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君は僕の愛しい下僕  作者: ゆいみら


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21/81

湯煙の中で2

「葵、着いたぞ」

「ん……………?」


 起きようとしたら、星比古に膝枕されていることに気が付いた。


「………………なぜに?」

「寝顔は少々幼く見えるのだな」


 ガバッと身を起こし牛車を降りようとしたら、当たり前のように星比古が手を差し出してきた。


「今のそなたは女だ。忘れるなよ」


 忘れていた。

 仕方なく皇子の手に握られて、用意された踏み台をしずしずと降りた。

 そのまま手を引かれて目の前の湯治場の宿に歩けば、左右を頭を下げた女官や侍従や下働きの者が並んで道を作っていた。

 私は皇子様と並んで歩いているが、良いのだろうか?

 今更ながらに違和感を感じて、隣の星比古を見上げる。


「………………第五皇子様、私を皆にどう説明したのです?」

「聞きたいか」


 扇で顔半分隠しているが、ニヤニヤ笑っているのは分かっている。私の耳元に顔を寄せる星比古に、居並ぶ女官が恥ずかしそうに小さく悲鳴を上げる。


「そなたは私の恋慕う女人だと言っておいた」

「………………成る程」


 キッと睨む私を物ともせずに楽しげだ。


「そういうことにしておけ。その方が私もそなたも都合が良いし、ぞんざいに扱う輩もいないはずだ」

「配慮いただきありがとうございます、と言いたいところですが、まさか同室ではありませんよね?」

「ん、それがどうかしたか?別に構わないだろう、そなたは男…………のはずだからな」

「くっ」


 懐から扇を取り出した私は、パサリとそれを広げて苛立つ表情を隠した。


「嫌ですわ。恋人とはいえ未婚の男女が同室など、いらぬ誤解をされてしまいますわ。恥ずかしいわ」


 悲しげに眉をひそめて見せれば、星比古が目を丸くしてから頬を赤くする。


「か、可愛い」

「ですから部屋は別で……………」

「そなた自覚はあるのか?隙を見せたら絶対に口説かれるぞ駄目だ。それに部屋に空きがあるはずないだろ、この人数を見てみろ」


 女口調で遊んだのが余計裏目に出たらしい。


「あの……………下働きの方と同室でいいですし、私は男で、いざとなったら何とでもできますから」

「危険だ。何が危険かって何とでもできる魔が一番危険だ」


 星比古は、私の女装に騙されているのではないだろうか。普段よりも私の言葉を聞いてくれない。


 そうこうしている内に宿の者の案内で、いかにも貴賓用といった一際大きな離れに通されてしまった。


「大丈夫だ。お上や兄上達は他の宿に滞在されるから、ここは気楽に使ったらいい」

「そうではなくてですね、私は……………」


 あれ、男だったか女だったか、どちらを演じたらいいのか分からなくなってきた。私は女だが男で女のフリをするという何とも難しい状況に置かれていないか?


 機嫌の良さそうな星比古に座布団に座らされ、茶と菓子の接待を受けながら、しばし考える。

 待てよ、もう同室は決定なら女のフリをしていた方が都合が良くないか。相手も私が男だと分かっていながら、女として振る舞えというのだから合わせてくれるはずだ。


「さあ、そなたの好きな餡餅だぞ、食べてみろ」

「…………………星比古様。私まだ肌をお見せする決心がつきません。恥ずかしいので、どうか風呂や着替えは見ないで下さいね」

「ぐ、ごほっげほっ」


 潤ませた瞳で上目遣いをしてみれば、茶を飲みかけていた星比古が一拍置いて噎せた。


「……………星比古様」

「だ、大丈夫だ分かっている。そなたは本当は男…………だと言いたいのだろう?」


 宿の者がそそくさと退出するのを確かめてから、星比古は息も絶え絶えに応えた。


「そうです。ですから襲わないで下さいませね?」

「な、何を言うのだ、やめよ」


 いつもは私の方がからかわれていたので、星比古の焦る姿に気分が良くなってきた。


 クスクスと笑いながら、鬱陶しい裾を払い片膝をついて寛ぐ。


 これ食べたら温泉に入ろうと、餡餅を口にしていたら星比古が目元を手で隠していた。


「どうしました?餅、美味しいですよ」

「そなた……………女の姿で素足を出すな。膝、膝まで見えているぞ」

「だって暑いし重いんですよ、ああもう私は男なんですか女なんですか、どっちのフリをしたらいいんでしょうかね?」


 餅を茶で飲み込むと、面倒臭い気分で広い畳をごろごろと右へ左へと転げる。

 それを困ったように口元だけで笑みを作って星比古は見ていたが、私はその時は自分の失言に気付いていなかった。


「……………女でよいのではないか?」








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