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2 出会い

だいちこく!ごめんなさい!(やきどげざ)エタらないからまっててて!

 昨日の帰り際、華城さんに映画部の見学に誘われた。別に誘われたからって行かなくても良いんだろうけど、「待ってるね」って言われちゃうとなぁ。断れないよ......。


 放課後まで華城さんと会うこともなく、放課後になってしまった。うん、まぁ覗くだけでも行ってみよ。部活悩んでるのは事実だし、そして暇だし......。寮に戻っても多分1人だし......。


 映画部の部室がある旧校舎は、校舎の向かいにある。わずかに西洋の趣があるお洒落な建物は、丸ごと文化部の部室棟になっているらしい。これは昨日聞いたんだけど、ルームメイト曰く、実はこの建物は市の文化財に指定されているんだとか。入学の時、綺麗な建物だなぁとは思ったけど、まさか部室棟だったなんてね。


 旧校舎に入ると、廊下で他の部の生徒とすれ違う時にもの珍しそうに見られる。視線はだいたいピンク色の毛先のあたり。星花ってあんまり髪を染めてる子がいないから、このちょっとしたピンク色でも結構目立ってしまう。入学式の時もちょっとアウェー感あったからなぁ。でもしばらくしたらみんなも慣れるっしょ。


 ルームメイトに言われた通りに校舎を進むと、映画部という文字が見えた。華城さん以外にどんな人がいるんだろ。ていうか今華城さん居るのかな。苦手な人種とか居たらあたし無理かも......。歴史のある木製の扉を前にして、ちょっぴり緊張してきた。息を吸って、ふぅっと吐く。少し落ち着いてから、ゆっくりと扉を引いた。


 映画部の部室は、想像より遥かに綺麗でお洒落だった。すご。明るめの木目調タイルの壁、白くて大きいテーブルに、窓際に置かれたパキラ。部室と言うより、ちょっとしたカフェみたい。


 ただ、ちゃんと大きめのホワイトボードがあったりして、完全に学校感が消えているわけではないんだけどね。


 そのカフェ風の空間の中に、なにやら楽しそうに話す華城さんと、もう一人の姿があった。ここからだと、顔も校章も見えなかった。けれど目立つのはその綺麗な髪。黒髪が照明の光を反射して、天使の輪っかが浮かび上がっていた。


「あ、あの、1年の秦野みよといいます。映画部の見学させてもらっていいですか?」


 華城さんはすぐに気づいて、嬉しそうに表情を綻ばせた。黒髪の人も振り返って笑顔を見せる。


 華城さんが座りやすいように引いてくれた椅子に座ると、綺麗な黒髪が印象的な人がお茶を紙コップに注いでくれた。校章を見ると色が違うから、映画部の先輩のようだ。


「みよっち〜! 待ってたよ〜!」


「うん。ありがとね、華城さん。誘ってくれて」


 うお。抱きついてはこないけど、かなり近い。


「いいってー。むしろごめんね? 突然誘っちゃって」


 「ビビッときた」と言って華城さんが笑うと、黒髪の先輩がくすくすと笑ったあと、口を開いた。


「見学に来てくれてありがとね、秦野さん。私は2年の長谷川茉穂。よろしく!」


「はい、よろしくお願いします」


「莉央ちゃんから聞いたよ。何の部活に入ろうか迷ってるって」


「あー、はい。そうなんです......」


 部活で悩む人は沢山いるんだろうけど、その話が知らない先輩に知られているのがちょっぴり恥ずかしい。


「それでなんだけど......。秦野さんってどんな映画が好き?」


 そうだった。映画部の見学するくらいだから、大半は映画が好きな人だし、聞かれるよね。でも私はそんな好きじゃないし......。映画好きのお姉と一緒に見ることはあるけど、そこまでって程じゃなくて......。

 

「あー、えーと、実はあたし、そんなに映画観なくて......」


 正直に話していいものか一瞬考えたけど、後からバレるよりは良さそうだと思って、正直に話すことにした。実際誘われただけだしね。ゆっくりと先輩の顔色を伺う。


「そうなんだ。じゃあ、直近で観て覚えてる映画とか......ある?」

 

 楽しげに、先輩は気にせずにそう続ける。直近で見て覚えてる映画。えーと、途中で寝そうになったけど、珍しく最後まで観た、あの映画は......


「は、ハリケーンファミリー、かな......?」


 その時、先輩が弾けた。お淑やかで、くすくすとか、ふふって笑いそうな先輩が思いっきり吹き出した。華城さんは何が起きたかわからなそうな顔をしていた。


「ごめ、ちょっと、いや、映画そんなに見ないって言ってたから、ソレがくるとは思わなかった」


 先輩は一口お茶を飲むと、その映画について語り始めた。


「びっくりしたよ。まさかハリケーンファミリーが出てくるなんて。あれ面白いんだよね、俳優さんが元アイドルっていう話題性だけかと思ったりしたけど、あの俳優さんのやつ、独特の空気感あって好きなんだよね。もうお手本のようなサイテーさとか、もうほんっとくだらなかったり。兄弟の関係性も凄かった。途中ちょっと下っていうか、そういう描写も入るけど、あれもサイテーさが伝わってきて良いんだよ、うん。でも後半からガラッと変わるんだよね。最後見つかるところとか、心にくるものがあったよね。あ、同じグループの俳優さんの「半世紀」も良いよ!ぜひ!」


「あ、はい」


 先輩の目はとってもキラキラしていた。あの映画、とにかくサイテーって感じたけど、最後は本当に感動できたのをよく覚えてる。でもあたしはこんなに語れないなぁ。先輩が本当に映画が好きなのを実感しつつ、部活で好きな事をやってる事が羨ましいと思った。


「つい話長くなっちゃった。ごめんね。うちの部、映画に興味ない人も居たりするから、あんまりそういう映画の話出てこないんだよねぇ」


 有名な映画は出てくるんだけどね、と先輩は付け加えた。


「そういえば莉央ちゃんは見たことある?ハリケーンファミリー」


「見たことないよ。アタシ女の子が主人公の方が見やすくてさー」


 「うんうん、わかる」と相槌を打ちながら、とても仲が良さそうに話す2人。先輩に対してもフランクに、そして楽しそうに話す華城さんを眺めながら、紙コップのお茶を飲んだ。お話を聞きながら、少しずつ映画部の空気に慣れていって、溶け込んでいくような感じがした。


「あ、茉穂センパイ! あたしら話してても意味ないし、映画見よ! 前のやつ!」


 ニコニコと話していた華城さんが、急にハッとして勢いよくそう言った。


「あ......みよっち、何か見たいのある?」


「いいよ、華城さんが見たいやつで」


 にこりと、ちゃんと柔らかく話したはずなんだけど、楽しげだった華城さんの顔が曇った。え、何か変なこと言ったかな!? 口調が荒かったかな、ぶっきらぼうだったのかな......

 ぐるぐると一人で焦っていると、すぐさま華城さんが口を開く。


「あのさ、アタシのことも下で呼んで欲しいなって。アタシだけみよっちって、なんか壁感じるし......」


 目線をそらして、ちょっぴり恥ずかしがりながら、不満です。という態度の華城さん。


「え、あ、リオ......ちゃん」


「......もっと崩してもいいんだよ?」


「ちょっとまだそれは恥ずかしいかなぁ.....」


「みよっちはシャイだね〜」


 どうにか名前で呼ぶことはできたけど、どうも恥ずかしい。でも、ニコニコしている華......リオちゃんを見てると、なんだか自然に口角が上がっていく。


 そういえば、さん付け以外で呼ぶことってあんまりなかったかも。こういうのも嫌われてたのかなぁ......。


 その後、どうしてもニックネームで呼んでほしいリオちゃんと、まだ恥ずかしいから慣れるまでちゃん付けで我慢してほしいあたしとで、しばらくわちゃわちゃしていた。どうにか、慣れるまではちゃん付けで呼ぶことに納得してもらった。


 一息ついてお茶を飲むと、照明が暗くなる。あたしたちがわちゃわちゃしている間に先輩が準備を進めてくれていて、プロジェクターが再生画面を映し出していた。タブレット端末を手に持って、再び椅子に腰かけた。


「莉央ちゃん、前見たやつってこれだっけ?」


「えーと、アタシが見たのは2個前かな、これ」


 リオちゃんがタップしたのは、聞いたことのないタイトルの映画だった。


「今日はこれにしようか。秦野さん......えーと、みよちゃんもそれで良い?」


「はい、大丈夫です」


 しっかり先輩も、自然と名前で呼んできた。まだ部活に入ってないけど、もう一員になったような気分になる。


「じゃあ、再生するね」


 画面が暗転して、映画が始まった。少し不幸な一人の女の子が、頑張ってキラキラ輝くまでの物語に、すぐに引き込まれていく。


 不思議と、この時間は眠くならなかった。

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