11.黄昏探偵の相談室(後編1)
「そろそろ全てを話して欲しいな〜、『アマテラス』さん〜」
のんびりと、真面目な顔でヒロさんは言った。
夢光さんの目の色がゆっくりと戻り、白い布に写っていた画像達も消えた。
それでも、Harugaさんが写っていたところに、夢光さんの指は置かれたままだった。
「………なんで、そう思ったんですか?」
「ん〜。まずは、あの白い光のことですかね〜?真花ちゃんに聞かれた時戸惑っていましたよね〜?夢光さんは時計が〜って言っていましたけど、本当は夢光さん自身に何かあったのかな〜って思いまして。でも、手がかりになることがなかったんで気にしてなかったんです〜。けれど〜、今その男性見た瞬間、一瞬だけ画像が消えたんです、さっきと似たような、淡い白い光に包まれて〜。それで、確信しました〜」
ゆるっ、といつもの顔に戻って微笑んだ。
………以上、らしい。ヒロさん凄い。観察力が探偵なみだ。白い光が出てるところまで見てたなんて………
そっと、夢光さんの反応をうかがった。みんな、じっと見てる。沈黙が続く。
時計の音、何かを炒める音、常郎所長の鼻歌………
「……その通り、です」
邪魔な音をかき消した。その一言で、俺たちの間の緊張が解けた。
彼女は、すみません、と頭を垂れた。それでもなお、Harugaさんの画像がどこにあったかハッキリとわかった。
「隠していたのは、古鳥さんの言う通り、探偵としてのプライドが崩れると思ったからです。情けなくて、どうしようもないんで。ですが……………」
人差し指を見つめた。見失わないように、力強く白い布の一部を押さえている。
周りに、小さな水滴が落ちてきた。
「どうしても、赤っ恥をかいても、会いたくなったんです。『リンネ街へ行かなくては行けない』っていうのも嘘なんです。まだまだ時間はあるんです。でも、どうしても、会いたくなったから………」
パッ、とこちらを見た。涙でぬれた頬が、電灯に当たって煌めいていた。
「彼は恩人なんです。記憶を失くしてからも、両親が亡くなってからも、歳をとってからも、ずっとずっと、ずーっと傍にいてくれたのは、ぶっきらぼうで優しい彼だったんです。だから、1度も寂しいなんて、記憶を失くしたからどうだって、考えもしませんでした。だから、せめて、ありがとうを伝えたい……それだけなんです」
あ。あと、もう1つ、と付け加えた。
「私の名前と彼の名前を教えて欲しいんです。『十時院夢光』って名前、常郎さんが付けてくれたんです」
「………なるほ」
真花はメモ帳とシャーペンを、ワンピースのポケットにしまった。
「下宮くん、連絡つく?その人と」
「ん、あぁ。つく」
「そっか、じゃあ………」
真花が俺とヒロさんに目を合わせた。俺たちは強くうなずいた。
「ゆかさん………いや、アマテラスさん!明日あなたの相談を解決してみせましょう!」
「……それって」
ようやく人差し指を布から外し、目を煌めかせた。
俺は我慢しきれず大きく頷いた。
「あなたの大切な人に、俺達が会わせます!」
「………!!!ほ、ほんとに、ですか!?」
「も〜ちろん」
「そいじゃ今から行」
「真花。もう夜だから明日な」
「えーっ、夜来るの早いよー!!」
いや、それは仕方ない。俺も残念だけど。
「みんなー。そろそろ話は終わったかな?」
「じ、常郎さん!聞いてたんですか?」
「うん。いやあ、やっぱり探偵が嘘つくなんて、似合わないことしない方がいいね」
「所長さん、知っていたんですか?」
「うん。何回も相談されたからねぇ。にしても、夢光ちゃんの幼なじみにみんなが会っていたなんて奇跡だね」
「奇跡.....うん。ほんとに奇跡ですね。なんか、そう。本当に素晴らしい出会いです」
本当に、嬉しそうに笑った。
「ささ、パスタも出来たから、みんな手洗ってきな。洗面所こっちだよー」
「よーっし、戦いの前に腹ごしらえだー!!」
「お~………戦いなのかな〜?」
「私の心臓との戦いです☆」
「あ〜ね〜」
何の話をしてるのだろうか。
理解できない俺より先に、常郎さんと共に先に行ってしまった。
「あの……ほんとに、ありがとうございました」
「いえ。俺の方こそ、ありがとうございます!あの人をどうしても助けたくて………こんな奇跡が起こるなんて思いませんでした。俺の方こそ、ありがとうございます!!」
「えっ、いえ、私の方こそ!」
「いやいや俺の方こそ!!」
互いにお礼を言い合い、頭を下げ合った。
そのうち笑いがこみ上げてきて、俺達は笑いあった。
「あれれ、二人ともどうしたの?」
「あっ、い、いえ!すぐ行きます!行きましょう、下宮さん」
「ははは………あ、そうだ!夢光さん、ひとつ聞いておきたいことがあるんですけど」
「はい?………ああ、それなら……」
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