンス様が驚く。あら? ああそうか。私に隠しておくつもりだったのね? そうよね。婚約者がいるのに口付けも交わしていたなんて不貞もいいところですもの!


「ええ。2人が恋仲だという事はナッチェから伺いましたわ! 私とハンス様の結婚は政略の事。婚約を解消出来ませんが、それはナッチェとモリドー様も同じ事。ですから結婚した後でハンス様と愛人関係になりたい、とナッチェから伺いましたの。私は別にハンス様を敬っておりますが愛していないですから、せめて愛し合うお二人の仲を裂くような事はしたくないですわ。ハンス様のお子は私でなくてナッチェが産めば宜しいでしょう? 私は伯爵夫人の務めは果たしますわ!」


私が意気揚々と高らかに宣言するとハンス様の表情が消えました。あら?


「どういう……ことかな?」


低い声音のハンス様に私は首を傾げます。


「ハンス様? ナッチェと恋仲なのでしょう? 何度も逢瀬を繰り返して口付けも交わす仲だとか」


「そう、なのか?」


私の説明にハンス様より早くモリドー様が確認してくる。


「まぁモリドー様は全くご存知無かったのですね? 私も先程聞いたばかりなんですの」


「ねぇリーリア。それを聞いて君はどう思ったの?」


ハンス様の表情は消えたままに見えますが何ででしょう?


「どう? ハンス様とナッチェが結婚出来なくて申し訳ないので愛人関係は認めようか、と。私はハンス様を愛しておりませんし。2人が恋仲なら応援しようかと。ハンス様は婚約者として素敵な方ですし結婚すれば穏やかな生活を紡げるかと思っておりましたが。愛し合う恋人がいるならそちらを優先するのは当たり前ですものね」


にっこりと笑ってハンス様に構いませんわ、と伝える。お互い政略結婚なのだから愛人がいても別に問題ない。それはそうと。


「ところでモリドー様はナッチェの事をどう思っていらっしゃいますの? 女性に興味が無いと噂されていらっしゃいますけど」


「正直なところは別に。女性に興味が無いというより妻を迎えて跡継ぎは必要だがその後は愛人がいても何の問題もない」


「まぁそうでしたの。ではモリドー様もお二人の仲を認められるのですわね?」


「構いません」


「ではナッチェ。ハンス様。結婚した後で楽しく恋愛をしてくださいな」


私は綺麗に話が纏まったと思って立ち上がる。今日の予定がだいぶ狂ってしまった。


「ありがとう! ありがとう、リーリア! ハンス。これで私達は2人の公認よ!」


ナッチェが叫んだところでハンス様が顔を真っ赤にした。


「ふざけるなっ!」


「ハンス様?」


「リーリア! 君は私の気持ちをちっとも分かっていない! ナッチェ嬢と何度か会ったのは確かだが別に口付けを交わしてなどいない! 私は友人だと言うナッチェ嬢にリーリアの話を教えてもらっていただけだ!」


「私の?」


「私の知らないリーリアの事を教えて欲しいと頼んだだけだ」


「……それは私に訊ねれば良い話では?」


ハンス様の仰る意味が理解出来ずに私は首を傾げる。ハンス様はうっ……と黙ってから渋々と口を開いた。


「リーリアが好む物を教えてもらって驚かせようとか思ったんだ……。だが君が好きなはずの赤い薔薇の花やサンゴのネックレスを贈ってもあまり驚いてもくれないから。喜んではくれるがなんだかあまり嬉しそうではなかったから……。ナッチェ嬢のアドバイスに従っていたのに……。それまでの贈り物は君の好みを知らないから流行物を贈っていたが、それを喜んでいても嬉しそうではなかったから……。だからナッチェ嬢に好みを聞いていたんだ」


「……ええと。ハンス様のお気持ちは分かりました。婚約者として大切にして下さっているのも分かりました。ですがやはり私に聞いて欲しかったですわ。私の好きな花はカサブランカですの。好きな宝石はエメラルドですわ。好きな色は緑ですのよ?」


サンゴや赤い薔薇は嫌いじゃないし見て美しいと思いますが物凄く好きでは無いのです。ですから贈って下さる気持ちは喜べますが嬉しいかと言われると「ええまぁ」くらいなものでしたわ。


「そんな……私は間違えていた、のか?」


「サンゴも赤い薔薇もナッチェの好きな物ですわ」


「なっ……」


ハンス様は絶句されます。騙されていたと思ったのでしょう。


「ナッチェ。どうしてハンス様を騙したの?」


「だってあなたズルイのよ! ハンス様に好かれているくせに気づいてなくて。伯爵なんて高位の貴族の妻に収まるし。顔もカッコいい男なんて。私なんかいくら金持ちでもたかが子爵だしモッサリとした髪の毛で垢抜けない男が婚約者なのよっ! だからリーリアの婚約者を奪ってみようと思ったのよ!」


私は……ナッチェを友人だと思ってました。ですがナッチェは違う。私を友人だと思っていなかったのだ。そう思えば心が冷えました。そして私にきちんと尋ねないハンス様の事もなんだか許せませんでした。


「ナッチェ嬢。婚約は解消しよう。君は私の外見も爵位も気に入らないようだからな。リーリア嬢がハンス殿の愛人としてあなたを認めるみたいだしハンス殿に媚びて見事愛人の座を掴んでみてはどうかな?」


テキパキとした発言はもちろんモリドー様のものです。彼は仕事モードはいつもこんな感じです。その反動で休みモードはのんびりとしていて喋るのも億劫な程です。彼の姿は休みモードだからこんな髪なのですが仕事モードは髪も整っているのです。


「婚約解消⁉︎ そんな⁉︎ 我が家の借金が……」


「ナッチェ。今回の件を反省して私にもモリドー様にもハンス様にも関わらなければウチが借金分は支払いますわ。一度はあなたを友人として過ごしたのだもの。でもここで私達の友情は終わり。餞別に借金分は支払います。それと知らないようだから教えますけれどモリドー様は別に垢抜けていないわけではないですわよ?」


ナッチェの家の借金分を私が発案したお菓子の売れ行きが好調でしたのでその売り上げ金で支払います。契約書も書いてお金を渡すのと同時に契約書にサインしてもらった。それから最後にモリドー様について教えてあげる事にします。


「何よ、どういう意味?」


「モリドー様。久しぶりに宜しい?」


「……ああ」


ハンス様の隣に座るモリドー様を私の隣に移動してもらい、反対側の私の隣に座っていたナッチェに「よく見ていてね」と声を掛けて私は自分の髪留めのピンをモリドー様の前髪につけていく。邪魔な前髪を全てピンで留めて顔を出せばーー


「えっ? こんなに美しい顔をしていたの?」


ナッチェがウットリとした顔でモリドー様を見ていた。そう。モリドー様のお顔はハンス様よりも美しい。私が知っているのは同じ子爵家なので幼い頃から交流しているから。私達は幼馴染みなのだ。ただご自分に無頓着なので前髪がモッサリしているのも昔からで。私と会う時はいつも私が前髪をこうやって上げていた。


「モリドー様が女性が苦手なのはこの顔に近寄って来る人が多いからなのよ。モリドー様はデビュタントで顔を出したらあっという間に女性に取り囲まれたらしいの。それを他の令息達に妬まれてある事ない事言われたそうよ。だから顔を隠して女性を遠ざけたの。私は元々モリドー様と幼馴染みだから知っていたのよ」


私の説明をナッチェは聞いているのかしら。ウットリした表情を見れば聞いていないわね。モリドー様は顔を隠したいみたいで前髪を触っている。ピンを取り外してあげると「では」とささっと帰られた。その後をナッチェが追いかける。……あの子婚約解消したってわかっているのかしら。

さてそれはそうと。


「ハンス様。結婚の打ち合わせをしましょうか」


「それも必要だけど。今は2人の仲をもう少し進展しようよ」


ハンス様は2人を見送った私の隣にいつの間にか移動して来られてそのような事を仰いました。同時に両手を握られて外せません。徐々に距離を縮めて来て片方の手が腰に回されます。ええと。


「私の気持ちが伝わっていると思ったのにリーリアには全く伝わってなかった。だから言葉にするよ。リーリアが好きだ。初めて会った日、ニコニコと話す君の笑顔も声も好きになった。贈り物は次から失敗しない。だから私の事を見捨てないで欲しい。もちろん愛人を持つ気はないし持たない。リーリアも持たないで」


その後私はハンス様に唇を奪われていました。それから目や鼻や頬にハンス様の唇が触れます。……もしかして私は随分とハンス様に好かれているのでしょうか?







***

後日、噂によれば婚約を解消した筈のモリドー様とナッチェはナッチェがモリドー様を追いかけている、とか。それに辟易したモリドー様が再び女性が苦手になった、とか。そしてナッチェに、これ以上近づくようなら考えがある、とモリドー様が怒った、とか。


そんな噂が聞こえて来ましたがとりあえず私とハンス様は本日結婚します。

そんなわけでリーリアさんは鈍かった。

でも自分の好みと違う物をもらっていたので気づかなくても仕方ない?多分。

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