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君は私の

「勝手に黙らせて、勝手に言いたいことだけ言って、勝手に俺からおまえを消して、俺が決めることまで勝手に決めて、何もかも勝手に…………」


 見るも無残に汚れてしまった広間へと着地した朱明の瞳は、爛々と燃え立つように光り私を射抜くようだった。加えて激しい怒りに呼応し、その影から水が染み出すように下位の魔が湧いていく。


「神聖なる場を土足で穢すとは!」


 父上が怒鳴れば、それが合図だったように警固部の長である隼人様が腕を振った。すると兵が矢をつがえ、一斉に朱明に狙いを定めて放った。


「っ!」


 思わず、私を庇っていた星比古の腕を振り払い立ち上がるが、朱明の周りを下位の魔の集合体が瞬時に壁を作り矢を跳ね除けていくのを目にする。


 そうだ、彼は下位の魔を従わせた王になったんだ。人間如きが彼を害することなどできはしない。私が、彼に為したこと。

 みるみる内に床や壁中に広がった魔が、薄白かった広間を黒に変えていった。禍々しく脈動するそれすらも、私にとって誇らしい。


「お喋りな口はどうした?命じるばかりの傲慢な口が、驚いて何も言葉が出ないか?残念だったな、おまえの計画をぶち壊して」


 姿を現してから、朱明は私しか見ていない。私だけしか見えていないのだろうか。


「しゅ、めい」


 小さく言葉を形作れば、怒り一色だった彼は唇を噛んで何かに耐えるような顔をした。


「……………おまえのせいで、何度も何度も悪夢を視た。身体が動かなくて、言いたいことがあるのに言葉が口をつかない。何か大事なことを忘れているのがわかるのに、何も思い出せなくて焦るばかりの夢。夢を視ていたのは、おまえではなく俺のほうだ」


 この言い方、去り際の私の言葉を覚えて言っているのだと分かった。とんだ失態だ。この魔は力の種類こそ違えども、私と同格の力を持っていたのだ。いや、『王』になったのなら私よりも強いのか。だったら記憶を取り戻したことも驚くことではない。

 

「私は……………君の中から私を取り除きたかっただけだ。誰に従属することもなく自由で高潔な本来の君でいて欲しいと」

「愚かだな、葵」


 一歩踏み出した朱明が嗤う。

 未だに止まない矢の風切り音の中でも、彼の声は朗々と響いた。


「俺が過去の俺に戻ることは、どうやったってない。なぜなら俺が拒んでいるからだ。そんな俺にしたのは、おまえのせいだ。おまえが俺を変えた。おまえにはその責任を果たす義務がある。そして俺にしでかしたことへの償いも」

「分からないよ」


 契約術を破棄し、私を消したことでは許されないなら、私はどうしたらいい。


「俺は確かに要求したはずだ」

「それは…………」

「俺をどうにかしてしまうと心配か?」


 一度目を伏せた彼が「いつからそんな遠慮をするようになった」と呆れたように呟く。


「あれほど俺のことを自分のものだと言い張っておきながら、今更何を言っている?俺を閉じ込めて縛り付けてしまいたい醜い欲望とやらをさらけ出してしまえばいい」


 カアッと羞恥で頬が熱くなる。そんな私を傍で星比古が黙って見ているのに気付き、居たたまれずに視線をさ迷わす。


「おまえは俺がそれを拒むと思っているのか?その欲望を、おまえだけが抱えていると思うのか?」

「え?」

「なぜ自分に正直にならない。それが醜いだと?だったら俺も同じだ」


 意味が浸透した途端に、身体の力が抜けるような感覚がした。


「俺を」


 いつしか無意味な攻撃は止み、命じられてもいないのに皆が動かずにいる。そんな中を、ゆっくりと朱明は踏み出す。

 私が怯んで逃げて行ってしまわないように、慎重に切実に確実に。私に逃げ場を与えないように、その言葉に真実だけを乗せて。


「俺を愛していると言った癖に、その為に俺を諦めるなら、そんなお綺麗な想いなどいらない。おまえの言う醜さの方が欲しい」








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