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裏切りの告白2(朱明視点)

「私はね、君が思うよりもずっと醜悪な人間なんだ。この先も君といたら多分もっと好きになって戻れなくなる。そうしたら君を欲しがって独り占めしたくて閉じ込めて自由なんてあげたくなくなるだろう。私はそんな私が嫌だし、そうなってしまうのが怖い。君は向こうの世に必要な存在だし、君には君の生きる場所ががあるのを知ってしまったから、私は自分の醜い欲望で君を縛ったりはしたくない。そんな大事なヒトを私などの従魔にさせておくのは烏滸がましい」


 喋れないことが、こんなにも悔しいことはない。葵は俺の言葉も意思も無視して、自分の気持ちだけで物事を決めつけている。


 勝手な女だ!


 伸ばして止まったままの腕に力を込める。せめてこの腕が動くなら、俺は葵を捕まえて抱き締めて絞め殺しても離さないのに。


 そう思っていたら、彼女が俺に抱き付いてきた。強くしがみついてくる癖に、俺から与えられる行為を拒む。


従魔の契約を終了する(アクサピ・エント)


 最後だと決めつけるなら、どうして俺に猶予ぐらい与えないのか。こんなことなら、おまえの言う通り俺の方が閉じ込めて自由を奪ってやったのに。


「朱明…………………朱明……………」

「ふ…………っ、う」


 ポロポロと泣きながら俺に身体を寄せる葵に、何もできない。

 小さく震える体を服越しに感じるのに、女王の力に捩じ伏せられた俺では触れることすら叶わない。


「君は私の……………僕の愛しい下僕。愛してた、愛していたよ」


 俺はおまえを憎む。そんな言葉で終わらせるおまえが憎い。

 このままでは終わらせない。まだ何も伝えていない。

 その言葉へ何も返していない。


解術(ル・フ)


 ***********************************************


 全くこれはどうしたことだ。

 不快な気持ちのまま、抱き付いている人間を突き飛ばす。


「あ、うっ!」

「…………………誰だ?」


 地面に尻餅をついた人間が俺を見上げる。

 服装から少年かと思ったが、顔を見て女だと分かった。涙を浮かべて堪えるように唇を結んでいる。


「おまえは人か?俺に何をした?」


 見たところ人の世らしい。だが、なぜここにいるのか記憶がない。この娘が何か知っているのだろうか。


「………………さあ」


 地面に目を落とし、娘が意味ありげな様子でそれだけ言う。


「答えろ!俺に何をした!?」


 自分の知らない内に何かされたのなら許してはおけない。人間ごときが!

 襟首を掴み引き摺り起こせば、意外にも娘はクスクスと笑い出した。


「………………夢でも見たんじゃないの?」


 嘲るように言われて苛立たしい。絞め上げて自白させるつもりで手に力を込めようとしたが、娘が笑いながら涙を溢すのを近くで見れば、胸がざわざわとしてどうしたらいいかわからなくなってしまう。


「………………朱明っ」


 泣くのは恐怖からではないようだ。襟首から手を放すと座り込んだ娘が悲しげに名を呼んだ。


「俺の名を知っているのか?」

「……………………」


 なぜ答えない?

 俺から目を逸らした娘は、それでもただ俺を呼んでいた。


「朱明………………朱明……」

「おまえ………………」


 俯く娘を見下ろして、その黒髪に手を伸ばして止めた。


 知らない娘だ。向こうが一方的に俺を知っていることが癪で、このまま問い詰めてやろうかと思っていたのだが、俺にも憐れみの気持ちがあったらしい。


 娘へと声を掛けようとして、ふと彼女は人間だけではないと感じた。

 娘の肉体からは、魔力の気配が漂う。


 なぜ…………


 彼女の血に元より流れる人と魔の気配。それに上乗せする形で、俺の魔力を微量に感じる。

 それは一つの事実を示していた。


 俺が与えた。魔力を、恐らくは血を介して。

 この少年のような半魔に、自らを傷付けてまで与えた理由は何だ?


 軽く混乱している。

 細い肩をしばらく眺め、翆珀達なら知っているだろうと当たりを付けて魔の世に戻ることにした。娘を置いて行くことが気になって仕方なかったが、何を言えばいいか分からなかった。


 俺は娘の名すら知らないし、胸がざわつくような気持ちが何故かも知らないのだから。


『朱明』


 呼び慣れたような娘の声だけが頭にいつまでも響いて止まなかった。







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