表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/81

侵食の世3

「なぜこんな……………」


 黒い塊のような魔は、街を残して大地を這うように蠢いていた。そしてゆっくりと街へと進んでいくように見えた。まるで水が染み渡るような動きで確実に。


「ここだけじゃない。俺達が知りうる限りずっとずっと遠くまで、もしかしたら今住んでる所以外こんな奴等に全部埋め尽くされているかもな。実際俺と白麗は別の場所からこっちに避難してきたし。ま、低級な魔なんかに襲われても簡単には死にはしないけど数が多過ぎるんだよなあ。一度侵食されたらカビみたいに根を張って家は破壊するし草木を枯らしちまうから食料も不足するわ、水も汚染されて飲めなくなる。人間よりは丈夫だが、それでも栄養取らなきゃ俺達だって餓死する」


 また上がった光は近くからで、今度ははっきり見えた。


「朱明」


 低位置に浮かんだ朱明が、それらを魔力で灼いている。一度に数百体が消滅するが、直ぐにそこを後から来た魔が塗り変える。彼から一定の間隔で、白麗達高位の魔が同じように魔力を振るっていた。


「24時間交代で払ってはいるけど侵食速度が速くて、殲滅するどころか街を守るので手一杯の現状」

「朱明が忙しいと言っていたのは、このことか」

「そ、大変だったんだぞ。朱明は共倒れしないように一定以上の避難者を拒み、街に結界を張って許された者以外の内外の進入を防いでいるし、その上こいつらを相手にしてるからな」


 軽い口調だが、話の内容は重い。


「いつからだ?何が原因なんだ?」

「この世は、人間世界の掃き溜めなんだ。人間の負の感情が流れ流れて辿り着くのがここ。それを低俗な魔が貪った結果、こんなに増えちまった」


 翠珀はそう言った時だけ、人への侮蔑で鼻を鳴らした。私に向けたわけではないことは分かっていたが、彼から視線を外して下を向いた。


 人間の世の比ではない、圧倒的な数の下位の魔に私は口を閉ざした。朱明を従魔にしていたことさえ恥ずかしい。彼は私なんかよりも深刻な状況を抱えていて、この世を守らなければならなかったというのに。


「今まではまだ余裕はあったんだけどさ、最近朱明の奴、怪我してるあんたに付きっきりで、こっちのお仕事サボってたんだよ。そしたらここまでこいつら来ちまった」

「…………………」


 何度も何度も魔力を使いながら、あてのない戦いをしていたというのか。

 私は彼らの邪魔をしていたのか。


「ああ、しまった。あんたが気に病むことはない。500年前にこいつらを抑えることのできた女王が消えてから、徐々にこうなっちまったんだ。いつかはこうなるって分かってたことだしな」

「分かっていた?だったらどうして…………」

「仕方ないよ。消しても消しても増え続ける。なんて人の果てない欲望か。この世を滅ぼすのが人間とは、侮っていた俺達には屈辱だね!」


 翠珀の芝居じみた台詞は、思ったよりも私の胸を抉った。


「今俺達の中でも最も魔力が強いのは、元々ここに住んでいた朱明。次いで俺と白麗。この内の誰かが力尽きれば、ここはもうもたない。そしたら新天地を探して次元の狭間をさ迷うかな」

「朱…………!」


 思わず叫びかけたら、背後から私の口を翠珀が押さえた。


「しっ!落ち着け姫さん。ばれたら半殺しだって」

「んんっ」


 滅亡よりか半殺しの方がいいだろうに。


「あいつのことは気にするな、って、気になるよな。でもあいつは一人になろうが、命を投げ売ってもこの世を守らなきゃならない責務みたいなのがあるからな。とりあえずさせときゃいい」


 何故だ?!


 薄情に聞こえる言葉に、口を塞ぐ翠珀の手をビシバシと叩く。


「いたいいたい、だってさ、女王殺しちゃったのって、あいつの母親だから。ええっと……………つまり、姫さんのご先祖様の仇ってこと」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ