13.予告状の相談室(前編2)
「どうぞ、中へ」
深緑のスーツに白い手袋、片手にシルクハットを持った紳士系男性に案内され、Ru-Blanpaの奥の方に来た。中は、2階まで吹き抜けになってるから明るい。よかったー。暗かったら心配になるし。
「どうぞ、お入りください」
「あ、はい。失礼します」
スーツと同じ深緑のドアを、紳士系男性が開けてくれた。
………おお。
壁も床も柔らかい赤。大きめの窓、大理石製の赤茶色の机と社長っぽい黒いイス。そして、緑の机を挟んで黒いソファーが向かい合ってる。
なんか、大人っぽい書斎みたいな部屋だなー。
「どうぞ、お座り下さい」
「あ、はい。失礼します」
俺、真花、ヒロさんの順番で座った。ふっかふか。
何となく緊張がとけ、俺はずっと気になっていたことを口にした。
「あの……今回俺たちを呼び出したのは、なんのためなんですか?」
「え?それはもちろん、相談ですよ」
「……あ、そ、そうなんですか!?え、あ、なんだ良かった……」
「忙しくて出向かうことが出来なかっただけで、相談には変わりないです。相談室に行かないと相談できない、ということはないですよね?」
「あ、はい。もちろんです」
「良かった……りょうた、コーヒー入れてきてもらってもいいかい?」
「もちろん」
「え、頂いていいんですか?」
「もちろんですよ!来てくださったんですし、お返しの気持ちです!」
「わ〜、ありがと〜ございます〜」
「では、お先に始めていて下さい!」
金髪メガネの男性が出ていく。
ドアが閉まったと同時に、俺は口を開いた。
「では改めまして───今回の相談を担当させていただきます、下宮理雄です」
「同じく相談員の古鳥広斗で〜す」
「記録係の西岩真花ですっ」
そっか。そういえば、ヒロさん相談員兼コーヒー係だよな。心強い。
「では、お名前と誕生日、改めてお住みの異世界と職業をお教え下さい」
「はい。私は長谷城大喜と言います。誕生日は9月14日。形界で新聞記者をさせていただいております」
真花がサファイアかー、と言いながら書いた。サファイアは聞いたことあるな。
「では、次にお願いします」
「えっ……ぼ、僕もいいんですか?」
ちょうどコーヒーを持って金髪メガネの男性が現れた。嬉しそうにコーヒーを配ると、ニコニコ顔で言い出した。
「えーと、僕は蘭井涼武です!誕生日は2月1日。同じく、形界で新聞記者をさせていただいております!」
「ルビー……と」
あ、ルビーも聞いたことある。今回どっちも聞いたことある宝石だなー。
「それでは早速、相談内容を拝聴させていただきます」
「はい。相談内容は、予告状が来たことです」
「………予告状、ですか」
「はい。しかも、その予告状の書き方が、僕みたいに書きなれている感じがするんです。さらに、差出人が……」
大喜さん書きなれているんだ。
と、大喜さんがスーツのポケットからカードを出し、俺たちの前に差し出した。俺たちは顔を寄せ合った。1番上に、Remarquezと書かれていた。
「……えー……れまる……くえず?」
「これ、英語ですか?」
「あ、いえ。フランス語です」
「和訳したのあるんで、どうぞ!」
今度は涼武さんがスーツから紙を出し、差し出した。
『予告状
Ru-Blanpaの皆様へ
3日後のへびがうまから離れる刻、あなた達のハートを頂戴いたします。もしそれを防ぎたいのなら、子の方角に住む哀れな王子と、子の方角に住む健気なかぼちゃ姫の運命を戻しなさい。もし戻すのなら、物語をお忘れなく。
アルセーヌ・ルパン』
「「「アルセ〜ヌ・ルパン!!?」」」
差出人すげー!てか、ルパンの人形とかあるんだ。
「たぶん、ないです」
また俺の心の声が出てたのか、大喜さんは少し怒ったような声で言い返した。
「僕はルパンを尊敬しています。彼は決してこんな書きなれた脅迫文みたいな予告状を書きません。し、こんな字が汚い人がルパンな訳ありません」
「な、なるほど」
愛が強いなー。
「とりあえず、本物だったら3日後に大変な目にあうんで、この予告状を解読しようと試みました」
「でも、1日かけても分からない部分があったんです。そこで、涼武があなた方のことを思い出して、二人で行くことになったんです」
「でも、大喜がどうしても抜けられない用事があって、大喜か手紙代わりの予告状を書き、僕が届けに行ったんですけど……その、た、立てかけておいたんですけど……2時間たっても来なくって……」
「え、そうなんですか!?すみません!!」
そんな経ってたのか!
「2時間って……じゃあ、最初から私たちを、その、て、天に召させる気は無かったんですね」
「もちろん。すみません、私自身が慌てていて、予告状に書かれていた表現を用いてしまっただけなんです。どうしても急いできて欲しくて」
そういえば、ハートをちょうだい的なことが書かれていたな。あ、だからフライパン持ってきたんじゃん。忘れてた。
「ところで〜、こちらの予告状のどこら辺を解読したんですか〜?」
「えーと……この最初の文は分からなかったんですけど、『子の方角』は分かりました。確か、子の方角は北で、その方角に貴族の城があります。そこには、2日後に結婚する王子が住んでいるんです」
「え、結婚!?じゃあ、このかぼちゃ姫って……」
「それが、違うんですよ。知り合いに、今回結婚パーティーで使われる野菜を調達する農家がいるんですけど、彼によれば、結婚相手の方はかぼちゃアレルギーらしいんです」
「じゃあ、絶対違いますね」
てか、かぼちゃアレルギーなんてあるんだ。
「てか、ここに運命を戻すって書かれているということは、王子は他にも契りを結んだ人がいるということですか?」
「はい。たぶん、今回より先に」
「その人って、貴族の方じゃないですよね」
「あー確かに。貴族だったら今回のことは行われないよな。じゃあこの人は……何かかぼちゃにまつわる一般人ってことですかね?」
「そ〜だね〜」
何となく、今回の相談の鍵になる人達が分かってきたな。
「あっ!はいはいはーい!」
「え、どうしたの真花」
「西岩さん、なにか気づいたんですか?」
「はいっ!えーと、この最後の『物語』なんですけど、シンデレラじゃないでしょうか!」
「シンデレラ?……あ、かぼちゃ」
「そっか!シンデレラと言えば、かぼちゃの馬車!」
「なるほど〜٩(●˙▿˙●)۶…⋆ฺ」
「西岩さん、すごい!!」
うぇいっ、とピースサイン。
と、今度は大喜さんの表情が変わった。
「かぼちゃの馬車、で思い出しました。もしかしたら、かぼちゃ姫の場所が分かったかもしれません」
「え、本当ですか!?」
「………あ、そっか!あそこ、城のすぐ近くだし、ここから見れば北の方角にある!」
涼武さんも思い出したらしい。すげぇ、真花のヒラメキがここまで進んだ。
「だいたい解読できましたし、そのかぼちゃ姫のだと思われるところに行きましょうか」
「はい。あ、すぐなので、歩いていきませんか?」
「そうしましょっか!」
「あ〜でも〜、フライパン置いてきてからでい〜ですか〜?」
「あ、もちろんです!先に外で待ってますね!」
「はい!」
という訳で、すっかり団結して安心感が高まった俺たちはペガ車に向かった。
にしても、かぼちゃにまつわる所ってどういう所なんだろ。かぼちゃ姫、いい人だといいなー。なんか、楽しみだ!
「下宮くん、早く!」
「ドア閉めちゃうよ〜」
「あ、待ってください!」
急いで駆けて行った。
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少し離れたところにとめたペガ車に向かっていく相談員たちを、2人は見つめていた。
「元気のいい相談員さん達だねぇ。噂もたまにはいいこと言うなぁ」
「そうだね。涼武、ずっと気になってたよね」
「うん!ぜひうちの新聞にも載せたかったんだぁ。あ、終わったら許可もらおっかな」
「いいんじゃないかな」
「やった!」
満面の笑みを、涼武は見せた。
───しかし、ふと、涼武は悲しそうな顔をした。
「……なんか、嘘ついてるみたいだよね」
「そうかい?涼武はもともと彼らに興味があったし、僕はあのレディを助けたいと思っていた。その本心が繋がっただけだ。誰も、何も嘘をついていない」
「そうだけど……なんか、利用しているみたいで罪悪感を感じるんだ」
「……利用、か。悪い言い方だとそうだね。でも、これは間違っていない」
「……いつも、こんなことしてるの?」
彼らが、手を振りながらこちらに向かってくる。
2人は手を振り返した。
「……いや。あまりやった事のないやり方だよ。ただ、興味本位でやってるだけだ。間違っていたのなら……彼らに責められようじゃないか、パートナー」
「……僕もなの?バディ」
「ああ。この相談は、もう始まったのだから」
「確かにそうだね。始まったものは、最後まで続かせないと」
「ああ……そうだね」
───少し冷たい風が、5人の空間を包んでいった。
───ペガ車にて
「あれ?そういえば、なんでフライパン?」
「そういえば、下宮くんは知らないんだっけ」
「あのね〜、僕フライパンないと寝れないの〜」
「え、そうなんですか?すごい」
「ちなみに、私は1人しりとりしないと寝れないの」
「え、そうなの?なんか2人とも特殊ー」
「「オオカミの遠吠えを目覚まし音にしてるやつに言われたくない〜」」