13.予告状の相談室(中編2)
絵本から飛び出したようなお城の、裏門近くの森の中。大喜が突然真花に覆いかぶさったのは、見知らぬ初老の、なぜか学生が着る黒い体育着を着た、しっかりとした細い体の男性がこちらに剣を向けていたからだった。
「………ひっ!?」
「よく、我の気配に気づくことが出来たな。そして行動の素早さ………やはり、別国のスパイか」
「……いえ、ただの近所の新聞記者です」
「ほぉ……そっちのかばってる女もか?」
「えぇ」
大喜は制するように真花の前に立ちはだかった。真花は否定することなく頷き、じっと男性を見た。
お約束展開だと、この人が王様の弟さんなのかな……
と、真花は考えた。
「じゃあなぜ、ただの新聞記者がこの時期にこんな所にいるのだ?」
「実は、次の記事にどうしても書きたい人がいて、取材を申し込みに来たのです。ただ、あまりにもあなた達護衛が恐ろしく思え、門の前で話し合ってたらそれこそ恐ろしい目に会うと思いましたから、ここで2人で考えていた次第でございます」
と、すらすらと言った。全く嘘がないように。
「ほぉ……しかし残念だったな。我らは取材の申し込みに来た奴を追い返すほど愚かではない。逆に、ここでコソコソしている方がよっぽど疑われるのだよ」
がさささっ
森の中からいくつもの音がした。
「えっ?」
「……何をする気でしょうか」
「言うまでもない。捕らえろ!!!」
ガサッ、と同じような格好をした『いかにも』な男性たちが草木から飛びかかってきた。
「!!!?うわああ!!!」
「……ふっぅ………すみません、西岩さん」
「えっ?いや、謝らなくていいですから!それより逃げましょu」
「失礼します」
大喜が身をひるがえし、真花をだき抱えた。
はい?と真花が言う前に木に飛び乗り、飛び移り、男性たちが慌てて木の上に戻る前にシュタシュタ駆けていき、ばっ、と木の上から出たかと思うと、いちにのさんで空中を歩いて門の目の前に降りたち、瞬間的にびゅん、とジャンプし、ガラ空きとなった門を通り抜け、城の中の地面に着地した。
……????????
「あ、門閉めないと」
ようやく真花を下ろし、何事も無かったかのように門の右左を巡ってレバーを見つけ、がじゃん、と下ろして門を閉めてしまった。
「さ、それでは弟君を探しましょう」
「ちょおおおおおおおおおおおおいとストップ!!」
「え?どうしましたか?」
「なんですかその恋サクの15話の渡邉くんみたいな身体能力のイケメンさは!?」
「……???」
「あ、ごめんなさい。えーと、恋々サクラっていう神小説があるんですけど、その15話が渡邉くんって言うんです。運動神経抜群だけどなぜか園芸部入ったもちイケメンさんですっ」
「あ、そうなんですね。えーと……俺のは憧れのルパンに少しでも近づくために、近所の怪獣人形が営むスポーツセンターに通っている成果だと思います」
「へ、へぇ……」
どんだけ凄いのそのスポーツセンター。
「そして、門が開くのは考えてもいませんでした。門の護衛のひとりが気づき、城の中の兵士たちに呼びかけてくれてよかったです」
「あれ?開いてませんでしたっけ、門」
「閉まってましたよ」
「えー気づかなかったー……」
と、真花は突然ハッとした。
「話変わりますが……私、重かったですよね?」
「え?いや全然。すみません、突然抱き抱えてしまって。咄嗟の判断でしたので」
「むしろ私足遅いんで、足でまといにならなくて済みましたし、良かったです!」
「そうですか………それでは、もう一度だけ、よろしいでしょうか?」
「………はい?」
「城の兵士さん達が来てますので。弟君を探すついでに、逃げましょう」
確かに、足音があちらこちらから聞こえる。もちろん、門の外で悔しそうにしてる兵士たちよりも数が多そうだ。何せ、侵入者が来たのだから。
「……捕まったら、犯罪者扱いされるのですか?」
「顔見られなければ大丈夫ですよ。あ、これつけましょうか」
と、大喜はスーツのポケットから紺、黒の片眼鏡と縮んだ何かを取りだした。何かは彼が出した瞬間、ぼふっ、と膨らんでシルクハットになった。
「どちらがいいですか?一応変装しやすいんですよね、この2つ」
「あ、それ来た時持ってたやつ……って、え?変装ってやっぱりヤバいんじゃ……うわ兵士来てる……じゃ、今日ピン紺色だから紺で!!」
「わかりました。とりあえず、片眼鏡は一旦逃げてからでいいので、シルクハットだけ被ってください。それでは……行きます」
「あ、はい」
大喜は真花を抱き抱え颯爽と兵士を撒いていき、城の中へと入っていった。
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そのころ
「見えてきた……かぼちゃ姫の居場所が今度こそ…」
「かぼちゃひめ?」
「あっ、なんでもないです」
「さっきより少し小さな畑ですね〜」
「お父さんの家の畑だからですね。うちのはお母さんの方なんですけど、向こうの方が土地が広いんですよ」
「へ〜」
あ、そういや少しおばさんの情報ゲットしました。早速、真花の非常用メモを借りて書いたので読みます。
『名前:べニュイ・ヴィヴィデ
誕生日:11月7日
異世界:形界
職業:農家(友達と一緒にレンタルカボチャ ヴィヴィデ・パンプキンを営んでいる)』
これくらいかな。あ、もちろん『あの方』の情報もゲットしました。これは真花に送ったメールに書いた。
あの方、は今の王様の弟。とても優秀で、武術の才能に長けていた。しかし、婚約の話が持ちこまれてから様子がおかしくなり、ついには王家から離れて軍人への道へ入ってしまった。それから技術を磨き続けてついには軍の司令官までにのぼりつめ、今に至る。
なんでやめたんだろ。
と、俺が心の声をまた呟くとヒロさんはなにかひらめいたらしく、さっき真花にメールを送っていた。めっちゃにこぉ、っとしてたな。
「あ、いたいた!おばさぁん!」
と、マノーさんが走っていった。
畑で作業している5人くらいの女性のうち、マノーさんは赤い紐の麦わら帽子を被った女性に駆けていった。
「あれ、マノー。忘れ物かい?」
「ううん!おばさんに用があるっていうから案内してきたの!」
「私にかい?」
ふっと立ち上がり、こちらに近づいてきた。
この人が、かぼちゃ姫……改め、べニュイさん。
立ち止まり、麦わら帽子を取った。
こちらを見る目はみかん色。赤毛には少し白がかかり、緑とオレンジのシュシュで片方にまとめている。黄色いタオルを首にかけ、長袖長ズボン長靴といった格好。ふっくらとした優しそうなおば様だった。
「あれ、リョウタくんじゃないか」
「べニュイさん、お久しぶりです。あの……あ、こちら、僕が依頼した、相談員の2人です」
「へぇ……え?あれ、じゃあ私になんの用だい?」
「あの……実は、今回の僕の相談が解決するには、どうしてもべニュイさんの力が必要なんです。だから、お願いしに来ました」
「どうか、僕達に力を貸してください!」
「お願いします〜」
「……私でよきゃあいくらでも手伝うが」
「!ありがとうございます!」
3人でぺこーっとお辞儀した。
「あーいーよいーよ。顔あげな。まぁ話は中で聞くから、入りな」
「えっ、いいですよここで」
「いーよいーよ。ちょうど休憩時間だしな、お茶でも出させてくれよ」
「えっ、いやでも……」
「リョーにい、おばさんこうなると絶対下がんないから受け入れなよ」
「あ、そういえば。えーと……じゃあ、はい。お言葉に甘えます」
「うん。マノーも来るかい?」
「んん。お父さんの手伝いしなきゃだし帰る。じゃあリョーにい、新聞楽しみにしてるね!」
「分かった!案内ありがとう!」
「「ありがと〜ございました〜」」
「はーいっ」
元気よくマノーさんは去っていった。
「それじゃあ、ちょいと待ってくれ。おーい、休憩1時間!」
「あいよー」
「あれ、リョウタくんじゃないか」
「え!?きゃーっリョウタくん!」
「あれ?あんた、ダイキくん派じゃなかったかい?」
「嫌だね、リズ。ジェイル変わったじゃないか。まぁ私は元々ダイキくん派だが♪」
「私はまだ中立だね」
「ルーシー、あんたそろそろ決めなよ」
「無理だね。2人とも魅力があって選べないよ」
「なーに、つべこべ喋ってんだい。ほら、休憩短くなるよー」
「あいあい、司令官派さん」
「なっ……!ほら、行った行った!」
……司令官って言われた瞬間、べニュイさんが赤くなった。とりあえずこの人が100%かぼちゃ姫だということが今ので分かった。
運命、戻したいな。
「そ〜だね〜」
「なんか、あの予告状のおかげで1人の幸せを戻せるのは少し変な気持ちですが……でも、頑張らないと」
「死にますもんね〜」
「ヒロさんそこ触れないで」
てかいつの間に心の声が出てたんだ。俺。
「あははっ……でも、死ぬ死なない以前に、彼女を助けたいんです。本心で」
「……涼武さん」
にっこり、微笑む涼武さん。すっごく心の綺麗な、優しい人。
……救いたい。
2つの願い。
俺たちが、叶えなくては。
「3人とも、入りなー」
「あ、はーい!」
「はい!」
「お邪魔しま〜す」
畑の中の細い道を通り、可愛らしいべニュイさんの家に入っていった。
相談解決期限、あと2日。
☆☆どうでも情報☆☆
「べニュイさんのお手伝い友達5人の紹介!」
「お〜」
「リズさん、ジェイルさん、ルーシーさん、ナオミさん、カイルさん!」
「ほ〜」
「リズさんは涼武さん派、ジェイルさんも涼武さん派、ルーシーさんは中立、ナオミさんはダイキさん派、カイルさんもダイキさん派!ルーシーさんの決断はどうなるのか!?」
「ふぇ〜」
「少しは関心持ってくださいよぉ」
続く