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鳥籠の姫(朱明視点)

 

 日に一度、葵に自分の血を与える。

 彼女の人である部分は、初め拒絶を示し高熱を出したが、しばらくして下がってからは傷の回復は急に速くなった。

 おそらく、慣れたのだろう。


 その日、止まない雨を眺めていた俺が再び視線を眠っている葵に映した時、彼女の意識が浮上しかけているのに気付いた。

 目蓋が微かに動き、唇が小さく開いた。どうやら雨音に耳を澄ませているらしい。


「葵、聞こえるか?」


 このまま目を開くかと思ったが、反応は鈍い。


「おまえは死にかけていた。助けるには、俺の血を飲ませる必要があった。以前言ったが、魔の血には他者に影響を与える力がある。おまえが俺を従わせるのに血を飲ませたように、俺の血はおまえの受け継いだ魔の部分に反応して力を引き出す。魔の自己治癒力は人間よりも高いから、それを引き出して傷を治す」


 耳は聞こえているようだからと、今更だが説明じみたことを話しながら寝台に膝を掛けて彼女に覆い被さる。

 僅かに朱色を帯びる頬に紅色の唇。血色の良くなった顔に手をあてがい、声音を落として囁く。


「既に二度血をやった。一度に多量に摂取させられたら良いのだが、それでは今度はおまえの人間の部分の血が拒んで逆に身体を弱らせるかもしれない。少しずつ慣らすしかない」


「……………う……………あ」


 嫌がるように葵が呻いた。ふらふらと片手を上げて、俺の胸を押し退けようとして力なく指が滑る。


「外見は変わらないはずだ。不安に思うことはない」


 弱々しく抵抗を見せるその手を掴み、自分の手を重ねて寝具に縫い付けるようにした。今の葵になら、俺は彼女を好きなようにできる。


「抵抗しても嫌がっても無駄だ。俺は死ぬことを絶対に許しはしない」


 内心優越感に浸りながら、彼女に知らしめようと唇を押し付けた。


「ん……………う」


 眉根を寄せて身を固くする葵の様子に、一度解放してやった。


「怖がるな…………少しばかり俺と同じになるだけだから」


 身動きも儘ならない弱りきったこの娘を見ていたら、甘い衝動に囚われる。


 名を呼びながら目蓋に唇を落として、そっと頬を撫でる。

 プツリと自らの舌を噛んで血を含み、再びゆっくりと唇を重ねれば、雛鳥がねだるように小さく唇が開かれた。


「……………は………ん、う」


 葵は自分自身の意思で血を飲み、そのことに身を震わせるようにしていた。


 悩ましげに俺の血を受け入れる彼女に、次第に高揚していく。

 至上の果実を口にしたような、手に入れがたい悦びがあった。


 俺の魔力によって、その身の内を変えてしまうかもしれない。

 それはまるで、彼女の身体を隅々まで侵していくようで………


「………………葵」


 濡れて艶やかな色を湛えた唇のすぐ横で、名を恍惚と囁く。口内に血の味が消えても知らないふりをして、俺は彼女の唇を存分に味わった。





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