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属する世界3

我に従いし魔よ(ネ・ティザウムレスト)


 ピリピリと反発する魔力を感じる。私の言霊を撥ね付けようと朱明が抗っているからだ。


その力を返し(ユニアミスレム)…………ダメだよ、私は光紫よりも能力が強い。言葉を封じた君は、私には抵抗できない」


 光紫のように術を造り上げる器用さはないが、完成された術を行使する力において私は最も優れているのだという自負がある。

 朱明が苦しげに目を細める。唇を動かし、封じられた声の代わりに懸命に言葉を形作る。


『アオイ』


 名を、呼んでいるのだ。

 契約術を解くことが、どんなことになるかも知らないはずだが、私の表情と言葉で何かを察してしまったらしい。警戒と不安、それを上回る焦りを浮かべた彼が私を呼ぶ。


「そんな顔しないで。元に戻るだけだから……………その意思を返し(ユニアストロネアム)


 私に出会う前に。


「っ……………!っ!」


 呻きのような息を漏らし、彼が唇を『ナゼダ』と動かす。


「なぜ……………なぜって」


 私に伸ばしかけたまま止まってしまった彼の手をそっと握り、その手のひらに顔を押し付けた。

 温もりを感じた途端に胸の奥から衝動が堰を切り、溢れた想いが私の口から飛び出した。


「君を愛しているから」


 驚いたようにこちらを見つめる彼に堪えきれず、押し当てた手のひらに縋りつくような思いで俯いた。


「好きだ…………好きだよ、朱明」


 少しずつ術を解きながら、合間に話した。最後ぐらい晒け出してもいいと思ったから。


「………………君を無理やり従魔にした時、私は君のことを勿論何も知らなかったし知ろうともしなかった。君は私の道具に過ぎないと思っていたから。でも君は、誇り高くて強くて決して私に心から屈することは無くて……………君を自分のものだと言い張ってもみたけれど、本当は惹かれてたのは私の方だった」


 ピクリと彼の手が震える。

 声を封じていて良かった。今何か言われたら、私はどんな言葉であれ崩れ折れてしまいそうだった。


「私はね、君が思うよりもずっと醜悪な人間なんだ。この先も君といたら多分もっと好きになって戻れなくなる。そうしたら君を欲しがって独り占めしたくて閉じ込めて自由なんてあげたくなくなるだろう。私はそんな私が嫌だし、そうなってしまうのが怖い。君は向こうの世に必要な存在だし、君には君の生きる場所ががあるのを知ってしまったから、私は自分の醜い欲望で君を縛ったりはしたくない。そんな大事なヒトを、私などの従魔にさせておくのは烏滸がましい」


 君が好きだから。

 どんなに意固地になって自分のものだと主張しても、朱明はいつだって自分の心のままに動いていた。それを美しいと思って、ますます欲しがった時には私は彼に囚われていたのだ。私にはない輝きと強さを醜い私が好きにしていいはずがない。


 彼のままを愛しているから。


 懐に入り込み見上げた先には、暁色。切実さを露にした瞳に私を映させてから、その動けない身体を抱き締めた。

 私は、こういうところが卑怯なのだ。


従魔の契約を終了する(アクサピ・エント)


 朱明の身体を目一杯抱き締めて、その心地好さを覚えておきたい。例え彼が私を包んでくれなくても、その身の暖かさも鼓動も息遣いも全部私のものだ。

 このひとときだけは。


「朱明…………………朱明……………」

「ふ…………っ、う」


 呼吸だけで抗うこのヒトに、私のいない安らぎを与えてあげよう。もっと早くこうすれば良かったのだけれど、求められるのが嬉しくて手放すのが惜しかった。


「君は私の……………僕の愛しい下僕。愛してた、愛していたよ」


 詰まりそうになる喉を動かし、私は終わらせた。


解術(ル・フ)






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