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熱病4

 目覚めると、見慣れた天井が霞んで見えた。


「気が付いたか」


 寒いのに目蓋が熱くて、意識がふわふわとする。熱があるのだろう。横になる私の傍には父と鈴音がいて私を見ていた。手を握っているのは鈴音か。


「父、上。申し訳、ありません」

「……………魔を倒し損ねたか」

「は、い」


 声は何とか出せるが、喉がひりついて痛んだ。


「水羽は、どうした?おまえの従魔は何をしている?」

「みず、は」


 おそらく乗っ取られた。逃げることもできたろうに、彼女は私を庇ったのだ。二体もの魔に襲われたのだ、もう元には戻れないだろう。


「母の、大事な従魔を…………失いました」

「葵!」


 父上が怒りとも悲しみともつかない声を上げて立ち上がった。


「申し訳、ありません」


 父上から、母だけでなく母の分身のようだった水羽まで私が奪った。

 力が入らず起き上がることもできない私は、父上の刺すような眼差しを受けることしかできない。


「…………………女御様は倒れられて意識が戻らない。今回の一件で私はこれから内裏に説明に行かねばならない。おまえは自分の始末をつけるのだ。できるな?」

「はい」


 しばらく私を見下ろしていた父上が、やがて背を向け引き戸を開けて一度立ち止まった。


「おまえは神久地家の後継だ。その命はおまえのものだけではない。肝に銘じよ」

「……………………………」


 私の返事を待たずに引き戸が閉まり、鈴音が緊張を解いて息を吐いた。


「御父上なりに葵様のこと御心配なされていたのですよ」

「そう……………星比古様、は?」

「ここまで葵様を手ずからお運びされて、今は女御様についているかと。葵様を大変心配されておりました」

「そ、うか」


 手が細かく震えるのを布団を掴んで逃そうとするが、限界が近い。


「葵様、大丈夫なのですか?熱があって苦しそうですし……………その…………魔はどうなったのです?」

「大丈夫。じきに、良くなる。でもやらなきゃならない、ことがあるから、行って………………皆に、この部屋から、離れるように………伝えて」

「いいえ、私はお傍に」


 涙ぐんでいる鈴音に笑ってみせる。


「鈴音、心配しなくて、いい。さあ…………」

「…………………はい」


 力を振り絞り少し語気を強めると、今度は彼女は渋々ながらも立ち上がった。

 鈴音が戸を閉めるのを見送ると、俯せになって歯を食い縛る。


「う、くっうう」


 私の身体の奥底には、魔が憑いたままだ。それが眠っている間に毒のように染み広がり、私の意識までも乗っ取ろうとしていた。

 あのまま眠っていたら、知らない内に魔に自分を渡してしまっていただろう。

 意識を強く持つように耐えているが、僅かでも気を抜けば魔に持っていかれる。なんとか抵抗できているのは、私に流れる特殊な血のお陰かもしれない。


 意識がある間にするべきことがある。


「……………そこに、いるんだろう。出てこい、朱明」


 舌打ちと共に蝋燭の灯りの元へと姿を現した朱明は、足元にいる私を不快そうに見下ろした。


「やっと呼んだか。葵、今日は()()()()()日だったようだな」


 彼の人差し指が見上げる私の赤くなったままの額を指し示す。

 いつもの尊大な態度の朱明に、私はなぜか安心して笑うことができた。


「ずっと、覗いていた癖に。僕のことが、気になるのだろう」







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