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カラー・フルバレット  作者: 長山社
6/8

メイデン

 アタシを歓迎する茶会の一幕は和やかに終わりをむかえた。

 懸念していた顔バレの件も問題なく、仮面を外してもアーシャ達から言及はなかった。

 『美人さんだぁー』とは言われたけど……

 ともかくトカゲのアジト潜入作戦はひとまず成功。なぜトカゲがアタシを探していないのか疑問は残るけど、なんにせよこの好機を逃す手はない。


 それから少し時間が流れて、今アタシは……


「どしたのオフちゃん? 暗い顔して」

「調子……悪い?」

「それは感心しませんね。なに、誰でも調子の悪い日はあります気を遣う必要はないですよ」

「えと、すこし考え事してただけ! 気にしないでください」


 リュウ子、アーシャそしてリンネに連れられある場所に赴いていた。

 目の前の路地には区画ごとに様々な商品を取り扱う店が立ち並ぶ、しかし店の数に比例せず人の足は少ない。

 その理由は歴然。人影を見ればだれもかれもが素顔を曝そうとせず一様に仮面やローブを纏う。素性を知られたがらない……つまりは脛に傷がある者が行きかっているこの場所は薄暗く、国に打ち捨てられたスラム街を思わせる無法地帯。

 耳を立てればうめきと遠くから『主の救いは……』という熱意のこもった妄信的な声。

 当然活気などという言葉とはかけ離れている。


 ……見慣れた景色。

 行き場を失った者の最後に流れ着く場所『ストリームターミナル』と一部では呼ばれている。

 ここ日本では珍しいけれど任務先ではよく見る光景。確かリエドの故郷もこんな場所が多いって言ってた。


「ゴメンねぇ陰気な所に連れてきて……」

「依頼主の指定ですから仕方ないですって」

「……それでも長居はしたくないものです」

「空気……悪い」


 確かに空気は悪いけど、そうさせる一因はアタシ達にもある。

 アーシャをはじめリュウ子、リンネ、アタシはメイド服。

 リンネは刀を腰に差して武装して、アタシは大きな拳銃を背負っている……まぁ使えはしないけれど。

 全員が仮面こそしているものの清廉さを感じさせる服と現在地の相性は最悪。

 浮くも浮きまくりの空気で少ない人足は場違いの一団を避けてさらに数を減らしている。

 あちこちから視線を感じるし、もう早く帰りたい……


「さ、嫌なものはー急いで終わらそ? エイエイオー!」

「おー」


 アーシャはいつもの調子でリュウ子も追随してる……リンネは無言。

 強まる視線を気にしてるのはアタシだけかぁ。



「みんな、着いたよー」

「話の通りの大きな屋敷、見たところ建てられてから数年程度の新築のようですね」

「ここに依頼主がいるわけね……」


 リンネの言葉の通り立派な門を構えた洋風の屋敷。

 純白に染められた壁にはいくつものの窓が辺りを見渡すように取り付けられている。

 立派……ではあるのだけれどこの場においては場違いとしか感じない。

 今のアタシたちと同様で、場所と馴染まず、まるで別世界のよう。水面に映る月のように近づこうともけして触れることのできない、そんな感覚。


 この家の主が依頼主だと考えると話の内容にも納得がいく。

 今回の依頼はアタシ達……というよりアーシャ個人に指名したものでアタシ、リュウ子、リンネは付き添いでしかない。

 内容は古い本の鑑定とのことで専門家でもないアタシでは力になれないのだから当然か。


「お待たせしましたアーシャ様。お入り下さい主人がお待ちです」


 ほどなくして白髪のスーツを着た上品な老人が穏やかな笑みでアタシ達を迎えた。

 トカゲのアジトと似た内装の道をしばらく行くと老人はアーシャとリンネを除いて客室でくつろぐよう案内し、アーシャは『すぐに済むから待っててね』とウインクを残してリンネを伴って消えていった。


「……ひろいへや」

「ええ、それに大きな窓……外から丸見えね」

「でも……あんまりいいけしきじゃない」

「はぁ、古いビルとかオンボロな屋台ばかりじゃあ気分が沈むわねー」

「それじゃ……楽しいはなし、しよ?」


 アタシが吐いたため息にリュウ子は煌めいた瞳で迎えた。

 ここ数日で気づいたけど意外とおしゃべりなのよねリュウ子って。あまり社交的に見えないけど、それだけアタシに心を開いてくれてるってことなら、純粋に嬉しい。

 ううん、ここ数日の平和さで忘れがちだけどここはアウェイの地、気を引き締めなきゃ。

 ……それはそれとして今は楽しい話か……パッと浮かばないなぁ。


「ラブ&ジョイ! 青春してるかな、ガールズ?」

「わぁっ!?」

「あなた…………だれ?」

「ハーイリュウ子、サンゴはサンゴだよっ!」


 青春をぶちまけたような声に間抜けな悲鳴をあげてしまった。

 リュウ子はいたって冷静……に見えるけどいつもより気持ち言葉の間隔が広い気がした。


「ビックリするじゃない! この青春脳!!」

「にゃは! 久しぶりだね、オ……フちゃん。ちょっと耳かしてね」


 素直に応じると短くサンゴは耳打ちする。

 『事情は知ってる、情報交換しよ』と。


「せいしゅんのう?」

「いやぁ酷い呼び方だよねぇーただ青春を謳歌してるだけなのにさ」

「“だけ”ねぇ……まぁそれは置いといてさっそく聞きたい事があるわ」

「なぜここに居て、どうやって入り込んだかは知ってるよね。となると……どこから知ったか、だよね」

「相変わらず察しがいいのね、その通りだけど……」


 リュウ子を見やるとサンゴは意図を察したように言葉を返してくる。


「リュウ子ちゃんなら聞いてても問題ないよー……ね?」

「……なんの話?」

「あなたのお父さんについてだよ」

「なるほど……わたしは言わない」


 なにやら二人の中では通じ合ってるらしいけど、アタシにはちんぷんかんぷん。


「えと、隠し立てする必要はないってことでOK?」

「そゆこと、ねぇリュウ子ちゃん!」

「全然……オーケー」

「じゃあ、アタシから話すわね……」


 アタシは誘拐のいきさつからトカゲのアジトでの出来事までを不明な点を含めて細かに話した。といってもビル内部は地下から低層エリアしか出入りしたことがなく、話せることは少ないが。

 サンゴは時折難しい顔を見せながら頷き、話し終えると合点がいったように手をうった。


「なるなるー、必要なピースは揃った、ありがとねオフちゃん!」

「ちょっ!? 抱き着かないでったら! まったくもー、それでそっちの情報は?」

「オケー情報シェアするねー。まずは……」


 と、その時背後のドアが開け放たれた。

 振り返ると腰に刀を差したメイド、リンネの姿。


「リュウ子、オフ、少々厄介なことになった、まずはここから脱出を……お前は誰だ?」

「あ、お構いなく~……とはいかないよねぇ」


 問う声と共に抜刀するリンネ、下手な動きをすれば切るとの意志をひしひしと感じる。

 そんなリンネに気取られぬようにサンゴは後ろ手に何を手渡してくる。


「それじゃサンゴは切られそうだからお暇するねー、まったねーオフちゃん、リュウ子ちゃん、リンネちゃん!」

「待てっ!」


 制止の声むなしく、サンゴは窓ガラスを派手に突き破り外へ駆けてゆく。

 リンネはその背とアタシ達を見比べて、すぐに諦めの表情を見せた。


「今は避難が優先ですね……二人ともこちらに来てください!」

「きんきゅう事態……わかった」


 状況の全容はつかめないけど、大方この騒動はサンゴの仕業だろう。

 あのサンゴのことだ、このハプニングも無意味とは思えない。この館でなにか得るべきものがある。そう確信したアタシは手の中のものを強く握りリンネの誘導に続いた。

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