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異世界転生達の相談室  作者: 磨雄斗
22/33

10.下宮理雄の休室録

相談室をお休みにし、俺たちが行ったある場所。

そこで、俺はとてもいい経験をしたんだ。


…………んぅ?


薄く、目を開いた。

日光が、葉と葉の小さい隙間を縫って俺を照らしていた。眩しくって、左手の甲で目を隠した。


あ、皆さんどうも。今日は、相談室をお休みにして天界のショッピングモールに来ていまーす。

……え?なんでかって?えーと。


○ここ一週間誰も相談室に来なかった。

○昨日、水晶の点検だとかで来たガブリエル(仮)さんが鼻で笑った(その際、真花が水晶を丁重にぶん投げて渡していた。)。

○ヒロさんがペガ車に乗ろう、と提案。

○買い物したい、と真花。

○俺の意見など聞きもせずに決定。

とまぁ、こんな感じです。はい。


まぁ、俺買うものなかったからゲーセンで暇をつぶし、ベンチに座ってたってわけだ。このベンチ。実は、この三階建てよりさらにデッカイ木をぐるっ、と囲んでいるんだ。しかも、この木がつけているのは、なんと虹色の葉。ようやく異世界っぽいものに出逢えた気がするなぁ………。


さ、説明も終わったから、もうひと眠りしよ…………

………………………ぅ……………………


ぽすっ


…………ん!?なんか、受け止められた!?


「危ない………頭打つところだったぞ。」

「うぇ!?」

「あ、ちょ、動くな!!………っしょ。ほら、もう大丈夫だ。」

「あ、ありがとうございます?え?」

ぱっ、と隣の受け止めてくれたらしい人を見た。


…………わ。

すっげぇイケメン。色白の肌にキリッ、とした目。黒と赤の上下ジャージが異様に似合っている。なんか、俳優みたいな、現実では会えなそうな凄いオーラをまとっている。


「どうした?頭ぶつけたか?」

「えっ?あ、いや、お、おかげ様で大丈夫です!」

「そうか………ならいい。」

ふっ、と優しく笑った。え、笑顔って本当に輝くんだ………あ。


ふと、俺とこの男性の間に置いてある、黒いものに目がいった。

「………これ、何ですか?」

「ギターだ。」

「え、ギター!?うわぁ!初めて見ました!」

「………は!?」

ぐいっ、と近づいた。ち、近い近い近い近い近い!!


「ぎ、ギターを生まれて初めて見ただと!?そ、そんな………」

すっ、と静かに元の位置に戻って腕と足を組み、呆然とした。ご、誤解させてしまった……


「あの、生まれて初めて見たわけじゃないです!テレビや動画とかでは見たり聴いたりしてましたし……」

「……直接見たり聴いたことは?」

「あ、それはないです。」

「そうか………」

そっと腕だけほどき、黒いケースを持ち上げた。

じじーっ、とチャックを開け、中から肌色のギターを取り出した。な、なんでいきなり取り出したんだ?


「弾いてやる。お前、なかなかレアなヤツだからな」

「……えええ!?」

「あ、嫌ならいいんだぞ?強制的じゃないし……」

「き、聴きます!聴きたいです!!」

ばっ、と手を挙げた。もう絶対こんな機会ないし!!


すると、満足そうに頷き、肩掛けとギターの間をくぐった。そして、ギターのへこみと組んでいる足を合わせ、そっと弦に触れた。


───じゃらん。


優しく鳴った。メロディが続いていく。軽やかで、心のこもったメロディが。


ギターから、彼の横顔に視線をうつした。

………嬉しそうに目を瞑っていた。指が弦に触れるごとに、彼の体もふわっ、と揺れる。

彼にしか見えてない世界の中で、ギターの音色だけが流れているようだった。


……音もこの人も、今までにないほど輝いていた。


「これが、ギターの本物の音だ。」

「………。」

「どうした?終わったぞ?」

「………すごい。」

「は?」

「すっごいです!!あんな、あんなキレイなもの初めて聴きました!!生で聴くのってこんなに違うんですね!!教えてくださり、ありがとうございます!!」

「お、おぉ。そんなに感動してくれるなんて思わなかったなぁ。」

まじまじと俺を見つめた。いやぁ、なんか嬉しいなぁ………ん?


「右手首につけているの、何ですか?」

「んっ?あぁ、これか?」

「はい。あ、ブレスレットですか?」

黒い紐に、青い砂の入ったキレイな砂時計がついたブレスレットだ。砂が光を反射してキラキラ光っていた。


………と、彼は前かがみになって見る俺に、ぽそっ、と秘密の話をするように小声で言った。

「………これは、オレと天界にいる幼なじみとの唯一の繋がりなんだ。」

「……唯一の、繋がり。」

俺が態勢を戻すと、彼は寂しそうな顔をしていた。


その表情さえ輝いて見えて、でも、冷静さを取り戻して言葉を探した。

「え、えと、て、天界にいるのだったら、会えないんですか?」

「会えない。俺たちはお盆の時しか現界に下りれないだろ?だが、大抵オレは仕事が被るんだよ。オレだって会いたいけど…………会えないんだ。」

ぎりり、と右手首をきつく握った。顔も悔しそうに歪んだ。幼なじみさんへの気持ちが、とても強く伝わってきた。


「……じゃあ、探しましょうよ。」

「探す時間あったらとっくに探してる。オレは毎日忙しいんだよ………」

「そ、そんなことないですよ!!」

バンッ、と開け放しになっていた黒いギターケースに思い切り手を置いた。

彼の驚いて丸くなった目と合い、一瞬ひるんで、でも、言葉を続けた。


「だ、だって、こんなところでのんびり出来るぐらい暇なんだったら、いくらでも探す時間あるじゃないですか!俺もすげぇ毎日暇なんで、いくらでも手伝いますから!忙しいを理由にして諦めないで下さい!!」

「………。」

あっ。やってしまった。めっちゃ呆然としてる。


「す、すみません。俺なんかがこんなこと………」

「そんなことない。」

今度は彼の番だった。


「そうだな………確かに、オレは仕事を理由にアイツを探すことから逃げてた。覚えてないかもしれない、って思ってな。でも………カケガエノナイ幼なじみを忘れるわけないよな。うん。そうだ、そうだ。探す方法なんかいっぱいあるよな。そうだよ、最初からこうすりゃ良かったんだ…………」

ぶつぶつ、と呟いて、決心のついた輝いた目で俺を見た。


「ありがとう。お前のおかげだ。仕事より、 恋だもんな、今の時代!」

「そ、それは分かりませんが…………」

「多分そうだろ!あ、連絡先教えてくれないか?本当に図々しいが、何かあったら助けてほしい……」

ジャージのポケットからスマホ取り出し、画面をタップして俺に差し出した。そこには、IDが表示されていた。


お、おおお。

「も、もちろんです!いつでも連絡して下さい!」

私服のズボンのポケットからスマホを取り出した。

画面をタップし、IDを入力した。ポコン、と音がなり、オオカミのアイコンがでた。


「で、出来ました!」

「ありがとう。あ、もうこんな時間か。今日は本当にありがとう。また、いつか。」

「はい!こちらこそ、素敵なギターの音色をありがとうございました!」

ぺこ、と体を折った。ギターの先が頭に軽く当たった。


「あだっ」

「ふっ………大丈夫か?」

笑った。さっきより自然さが増していて、輝きが増していた。


「わ、笑わないで下さいよ!」

「あっはは、わるいわるい。じゃあ、またな。連絡する。」

「あ、はい!また!」

ギターを片付け、ケースを担いだ彼は俺に手を振り去っていった。


いやぁ、本当にかっこいい人だったなぁ………

「しーたーみーやーくーん!!!」

「あ、はい!?」

「何今の2.5次元イケメンギタリスト!何でスマホいじってたの!?」

「に、2.5?いや、連絡先交換しt」

「なんですと!?あ、詳しい情報はフードコートで!!ヒロさん待ってるから!!」

「あ、そなの?分かった!」

スマホをポケットにしまい、長いスカートを揺らす真花の後を追いかけた。


……ふと、彼のギターの音が蘇った。そういや、あの曲聞いたことがある気がする。なんだっけ…………


「ま、いっか。」

「下宮くん!2.5次元イケメンの話聞きたいから早く!」

「だから、なんで2.5なんだよー」

急いで追いつき、一緒にフードコートへ向かった。

かたん。


「ふぅ………こんなもんかな。」

初めて休室録なんて書いたけど、なかなかいいんじゃないかな?ちょっと小説っぽく書いてみたけど、なんか言われるかな?ま、いっか。


───そういや、あの曲、本当に誰の曲だっけな。

えー……んー………


ばんっっっ


「おわっ!?」

「お久しぶりです下宮さん!!」

「え、し、秋宮さん!?」

いきなりドアを開けて入ってきたのは、秋宮間千さんだった。なんで?


「どうし………」

「こっ、この、このニュース見てください!!!」

「ニュース?」

差し出されたスマホの画面を見た。


「………脱退?」

そこには、太い文字で「脱退」という言葉が書かれていた。そして、もう1つ…………


『LostVE』、と書かれていた。

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