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従魔の抗い3

「ふあ………………ん…………は」


 角度が変わる合間を縫って息継ぎをしながら、私は求められることに酔っていた。椅子に座ったままの私の身を屈ませるようにして引き、跪いたまま見上げる形の朱明と口づけを交わしていた。

 決して荒々しくはなく丁寧に私の唇を啄み、優しいと錯覚して唇を開けば深く熱い口づけに翻弄される。


「そんな表情もするのだな」


 濡れた私の唇を舐め、朱明が掠れた声で囁く。それだけで身体が震えた。


「あ」


 言われなくても分かっている。私は今きっと蕩けた女の顔をしている。

 いつの間にか男の首に手を回し、唇を差し出しているのは私だ。


 どうして拒めない。違う、私は悦んでいるのか。

 身体も心も、とても気持ちが良かった。求められていると感じて、私の弱い部分が安堵している。


 引き込まれるように受け入れ求めてしまった時点で、私はこれが特別な感情だと理解した。

 でも想像していたものではない。愛とか恋ではない。


 もっと醜く貪欲な欲望だ。自己満足で穢く臆病な執着。

 こんなのちっとも美しくない。


「は……………朱明」


 胸の奥から熱いものが次々と沸き立ち、私の男としての偽装を剥がしていく。


 唇が離され切なさで動けない私を、下から掬い上げるようにして朱明が抱きしめた。堪らず彼の頭を両手で包み、私は呻いた。


「分からない………………自分のことも君のことも」

「………………俺もだ」


 同じだけ苦しげな声で応えて、彼は私の鎖骨辺りに顔を埋めていた。


「俺はおまえの心の深淵を、まだ覗き見てはいない。今力ずくで全てを暴くことを、おまえは拒むだろう」


 腰を抱く腕の力が強められたのを感じて、私は頭を抱きしめていた腕を解いた。


「………………今夜のこと、忘れてくれ。僕は疲れておかしくなっていた」

「……………………」

「僕を、そんな目で見ないで欲しい」


 女として見ないで欲しい。

 見られたいと望めば、私は私の世界を壊してしまう。


「あくまでも今まで通りの主従関係を望むか」


 答えの代わりに命じたことを取り消すと、朱明が立ち上がった。


「一つ覚えておけ。おまえが俺を下僕として扱う限り、俺は決しておまえのものにはなれない。なぜなら対等でないからだ」

「そんなわけない。君は僕のものだ」

「いいや、違うな。おまえが俺のものにならないなら、おまえは本当の意味で俺を手に入れることはできない……………葵」


 熱の冷めてきた私の唇を親指でなぞり、朱明は見透かそうとするかのように私から目を逸らさない。


「わからないなら今に俺が引き出してやる。姿だけでなく、心の内までごまかしているおまえを暴いてやる」


 迷いなく告げ、名残を惜しむかのような指を唇から離す。


「その時は……………諦めて受け入れてしまえ」


 ふっ、と一つ灯りが消えた。


 灯り皿に足元だけを照らされ、一人になった私は、自らの唇へと指を触れた。


 夜になれば日中の陽の熱も冷めると思ったのに、暑くて、熱い。


「………………君と契約術を結ぶんじゃなかった。とても苦しいよ」














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