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カラー・フルバレット  作者: 長山社
8/8

或る閑話 ~alkane talk~

アジトでの一幕です

 トカゲのアジトでの生活はなぜか上手くいっている。何故アタシを探さないのか、分からないけれど今がチャンスなのは確か。そう意気込んではいるものの思うような成果はない。


「ふぅ……メイドって案外忙しいのねー」

「このくらい……じょの口」

「それは一日中お菓子食べたり、お昼寝したりしてる人は楽でしょうね」

「ここに居るのが……わたしの仕事……だよ」


 妙に自信満々に言うもんだから吹き出してしまった。天然怖し。


 そんなメイドの業務に慣れた頃の夜、アタシはメイド用の大浴場にいた。

 隣にはリュウ子、思えばここに来てからずっと一緒だ。

 そのせいか少し仲良くなれた、と思う。


「ふつーならクビになりそう……」

「じょーしき的な所……ならね」


 __和やかな雰囲気に忘れそうになるけど、ここは敵地。そしてトカゲの率いる組織の中なんだ。アタシにとっては二つの意味で常識が通じる場所じゃない。


 けど……ホントになんでメイド用の大浴場なんてあるんだろうか?

 組織は情報を扱うものとはいえ収集の段階で荒事は避けられない。その都合上、構成員は男が大半だと聞いている。故に女用の施設には違和感がある。

 まぁ言ってもしょうがないけど。


「常識ね。ま、頑張った子が汗を流すのは当然の常識よね」

「ふふ、だね……さぁおふろ入ろ」

「__リュウ子もさぞ頑張った事でしょうし~今日はアタシが洗ってあげる!」

「う……かんべんして……」


 無駄に大きな風呂場には湯気が立つばかりで誰の姿もない。貸し切りだ。

 リュウ子にちょっかいをかけながら汗にまみれた体を洗い流す。


「冗談のつもりだったけどやっぱり洗ってあげよっか?」

「くふふ……やめ……くすぐったぃ」

「むぅ」

「もう! ……すとっぷ!」


 はっ……無心でくすぐってしまった。

 鱗がつやつやでつい夢中になってしまうな。


「ごめんなさい、つい」

「つい……じゃない……ひじょうしき」

「いやー最初の時から思ってたけど、鱗がキレイで心地がいいのよねー」

「ふん……別にきにして……ない」


 泡を流すと、浴槽に肩までつかり背を向けてしまった。やりすぎたかな。

 同い年頃の女の子と一緒なんて初めてだから、はしゃいじゃった。

 ......ちゃんと謝ろう。


「ねぇリュウ子、アタシやりすぎちゃったみたい……だから……」

「オフ、あれみて」


 リュウ子が指しているのは露天風呂の方だ。

 大きな樹を中央に据えたこの場所はビルをくりぬいており、直上から陽が注ぐ。四隅を囲まれているが樹の効果か意外と空気は澄んでいる。

 そして夜、つまり今現在には頭上に星が輝いている。


「露天風呂? 入るの? 混浴って話よね?」

「ついてきて……」




「リンネ……?」


 リュウ子の指していた場所には一人の少女、リンネが樹に寄り添うように佇んでいる。

 切れ長の目は固く閉じられ微動だにしない姿は、まるで彼女も物言わぬ植物の一部かのようで、時折風に揺れる髪は木の葉のようだ。


「寝ているの?」

「うん……人の来ないじかん……よくこうしてる」

「なんていうか、根を張っているみたいね」

「するどい……『チップ』……そんなかんじ、らしい」

「『チップ』を知って……!?」

「じょーしき」

「常識ってねぇ…………でも、ここではそれが常識か」

「ええ『ミュート』も『チップ』も誰もが知ること、ここでは」


 アタシの自答に凜とした声が連なる。


「リンネ……いいの?」

「リュウ子さまが信頼するのですから悪人ではないのでしょう……それにここ数日で私も見極めました」


 鋭い目でじっと見つめられる。けど嫌な視線ではない、静かに返答を待っている。


「ええとアタシ普通に働いていただけなのだけれど」

「だからですよ、慣れない仕事に真摯に取り組む人を否定なんてできません」

「でも、たった数日間よ?」

「ではオフさんはスパイなのですか?」

「違うって言いたいけど……証明する手段がないじゃない……」

「……フフ、冗談ですよ。心の底から困った顔……やはり貴女は悪い人物ではないようですね」


 しどろもどろなアタシにうって変わって目元と語調を緩めるリンネ。

 お湯で誤魔化しているけどじっとりと汗が流れる。正直かなり焦った。


「きつもんはそこまで……リンネもおふろ入ろ?」

「これは申し訳ありません……お詫びにご一緒させていただきます。ああそれとオフさん」

「ん? これは種?」

「私なりの親愛の証です。お守りとでも思ってください、では」


 掌の中の種、小さいけれど脈動していると錯覚するほど生命力を感じる。かなり貴重なものなんじゃないか?

 同時に親愛……その言葉が心にズシリとくる。

 アタシの立場はスパイと言っても間違いじゃない。寄せられた信頼を裏切るような真似が心苦しい。それはここでの生活も悪くないと感じているからなのか。

 判断材料が足りない。アタシには推し量る糧、過去がないから。もっと世間一般の常識を知っていたら、知ろうとしていれば解ったのだろうか。

 ……でもここでの記憶は墓場に入るまでけして忘れない気がする。どうしてだろう。


 自問の答えは出ることも、成果もなくアタシの一日が終わった。

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