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あの夏の火

作者: 涼深良一

「夏の終わりはいつからか知ってる?」

 そんな言葉を聞いたのは、地元で行われた花火大会の帰りだった。

 駅へと向かう道は大混雑。この中で転んだらひとたまりもないだろうなどという考えがふと浮かぶ。

 僕はその人混みを掻き分けて、友人との待ち合わせている公園へと向かった。

「遅かったね」と、どこか嘲笑染みた笑みを溢す人物が木陰から現れ、僕を迎えた。

 髪を後ろに結び、大人の色気のようなものを主張しているようにも感じられるが、小柄な体からは背伸びした子共という印象しか僕には浮かばないのが事実だ。

 けれども、そんな僕の気持ちを知らない彼女は、僕の元へと近寄り囁いてくる。

「それじゃ、罰ゲームね」

 彼女とはゲームをしていた。それは、この花火大会の間に彼女を見つけるということだった。

 人の海に飲まれ、それどころではなかった僕であったが、悪戯好きで有名なこの少女が出す『罰ゲーム』が怖くて、必死になっていた。

 結果としていってしまえば、見つけられなかったからこのような事態になっているわけなのだから、もう諦める他にない。

「それで、何がいいと思う」

 僕に聞く必要があるのかと問いただしたい。

「運転手は前にやってもらったでしょう。執事もやってもらったし、毒見もしてもらったなぁ」

 つらつらと今までの悪行を垂れ流す彼女。その内容というのは、彼女の口から発せられていることから深読みをしてフワフワした甘酸っぱい青春ものなどでは到底無い。

 有体に言わせてもらえば、地獄だった。

「ほら、青い顔をしない」

 頬を抓られて思わずぎょっとする。対して、彼女は満面の笑み。だから怖い。

「実はここに花火があります」

「花火って。さっきまで見てたじゃん」

「ここに花火があります」

「あぁ、遊びたいのね。わかったよ」

 僕の言葉を聞いて、一切の怯みも無い。ずいずいっと顔を覗かせてさらに主張を聞かせてきたところで僕は承諾したのだが、一体どこからもらってきたのだろうか。

 彼女の手には二つの線香花火。

「で、火はどこにあるの」

「お父さんのライター」

「別になんでもいいんだけどさ」

 溜息を吐いた僕を見て、彼女は鼻歌を聞かせてくる。

 線香花火を渡されたかと思えば、さっさと火をつけた彼女はその場にしゃがみこんだ。

 徐々に燃え、心地のよい音を聞きながら、僕たちはそれぞれの花火を見つめていた。

「あのさ」と、線香花火も終わりを迎えようとしたところで彼女が口を開いた。

「夏の終わりっていつか知ってる?」

 聞き覚えのあるフレーズに、僕は少しばかり言葉に詰まった。

「いや、別に」

「そっかぁ。ずっと考えてたんだけど、わからなくって」

「そんなに重要か」

「そんなに重要よ」

 夏が終われば学校が始まる。なんてことを考えた僕だったが、なんだかそれは違う気がした。それに、きっとそんな事を言えば怒られるに違いない。これ以上の災害には見舞われたくないのが僕の本音だ。

「もしかしたら、気持ちが変わったときなのかもしれないね」

 不意に、耳を疑うようなセリフが聞きなれた声から発せられ、僕はぎょっとして灯りを落としてしまう。

「はいまた負け。また次、罰ゲームだからね」

「いや聞いてないって」

「いいの。私の夏は終わったんだから、次は新しい罰ゲームだから期待しておいてね」

 どこか上機嫌な少女。彼女が僕のことをトンと押し、尻餅をつく。

「早く帰ろ。帰ったらホラー映画みよっか」

「それ、お前が苦手な奴じゃなかったか」

「いいの」

 そういって僕に見せた笑顔は、初めてかわいいと思った

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