11.黄昏探偵の相談室(中編2)
「ぃ………きみ………君!」
ぱち
目を開けると、黒メガネをかけた初老のおじさんがいた。瞬きをすると、ふぅ、と顔を緩ませた。
「良かったぁ。大丈夫?」
「あ、はい………った!」
「大丈夫じゃないね。頭打った?ちょっと見せて」
「あ、ありがとうございます
てか、目も痛い。さっきの強い光にやられたな……
待って。
「真花、ヒロさん、夢光さん……なんで倒れて……」
「そうなんだよーなんかみんな倒れててびっくりしちゃって………あれ?夢光ちゃんのこと知ってるの?」
「はい。あ、もしかして、常連の人ですか?」
「あー僕、ここの所長です」
「………所長!!!!?」
びっくり。所長さんの方がびっくりしてるけど。
「んぅ……何事ぉ……?」
「ふぁ〜………雷でも落ちたのかな〜……」
「ぅ………か、雷!?え、うそ、事務所が丸焼けになってしまう!!」
え、そんな大きかった?俺の声。みんな無事に起きたんだけど。
「みんな、雷落ちてないから平気だよ」
「あ、良かった……って、じろうさん!!」
「じろ〜さん?あ、初めまして〜」
「どうもー。常連の方ですか?」
「なんでみんな常連に見えるのかな。僕は、ここの所長の磐瀬 常郎です」
「あ、失礼しました。お邪魔してます」
すくっ、と3人とも立った。俺もよろけながら、ゆっくり立った。頭と目がまだ痛む。
「ところで、夢光ちゃん、この3人がそうなんだね」
「はい。あの………すみません。先に謝らせてください」
ばっ、と体を折った。
「すみません。何も説明せずにやってしまった私がいけませんでした。本当に、怖い思いをさせてすみませんでした」
「……説明?」
あの濃いピンクの光と、強すぎる白い光のことだろうか。やっぱり、なにか仕組みがあったらしい。
と、常郎所長が前に出た。
「夢光ちゃん、なんで言わなかったの?こういう「もしも」があるから言っとけって言ったじゃないか。なんで言わなかったの」
「……怖かったから、です」
「でも、ちゃんと知れてよかった。恐ろしいだろ?自分も意識が消えてしまうぐらいなんだから」
「……はい。」
こくん、と頷いた。
そして、決心した瞳で俺たちを見た。
「今からちゃんと説明します。依頼を解決する私の方法と、今起きたことを」
「あー待って待って。立たせたままじゃ悪いでしょ。奥の方に来な。ちょうど、新メニューのいちごタルトを持ってきたから」
ねっ、と笑いかけた。
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そしてまた、食堂(?)に戻った。
きちんといちごタルト(ルビーボックスだとか)を食べ終わったあとで、夢光さんは常郎所長の隣で話し始めた。
「まず、この能力から話します。これは、童界に間違って転生した時に得たものです」
「なるほー……間違って!!?」
ポケットから取り出しかけたメモ帳とペンを落としかけた真花。
「はい。原因は、私が10代の頃に記憶を失くしたことにあるそうなんですけど、ハッキリとは未だに分かっていません」
「記憶を……」
「あ、特にそこは気にしてないです。その後の人生にも影響は無かったので。それで、その後中界で手続きを済ませて天界人になったんですけど、童界特有の能力は消えませんでした。」
言葉を切った。
「……その『能力』というのは、時計と記憶を共有できるものなんです」
「共有方法は3つあります。
1.時計に直接触れ、決まった言葉を言い、共有したい
時間とそれが今日から何日前かを心の中で伝える
2.時計に手をかざし、同じことをする
3.別の時計を経由して、共有したい場所にある時計と
記憶を共有する
この3つです」
「質問いいですか?」
真花が間髪入れずに言った。夢光さんは頷いた。
「あの濃いピンクの光と、強すぎる白い光はなんですか?」
「はい。まず、濃いピンクの光は、記憶を共有する道みたいなものです。最初からあの色でした。そして、白い光は………えと………」
戸惑ってる。
「……その、私も初めて見たので、詳しいことはわかりませんが、多分その場面に時計自身が強い想いを抱いていたんだと思います」
「なるほど....」
「あ、俺も質問いいですか?」
「はい」
「『手続き』を済ませた後すぐにココへ来たんですか?」
「あー、いや。僕が引き取ったんだ。『クォーツ』の前でぶっ倒れてたから」
「「「えぇ!?」」」
ぶ、ぶっ倒れてたって……事件でも起きたのか!?
「え、えと.....ケーキ食べたかったんで、能力を使って調べたら出てきたんです。でも、お腹がすきすぎてお店の前で倒れてしまって………」
「ありゃー」
「急いでアップルパイあげたらここで働きたいって言ってね。でも、なんだったら人手不足の探偵業務に回ってほしいと思ってねぇ」
「なるほど〜」
「まぁ、人手不足って言うほど以来は来ないけどね、はははっ!さーて捜索の続きでもしますかーっ!僕も手伝うよーっ!おー!」
「は、はい!おー!」
「おー!」
「お〜!」
「……あ、お、おー。」
こ、こうして、捜索は再開された。
─────────☆☆☆☆☆☆☆────────
「んぅ〜。みんなカッコイイね〜」
どうやら、共有した記憶は外に出すことが出来るらしく、さっき出した白い布に、イケメン男性が何名か映し出されている。何となく、防犯カメラの映像を見てるような感じだ。
「だけど、2.5次元イケメンはなかなかいないな」
「てかさ、その2.5次元イケメンって何?」
「え?芸能人にいてもおかしくない、不思議なオーラを持つイケメンのことですっ☆」
「あー。てか、なんでその種類のイケメンとして探してんの?」
「『ツクヨミ』さんが神天使、だからですよね?」
「そーです!ゆかさん!」
「あーっ、なるほど」
てか、年上だし真花のニックネーム付けは行われないと思ったけど、見当違いだったな。
「3人ともー。そういえば何時に帰るの?」
「特に決めてないです〜」
「もう暗くなってきたし、夕飯はこっちで食べな。お手伝いはいいからね」
「え、あ、ありがとうございます!!」
「真花ちゃん、常郎さんのパスタ美味しいよー!」
「ほんとですか!やったー!」
「お〜٩(●˙▿˙●)۶…⋆ฺ」
パスタ久々だなー。楽しみ!常郎さんは俺たちの喜ぶ姿に微笑みながら、奥の方に行った。
ヴーっ
……んっ?メール……あ、Harugaさん
えーと。『リオ、久しぶり。とりあえず天界全部回るの無理だから、リオの参考書を待つことにした。
それと、俺の幼なじみの特徴を書いておく。
1.黒髪ロング、色白
2.160cmぐらい
3.純白の砂時計のブレスレットを付けてる
このくらいだ。
何かあったら連絡してくれ。俺もまた、連絡する。』
おぉ、有力情報だ。そういや、Harugaさんも幼なじみ探してるんだよな。アマテラスさんと同じくらい、こっちも頑張って捜索しなきゃな。
「いないようなんで、次の画像出しますね」
「お願いしまーっす!」
ぶわっ、と紫色っぽい光があたりを包み、夢光さんは光をぐっと掴むと、白い布に放った。これまたイケメン勢揃い。
「さーいませんかー、2.5次元さんはーっ」
「……あっ!!」
「どうした下宮くん」
「こ、この人!」
「んぉ……誰?」
「………。こないだあったイケメンギタリストの」
「あ、あああ!あの2.5か!」
「略しすぎじゃね?……って、夢光さん!!?」
「……は………す、すみま……ぜん」
な、なぜか泣いてる!!?
「……そっ、その人、知り合いです。だいぶ長く会ってませんけど」
「あ、そうなんですか!?」
「へぇ……またストーリーがありそうですなぁ……」
真花がニヤつき始めた。
……ん?Harugaさん知ってるってことは、幼なじみさんも知ってるかも?
「あの、夢光さ」
「幼なじみさんでしょ〜?」
と、ヒロさん。
「……え?」
「だから、その2.5次元のイケメンギタリストさんは夢光さんの幼なじみでしょ〜?だからつまり、この人はツクヨミさん」
「ち、違いますよ?その人はただの知り合」
「ただの知り合いには泣かないよ〜。ずっと離れてた大切な人じゃないと人間は〜」
………沈黙。
それを確認してから、ヒロさんはもう1回口を開けた。
「夢光さんなりのプライドがあったのかよく分からないけど〜……そろそろ全てを話してほし〜な、『アマテラス』さん〜」
「………え?」
真花と俺は、夢光さんを見た。
夢光さんの紫色の目が、淡い光とともに元に戻った。
後編へ続く