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熱に侵される(朱明視点)

「守るも何も契約術で従わされている。おまえに頼まれることではない」

「葵が心配なの」


 水羽は外見に似合わない憂いを帯びた表情をしていた。


「あたしは、もうすぐ寿命を迎えて消滅する。最後まであの子を見守ってあげられないかもしれない。代わりがいるの。あたしがいなくてもあの子を守ってくれるヒト」

「まさかそれを俺に頼むのか?契約術が無ければ、あの娘を殺すかもしれない」

「娘……………そう、知って」


  一軒の家から出て来た葵が、その家の子供と戸口の前で話をしている。それを水羽は目を細めて見つめている。


「あなたが契約術に縛られている限り、あの子に危害を及ぼす心配はないわ。それに、あなたはあたしよりも強い。適任だわ」

「勝手を言う。憎んでいる相手を守れとは都合の良い話だ」

「惹かれているくせに」


 無言で首を掴んで片手で持ち上げると、苦悶に顔を歪めながらも声を絞り出すようにする。


「あたしに、何かあったら、あおい、が心配…………する」

「だからどうした?」

「憎まれても、いいの?」


 ハッとして手を放すと、ペタリと着地した水羽が首を押さえて見上げてきた。確信を得たとばかりの眼差しを向けてきたが、すぐに手元へと視線を下ろした。


「あの子は、我が姉である光紫よりも言葉の力が強い。神久地の血統の中でも抜きん出ているわ。だからその分人の世で辛い思いもしている。あたしはあの子が苦しむようなら魔の世に連れて行こうとも思ったけれど、それをあの子は望んでいないし、あたし自身が魔の世を憎んでいるからしたくない」


「人の世で姉様の血筋を守って生きると決めたから」と話す魔を一瞥する。


 魔の世があんな状態の為に、人の世に流出した高位の魔は多くいた。だが殆どは人の世の念や障気に汚染されて長くは生きられなかった。それは人は人、魔は魔の世でしか生きるべきでないという自然の理だろうと推し測れる。水羽も本来はもっと生きられたかもしれないが、人の世で生きた魔の中では長く生きたほうだろう。

 まあ数日留まる分には影響もないし、魔力が並みより強い者は耐性があるから気にするほどではないが。


「あなたの母親、虹藍(こうらん)のことは絶対に許せないわ。あのヒトに従った魔の世も……………だけど葵の為になるのなら、あなたに託したい。この先あの子が辛い目に合ったら救い出してあげて」

「どうしろと?」

「……………それは、その時あなたが考えること…………呼んでいるから行くわ」


 葵が辺りを見回している。我々は人間には視認できない次元の隙間にいるので探しているのだろう。


「…………あの子、優しい子よ」

「どこが」


 空間を割いて脚を踏み出した水羽が、忘れていたように口を開いた。全くもって同意できずにいれば、悲しそうに笑う。


「でも淋しい子なの。だからあなたを従魔にして喜んでいる。初めて自分のもので自由にできるヒトを手にしたから」


 葵にはそうでも、俺にとっては迷惑だ。だが、そうなのだろうとは納得できた。

 特殊な能力があっても自由に生きられないとは、人間の世の狭さよ。


 水羽を見つけて、安心したのか微笑んだ葵を見つめていたら、あることが、ふと頭をよぎった。


 葵は、純粋な人ではない。あの能力の高さからして先祖返りで魔の血が濃いのではないか?

 だったら魔として生きることも可能ではないのか?


 知らず口元に手をやっていた。


 葵がしたように、俺の血を彼女に与えたら…………





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