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侵食の世2

 金髪で白い翼を持つ魔の男は、翠珀と名乗った。


「くうう、すげえ!名なんて喋るもんかと思ってたのに、あっさり名乗っちまった。あんたの力すげえな!」

「静かにしろ」

「あ、はい」


 調子が良い奴だ。


 翠珀に案内を命じて隣を歩いているが、私の力が面白いらしく一人騒いでいる。


「あのすかした朱明が人間ごときの下僕に成り下がるなんて嘘だろって思ってたけど、ぶふっ!この強制力すげえ、もう従うしかできないって感じだな」

「つべこべ言わずに朱明の後を追え、見失ったりしないだろうね?」

「大丈夫だって、行き先は分かってるし」


 大して歩かない内に気軽な感じに次元を開き、こちらを躊躇いがちに見てきた。


「な、なあ、ばれたら……………いや多分ばれるだろうけど、俺はあんたの力に従わざる得なかったから俺に罪はないよな?俺、あいつに半殺しにされない?」

「どうかな」

「他人事!あああ、姫さん掴まれ」


 一瞬で開き直ったのか、私の背中と腿の下へと手を回して抱え上げると、翠珀は開いた次元に飛び込んだ。


「今思ったけど、姫抱きした時点で俺ボコされ確定じゃん!」

「君の言葉は難しすぎて私には分からないな」


 落ちないように首に腕を回して答えてやると、にやにやと嫌な笑いを浮かべている。


「で?もうヤったの?」


 意味は分からないが、にやついた感じで察することはできた。


「………………お喋りな口は、一生閉じさせてやろうかな?それとも翼に生えているその綺麗な羽毛を一枚一枚毟って私の布団に詰めてふかふかにしてみようかな?」

「うっわ、現実にしちゃいそうで怖っ、そっか未遂…………うっわ、あいつ可哀想」

「うるさいよ」


 空間を切るようにして抜けた所は、日中にしては暗い場所だった。濃く曇った空は一度見たことのある日食の光景を思い出す。


 宙に浮かんでいる翠珀がキョロキョロと辺りを見回す。


「多分ここら辺だと思うんだけどな。白麗もいるはずなんだけど」

「はくれい?」

「そ、俺の妹。会ったことあるんだって?」

「ああ、やはりそうか。可愛い子だったよ」


 また会えるかと探したりもしたのだが、他の魔の話では彼女は忙しいらしく屋敷には夜になって帰って来るのだそうだ。


「ぶふっ、あいつが、か、可愛い?!あんたすげえな!あいつ朱明を服従させてる姫さんを気に入らないはずだぞ。会った時に攻撃されたんじゃないの?」

「当然の報いは仕方ない。殺されかけたからと言って恨むのは筋違いだし、彼女は可愛いのは本当のことだよ」

「さすが姫さんは違うね!」


 ぎゃはぎゃはと笑っている翠珀を尻目に、私は地上へと目を凝らす。


「なんでこんなに暗いんだ?」


 私達の背後、はるか彼方に街らしきものが見える。あれが先程いた屋敷のある場所だろうが、その上だけ奇妙に青空があった。

 だがここは、空も地上も暗い。


「………………なあ、追いかけるぐらい気になるなら朱明の口を割らせれば良かったのに、なんでそうしなかったんだ?」


 翼をはためかせながら空中を進みつつ、笑いを引っ込めた翠珀が尋ねた。


「私に何か理由があって話したくないのは分かっていたから、無理に聞き出す気にはならなかった……………私は朱明に結構酷いことをしてきたから、これ以上無理やり嫌がることをして…………き、嫌われたくなかったから。だったら自分の目で確かめた方がまだいいかなと思って」

「な、可愛い!ギャップ萌え!生意気少年からの乙女か!警戒心ゼロで初対面の俺に抱っこされてしがみついてきてるし!あああ、朱明の奴イチコロだな!うん、分かってきたぞ!」


 私は全くわからない。


 その時、パアッと閃光が走った。縦に伸びた光が、次に地面を縫うように広がって数秒後に消えた。


「これは………………」

「あ、あっちか」


 身を乗り出すようにして地上を見下ろす私の襟首を片手で掴んで、続けて上がる光を翠珀は目指した。


「あのさ…………朱明には悪いけど、俺や他の皆はあんたに期待してるんだ」


 光で僅かに見えた光景に気を取られている私に構わず、翠珀は話す。


「姫さんはね、言葉の力で魔を統べていた女王の子孫。あんたならこの世界をどうにかできるんじゃないかってね」


 とても重要な話を聞かされた気がするが、地上を埋め尽くす暗闇が夥しい低位の魔によるもので、空を覆うのが瘴気だと知ってしまった私は言葉を失っていた。

















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