5,和服美人の相談室(後編1)
────かちゃん
ヒロさんから貰ったアイスコーヒーを飲み終え、三島さんは、ふぅっと息をついた。
「………あの、ひとついいでしょうか?」
「え!?あ、もちろんですじゃ。」
何、今の「え!?」って。
まぁ、今は置いとこう。
それより。
「………先ほど、三島さんが机を叩いたのは、真花が『キモい』と言ったからですか?」
「え、うそぉ!?ご、ごめんなさい!!!」
すごい勢いで体をペコッと折った真花。
ちょっと吹き出しそうになってしまった。
「だ、大丈夫ですじゃ!気にしなくて全然いいのですじゃ……………それより、わらわに勇気を与える方法を教えてほしいのじゃ。絶対に、逃げない勇気をもてる方法を。」
一旦言葉を切った。
「………もう、逃げたくないのですじゃ。わらわは、わざわざ見沢さんをいじめるために居残りするお嬢様達を、見沢さんを助けにも行かず何度も見ていたのですじゃ。もう、嫌なのじゃ!こんな自分にケリをつけたいのじゃ!!」
お願いなのじゃ!と言いたげな、つぶらだがまっすぐ俺を見つめる黒い瞳が、一瞬光った気がした。
………うーん。
にしても、勇気を出す方法かぁ………………あるか?
ガンバレー、って応援するだけでもダメだと思うし、熱血キャラじゃないし、魔法使いじゃないし…………
あ。
「ニャーちゃんがいなくても自分で勇気を出せると思うよ〜」
「ひ、ヒロさん、俺の心の声が聞こえたんですか?」
「え〜?」
「あ、いえ。」
今回は心の声は漏れてなかったか。ちょっと安心。
「僕はね〜、″アイスルアノヒト″のことを考えれば、逃げずに済むんじゃないかと思うよ〜。だって〜、いじめられている子を助けない方が、嫌われると思うよ〜。お母様とお父様も、そっちの方が喜ぶと思う」
と言ったヒロさん。
「……でも、アイスルアノヒトは、私が勇気を出したことを、嬉しく思ってくれるかのぅ……」
「大丈夫だよ!スーパーヒーローと脇役なら、スーパーヒーローの方がカッコイイじゃん!」
「そ、その意味はわからぬが……………よき、か?」
────最後に、俺を見た。
うん。俺も賛成。でも、補足がある。
「もちろん、俺も、同意です。あと、俺達相談員全員が、よろしければ學校へついて行きま」
「まっ、誠かあああ!?」
まだ言い終えてないんですけど。
「おー٩(●˙▿˙●)۶…⋆ฺ
ミヤリオくんナイスアイデア〜」
「下宮くんにしては冴えてるじゃん!………でもさ、手続きとかはどうするの?そういえば、共学かも分からないし。」
「もちろん、共学ですじゃ!それに、手続きに関しては、わらわの執事に任せるのですじゃ───柴崎!」
あ、ついて行っていいんだ。あ、柴崎さんって………
ガチャっ
「お呼びでございますか、お嬢様。」
と、ベージュのドアを開け、入ってきた『執事』。
長めのこげ茶色の髪と似たような色の目。
美白の肌に、ピシッとキマったスーツ姿。
言われなければアイドルと間違えそうなくらいのイケメン男性だ。
「わほぉ……」
真花の感嘆の声。女子ってイケメン好きだよな。
「話は聞いておったであろう。交渉のすぺしゃりすとであるお前への命令だ。しっかりやるのじゃぞ!」
「はい、お嬢様。
───皆様方、お嬢様をよろしくお願いいたします。この醜い執事のお願いを、どうかお聞きください。」
「あ、はいっ!こ、こちらこそ、三島様に勇気をお与えするように全力を尽くします!」
俺は椅子を倒しかけながら、柴崎さんにお辞儀をした。柴崎さんは、浅くも深くもない丁寧なお辞儀で返してくれた。
「決戦は、明日で良いですじゃ?」
「あ、はい。もちろんです。」
「明日、頑張りましょうね!私たち、すぐ側で勇気を与えておりますから!」
「み〜んなで、見沢さんを助けましょ〜」
「はい、ですじゃ!!」
元気いっぱいに頷く三島さん。
───────決戦は、明日だ。
─────────☆☆☆☆☆☆☆────────
続く