家路 An unforgettable hometown
どうにかこうにか危機を乗り越えた田村麻呂たち。意気揚々と都へともどります。途中なにかありそうですが、もはやこの世に怖いものなしの田村麻呂、ではありますが、さて家路の果てになにが待ち受けているのか。武神、田村麻呂。少年期最後の章です。
都まであと数里、というところで守山という峠にさしかかった。
あいかわらずワイのワイのいいながら賑やかに進むわれら田村麻呂一行。鈴鹿山からもう一週間以上経っている。往きよりも時間がかかっているのは、あちこちと見物したり寄り道しているせいだ。
「もーはやく帰ろうぜー」俺は今しがた茶店で買った餅をもしゃもしゃ食べながら言った。
「帰ってエロい本見なきゃねー」
「テンコさん、なに言ってんですか。あれは兵法書です。エロいってなに」
弁解する俺をしり目に俊哲が赤くなる。
「おーほほほ、いいのよテンコちゃん。おとこはそのくらい絶倫じゃないと。いい子がたくさんめぐまれそうだわ」
鈴鹿さん乙女でしょ。なに言ってんのこのこ。ばかなの。
「へんなの、きたー」
ミコチが指さしてる。
「こらミコチ。ひとを指さしてはいけません。それに変なのと言ったら、俺ら以上に変なのいませんから」
いちおうひととしての先輩づらはしておかなけりゃ。にしても、ほんとうに変な奴らがきた。
「おいおまえら」
はい悪者決定。
「おい無視すんな。おい、こら、まてまて。ちょっと、ちょっとはなしを聞け」
「英会話ならまにあってるぞ」
「そうよ、この面、どうみても外人でしょ」
鈴鹿さん、傷つくんですけど、そこんとこ。
「意味わかんないこと言ってんじゃねえ。おれらはここら辺りをねぐらにしている野武せりさまだ」
わらわらとそこらからおよそ五十人ほどの、そまつな武具をまとった一団がはい出てきた。
「汚なっ」テンコさん第一印象それですか。まあ、そうだろうけど。
「みたとこ身なりも悪くねえ。金ももってそうだ。痛い目見たくなけりゃ、そっくり置いてけ」
「置いても許してくれないオーラがバンバンでてますよ」
「そりゃ、そんなに若くきれいなねーちゃんがふたりもいれば、なあ、おまえら」
いっひっひと下卑た笑いをする野武せり一同。
最初に反応したのはミコチだった。
「おまえらしぬ」
五人ほどがわけのわからん力で吹き飛ばされた。
「え?」そうだよなーおどろくよなー、ふつう。
「あーミコチ、その人たちは見た目お前が子供なので女の勘定に入れなかっただけで、けっして悪気があったわけじゃないとおもう。だから殺しちゃだめだぞ」
「わかった、スクネ」
「あーミコチだけだと心配だから。ころしちゃいそうだし。ころく、手伝ってやれ」
「はーい、あにさま」
すっかりころくは俺の弟になっている。まあいいか。
「ぎゃははははは。なんだそのちっこいの。こんなの出てきてどうすんの?」
ころくは細い木の棒をつかむと、「えいっ」といま笑ったやつにたたきつけた。
「ぎゃ」
あー、なんかいま骨折れたなー。何本やっちゃったかなー。ころくでちょうどいいと思ったけど、相手が弱すぎたなー。
「ころく、ミコチ、ころすなよ」
「わかったー」
あとはビシバシと物が叩かれる音と、人間の悲鳴が峠中に響いていた。
俺たちはちょうどいい時間ということもあり、昼飯にした。
「あー、ちょっと残しておいてくださいよー」
「ミコチ、塩昆布おにぎり、希望」
五十人は俺たちの昼飯が終わる前に片付いていた。急いで来たミコチところくはもしゃもしゃと猛烈ないきおいで昼飯にありつく。野武せりをさんざん痛めつけたのに、まったく疲れも見せず、けろっとしている。
「おまえら、たまには空気も吸いながら食えよ」
「ぷあい」
「さて、ここの大将はだれだ」
「ふあい。わたしで」
「俺は都の坂上田村麻呂という。文句があるならいつでも相手になってやる。もしこんどここで誰かが襲われたと聞いたらすぐに駆け付けて、あとはわかるな」
「へへー」
「少ないが腹でもみたせ。太刀を捨て、野を耕せ。真っ当に生きろ」
俺は少しばかりの金を野武せりにわたした。どうせ鈴鹿の金だし、俺に損はない。
「ちょっとあんた、ずいぶんいい気ね。殺しちゃったほうが早くない?あんなののさばらしても、ろくなことにならないわよ」鈴鹿は奇麗な顔でずけずけと言った。
「ま、そうなりゃそうで何とかするよ。いまはあいつらの後悔と善意を信じる。だれもああなりたくってなったんじゃない。死んだらおわりってことは、なにも始まらないってこと」
「まったく甘ちゃんね。でもそこがすてき」
「腕組むな」
「いやん」
「イチャイチャすなー」テンコとミコチが怒る。
いまは平和なひととき。しかし田村麻呂の帰る平城京に、おそろしい修羅場が待っているとは一行のだれもが思いもしないでいた。
平城京。その東の果ての国の都、エキセントリックなまでに中国ナイズされても、どこか和のテイストを核にもつ巨大都市。だが、いまこの地はさまざまな病魔に侵されていた。
既存の権力構造に仏教思想がからみ、大きく国の存亡が危惧される中、東の蝦夷との戦い、地方の権力者の台頭など、病はすでに末期となっている。
帝はこれ以上に政治に寺社が絡むことを嫌い、寺社は仏教思想で天下を動かそうと画策する。そこに巻き込まれたのが道鏡だったともいえる。その寺社から逃げ出すために、帝は遷都を決めた。
都の入り口に、見慣れた人たちがいた。
「若さまっ、おかえりなさいませ。ようご無事で」
源じいが泣きながら迎えている。
「これはこれはお嬢様もおたっしゃで」
「うん、源じいも元気か」
「もったいない」
テンコに声をかけられまた泣き出した源じい。源じいはテンコが神の使いだと思っている。むかし都を騒がしたいたずら狐などとは夢にもおもっていない。まあ、神になっちゃったけどな。
「さ、みなさまもご案内つかまつります」
「おう、わりーな」
なんでスサノオが先頭で行く?なんで堂々と歩いてんの。からだ妖怪ですから。なかみ神様ですから。ひととちがいますから。
「ひととちがうとこなんざ、だれだってあるさ。ひるんじゃおしめーだし、誇りゃこっちのもんだ。ようは卑屈になんねーこった」
その通りです、さすが神様。でも一般論ですから、それ。人間じゃない人が言っても説得力ないですから。
「あ、テンコちゃんおかえりー」
「あ、テンコちゃんだ。テンコちゃーん」
「キャーなにあのイケメン。どちらさまかしらー」
「ほらな」
テンコは道行く人にいちいち挨拶してる。おどろくほど人気者だったのだ。知らなかった。
「お前の知ってる世界なんざ、どれほどでもねえ。近くのことも知らないんだからな。そんなお前でもあの峠の馬鹿どもみたいに無知でないのは、まわりの連中のおかげだ。すこしは感謝してもバチはあたらないぜ。もっともおまえは毘沙門だったか。バチはあてるほうか。がっはっは」
スサノオ、おまえ説教ながい。
ちょっとしょげて歩いていると、源じいがぴたりと止まり、「ここでやす」と言った。おいおいこれは。
都の中でも一等地にあたる、高い塀に囲まれたデカい建物の大きな門の前に立っていた。
「いやいや、さすがに貴族様の御屋敷ですよこれ。源じい、ボケちゃったね。うんうん、俺がいなくて寂しくってボケちゃったんだね。はやくうちに帰ろうね」
俺はやさしく源じいの肩を抱くと、もとの家のほうにもどろうとした。
「おーい田村麻呂」
「あ、にいさん?」
「どこへ行く。早く入れ」
「えー、だってにいさんこれって」
「事情は説明するからとにかく入れ」
「さあ、みんな行きましょうー」ちょっと鈴鹿さん、なに先頭切ってるんですか。
たしかに入り口に『坂上』と書いてある。どうなってる。
門をくぐると壮大な屋敷が見えた。屋敷の横にもデカい兵舎のようなものが並び、どっちかというと軍事基地みたいだ。練兵場まである。
「どこの駐屯軍だ」
「なんだそれ」兄は不思議そうな顔をしていた。
「おお、田村麻呂さま」鈴鹿で戦った兵士どもが集まってきた。
「いまお帰りで?」
「お帰りなさいませ」
「遅かったですね」
「待ちくたびれました」
「ああ、おまえたちも元気そうだな」なにかうれしくなったが、こいつらを養う羽目になったんだ。もう気が重くなってきた。
「あなた、なにを気に病んでんの?あたしがいるんだからだいじょーぶ」
鈴鹿、重い原因あなたですよー。
「父上が待っておられる。それと」
「それと」
「行けばわかる」
兄は不吉な言葉を残し、スタスタと歩きだしている。もう何があっても驚かない自信はある。なんせ魔王を倒したのだ。世界最強なのだ、俺は。
無駄にデカい屋敷に入ると、玄関からいくつも廊下が続いており、この複雑さから中は要塞のような作りになってると想像できる。どこの馬鹿が設計したんだ。攻めにくいが住みにくい。
「おお、帰ったか田村麻呂よ」
父の酔っぱらった声が聞こえた。飲んでんのか、もう。しょうがねーなー。
「親父、お客さん連れてんだぞ、なに昼間っからっっあっっ?」
道鏡がいた。
「よう、遅かったな」
みると黒いのは相変わらずだが、きちんとした着物をまとい、親父と酒を飲んでいる。
「何してんのアンタ」
「ああ、まあ行くあてもとくになかったし、苅田くんとも約束があったのを思い出してな」
「都には入れんだろ」
「いやべつに。だれも気がつかんようだったから、いいかなーと」
「そういう問題じゃ」
「ま、いいから座れ。樽海、酌でもしてやれ」
「おまえもおるんかい」
「はは、おつかれさまで」
「あー田村くーん、げんきー?」
はあ?なんで千手観音がめし食ってるの?
よりによってピンクの軽頭むすめバージョンで。何してんの?
「はっはっは。びっくりして声もでんのか」
親父、状況わかってんのか?
「まー無事についたし、いいではないか、親父殿」
「あーパパ。なにしてんのー」
「うーんパパさみしかったから、犬の散歩早く切り上げて、来ちゃったー」
「もーウザいわねー」
第六天の魔王さま、なにしてるんですか。なに親父と酒飲んでんですか?
「いやーわしもさー、婿の家とかご家族とか知っときたかったしー、あいさつもしなきゃなーと。ほら、社会人として当然だろう?」
「なにが社会人ですか。あんた立派な魔界人じゃないですか。人間世界に関わっちゃだめなんじゃないですか」
「まーそーいうな。こちらのお父さんも、よくよく考えてのことじゃ」
はなし通じねえ。
兄が深刻そうな顔をして俺に言った。
「説明するのが遅れたが、あれからいろいろあってだな。お前が都を旅立ったこと、鬼を退治したこと、こちらの魔王様のむすめさんを嫁にいただいたこと、帝もお喜びになり屋敷もたまわった。じゅうぶんめでたい、のじゃが」
「奥歯にもののはさまった言い方やめて」
がやがやと他のものが入ってきてそれぞれ挨拶を始めている。テンコところくはテキパキと接待をしている。ミコチは勝手がわからないので千手とめしを食っていた。
俊哲は気がつけばそうそうたるメンバーに、文屋大原とともにすみっこで小さくなっていた。いやビビってた。その横でスサノオファミリーが遠慮なく酒盛りをはじめる。あ、俊哲がスサノオに無理やり酒飲まされてる。大原もイザナギとイザナミに絡まれている。気の毒に。
やがて庭のほうでもかがり火が焚かれ、もののふどもも酒盛りをはじめた。
「御大将に」
「御大将に」
俺のことですか?マジですか。
「あなた、お声を」
すっかり女房気取りの鈴鹿が言った。
「お、う」
やけくそになった。
「みなさん、がんばりましょー」
「おーーーっ」
「鈴鹿、どうでもいいけど、まだ祝言あげてないんだからさー、でしゃばっちゃうと印象悪くなるよー」
第六天の魔王は威厳なく言った。
「そのことなんですが、じつはいろいろと問題が」
親父もなにか奥歯に挟まっていた。
「ほほー」
全員が聞き耳をたてた。俺はいやな汗が背中をつたわった。
俺が鬼退治に出かけてから、その話は出たそうだ。俺が無事鬼を退治して戻ったら、嫁をつかわすと、帝はノリノリで言ったそうだ。そこで天下美貌の娘とうたわれた高家・三善家の長女が選ばれ、使者までつかわされたそうだ。
そして俺が討伐に成功し、凱旋の報せを受け、はやばやと婚礼道具一式をかかえ我が家に来ているというのだ。
「んなの帰せばいいでしょ」俺は軽く言った。
「ばかもん。帝のおこえがかりじゃ。そんなことできるか。仮にお帰りねがっても、もう帰るところもないだろう。あっても厩の隅に追いやられ、虚しく一生をそこで果てるまですごさねばならぬ」
「んなことあってたまるかですよ。そんなこと許されるわけがない」
座が、しーんとした。
「とりあえず、会ってきます」
「会ってどうする」
「あやまります」
なぜ俺があやまらなくてはならないのか。理不尽すぎる思いは怒りとなったが、あまりにもこれから不幸になるむすめに、なぜかあやまらずにはいられなくなった。
おつきの女中と思われる者が控えている部屋のまえへ来ると、すこし気を静めて声をかけた。
「坂上田村麻呂です。おはなしがあります。よろしいでしょうか」
「どうぞ、おはいりください」
部屋の奥に、美しい着物を纏った娘が平伏していた。
「どうぞ顔をあげて。俺はあなたに謝らなければなりません」
顔をあげた娘は匂うほど美しい、まるで天女だと思った。
「三善清継がむすめ高子にございます」
「あ、ああ」
完全に気後れした。
「すいませんこの度は、なんかいろいろ手違いなんかがあって、ほんと、あなたはまったく悪くないんですが、そういうことなので、どうすればいいのかちょっとわからないんですけど、あ、いやけっしてわるいようにはとおもっちゃってはいるんですが」
あまりのむすめの美しさと、もうしわけなさがいっそうしどろもどろに輪をかけた。
「いえ、さきよりお話しの、きこえようともなくきこえてしまいました。田村さまのお気持ちもかんがえぬと先走りました我が父になりかわりお詫び申し上げます」
触れれば消えてしまいそうな可憐な朝露のような、しかし瞳にやどるちからは強く、そしてすべてを飲み込み静かに消えていくたしかな覚悟を見てとらえた俺は、言葉に詰まった。
それを察したのか、高子は静かに言った。
「これのち高子はいえにもどり、坂上さまのお名前の尊きことお守りいたしとうございます」
要するに俺のうちにめいわくかからないよう、帰るといっている。
「それじゃ、あなたはどうなるんです」
「御心配にはおよびません」
高子はそれだけ言うと、顔をふせた。
「いちど、お顔をみれただけで、高子はしあわせです」
ふせながら、高子は肩をふるわせていた。
あ、おやめくださいっ、あの、なにを。
外がさわがしい。
ガラッと障子戸が乱暴にあいた。
「ちょっと、あんたそれでいいのっ。いかにも親のいいなりで来たんだろうけど、それでも意地ってもンはないの?このばかと、結婚したくないの?」
鈴鹿さん、乱暴ですー。
「わたしには意地をとおして生きてゆくこともあらがうことも許されておりませぬゆえ。でも、できれば」
「できれば」
「ひと眼見たとき感じたままの」
「ままの?」
「こころをもうしあげれば、おそばにいたいと、いえ、ただそれだけで」
「・・・・・・」
「鈴鹿?」
勢いよく鈴鹿は飛び出していった。
雲居山には魔物がすみついていた。だからもう何十年もひとが近づいていない。
そこにひとりのひとかげが、浮いていた。
山の魔物たちは騒いだ。恐ろしいほどの霊力が凝縮しはじめているのである。尋常ではなかった。
霊力はさらに大きな魔力となって山全体を飲み込もうとしていた。
魔力の中心に、鈴鹿がいた。
「ちくしょーーーっ、ばかやろーーーーっ」
山ははじけ飛んだ。木一本、草一本残らずかき消えた。もちろん何千といた魔物もすべて消えてしまった。
あとには荒涼とした平野が横たわっていた。
「あーすっきりした」
坂上の屋敷はさきほどのお祭り騒ぎとうってかわって、まるでお通夜のようだった。鈴鹿は出ていったきり、田村麻呂は難しい顔をして考え込んでいる。千手だけが「ん?」「ん?」と空気をよめないでいた。
どーーーん
「なんだ?」
「雲居山の方です」
しばらくして庭にドンと音がしたと思ったら、鈴鹿がドカドカともどってきた。そしてずんずんと先ほどの高子のいる部屋に行くと、女中の止める間もなく戸をあけると叫んだ。
「あんた、田村麻呂の嫁になりなさいっ。なりたいんでしょっ。だったらなりなさいよ」
「え、あの」
「いやなの?ね、ハッキリ言いなさいよ。意地、通しなさいよっ」
「いえ、はい、あの。お嫁になりとうございます」
「だったらきまりねっ。田村麻呂っいいわねっ。嫁にもらいなさい。しのごのいうと、ぶっころすわよ」
「え、だって、そんな。じゃ、おまえはどうすんだ。いいのかそれで」
「しょうがないじゃない。みんながしあわせになるんなら、あたしはいいの。さっき山をふっ飛ばしてきたから、もうスッキリしたし」
こわい。こわいです鈴鹿さん。
「鈴鹿、俺は」
「もういいじゃない。はなしはきまったの。さ、あっちへいってみんなにお披露目しましょ」
「あ、でもわたくしはあなたをさしおいて」
「なによ」
「あなたを田村さまからむりやり離させてしまうことを、わたしは望みません」
「なんであたしが離れなきゃなんないのよ」
「え?」
「あたしも嫁になるんだから、なかよくしましょうって、いってんのよ」
「はあ?」俺がおどろいた。
「ま、まあよかったじゃないか、それめでたいめでたい」
ちょ、親父、なに流そうとしてんだよ。おまえらなにわざとらしく踊り出してんだ。やめろ。なんかへんだ。やめてくれ、ちきしょーーー。
「そういうのありなら、わたしたちもがんばろうね」
「うん、がんばろー」
テンコとミコチがなにやらたくらんでるのを横目に、俺は宴の真ん中にすえられ、身動きとれずにいた。
「がっはっはっは」スサノオが楽しそうに笑っている。俊哲は泡をふいている。
上弦の月が平城京を照らしている。ころくはぼんやりと月を眺めながら、だんごを食べていた口を着物の裾で拭くと、だれに向かうでもなくつぶやいた。
「ありがとうございます」
坂上田村麻呂 少年編 おわり
少年期、最後の章でした。次回からはいよいよ青年期編。都の怨霊や、ついに蝦夷との戦いなど、あいかわらず大騒ぎの田村麻呂たちです。