7.あの悪役の相談室(中編1)
すたーと!
土下座をしていた人っぽいのは、数分後、ようやく顔を上げ、立ち上がった。
その姿。
両目が隠れそうなほどの長い前髪。
黒いスーツに、なぜか生えている尻尾と犬耳。
そして、この人っぽいのは、いきなりバッと体を折った。
「すみませんっした!!おどろかせてしまって!!」
「「「.......あ、い~え。」」」
「今、″驚かせたらダメウィーク″なんっす!ほんとにすみませんっした!!」
「「「……あ、い〜え。」」」
何だよ、そのウィーク。
「俺、『赤ずきんちゃん』に出てくる、狼男の秋宮 間千っす!」
「「「えええええええ〜っ!!!!??」
3人揃って大声を出してしまった。
だ、だって、狼男、なんて、見たことねぇし!!
しかも、童話のキャラクターって。。。
童界の出身かな?
「あっははは!皆さんの反応、面白いですねっ!」
愉快そうに笑いながら、サラリと前髪を払い除けた。
その顔。
真花が「ほわぁ〜♡」と声を漏らしてしまうほどの、イケメン。最近イケメンばかり来るなー。
「すみません、驚かせてしまって。相談に来ました」
「あ、そうっすか。………今回担当させていただきます、下宮理雄です。こちらは西岩真花、カウンターにいらっしゃるのは、古鳥広斗です。申し訳ございませんが、改めて自己紹介をしていただいた後、ご相談内容を拝聴させていただきます。どうぞ、おかけください。」
「あ、はいっ!失礼しますっ!」
爽やかに返事をし、手前の席に腰掛けた。
そうするや否や、ヒロさんが2つの長細いコップを机に置いた。
「は〜い、ブドウジュースで〜す」
「あ、ありがとうございます!……美味いっ!」
「「美味いのは何よりですけどなぜにブドウ。」」
真花と2人して叫んだ。
でも、彼女は、すぐにパンっと手を叩き、首を傾ける俺に耳打ちした。
(ほら、赤ずきんちゃんって、お婆ちゃんのためにぶどう酒持っていったじゃん。)
(あーね。てか、相談内容って何だろうね。)
(恋愛相談じゃね?赤ずきんちゃんに恋してたり。)
(あー、ありそうだな。)
んじゃぁ、俺も一口飲んだところで!
「それでは、自己紹介をお願いします。」
「あ、はいっ!改めまして、僕は秋宮間千。28歳で、誕生日は12月24日です!ちなみに、僕ら童界の住人の誕生日は、持ち主だった人の誕生日なのですっ!」
へぇ。てか、やっぱり童界出身なんだ。
「誕生石は、ラピスラズリっと。それでは、相談内容をお聞かせください。」
「はいっ!我が『グリム中学校』の学園祭についてですっ!」
「えっ!?学園祭!?赤ずきんちゃんとの駆け落ちは!?」
「か、駆け落ちっ!?無理無理無理ですっ!!先生と生徒ですよ!?禁断すぎます!!」
「「「先生と生徒〜!?」」」
またもや驚く3人。てか、どうりでスーツ姿だと思ったら。
「ええ。童界では、有名な童話の登場人物は学校に通い、教師は悪役がすることになっているのです。」
「いいじゃん、定番の禁断コンビで。」
「よくないですよっ!
......それより、学園祭というのは、我が校で年に1回行われるものでございますっ!
毎年、模擬店などを各クラスで出しますが、今年は演劇部が廃部してしまいましたので、もしも″○○が○○の話だったら″というのをやってみましたっ!」
「切り替え早いですね。てか、つまりは、赤ずきんちゃんがラプンツェルだったらとかですか?」
「そういう事ですっ!それで、あのっ…………………
僕らのやる演劇に、出てくれませんかっ?」
────演劇に………出る!?
「賛成賛成賛成さーんーせーいー!
私、よく学園祭でキャストやっていたの!楽しかったの!」
「ほ、本当ですかっ!?ありがとうございます!!」
「僕も〜。高校の時、演劇部に入ってたの〜。」
「ほ、本当ですかっ!?ありがとうございます!!」
「じゃあ、現場へレッツゴー!」
「ええええ!?俺の意見は!?」
「有無を言わせず賛成ですっ♡」
「えええ〜?俺の学校、模擬店しか出さなかったんですけど!?」
「ま〜ま〜。いい経験になるじゃ〜ん♪♪♪」
「そういう問題じゃねえええぇぇええええ!!!!」
────────☆☆☆☆☆☆☆─────────
まあ、結局現場……「グリム中等学園」に来た。レンガ造りの一階建て校舎と、おしゃれな制服は、西洋に来たみたいだ。
─────今、俺たちは、秋宮さんが担任のクラスに来ている。
「あー!マチ先生おかえり!」
と、クラスの子がパタパタと歩いてきた。
長い金髪の髪を三つ編みにしていて、大きな琥珀色の瞳をキラキラさせている。何のキャラだろ?
「ただいま。演劇の準備の調子は良いかい?」
「うんっ!その人たちは?」
「僕ら、チーム:REDHoodの演劇をお手伝いしてくれる人達だよ。」
「やっぱり、そのチーム名カッケ―!こんにちは!」
「「「こんにちは〜」」」
にはっ、と笑い、向こうへ行ってしまった。
「あの子、なんの童話に出てきますか?」
「あぁ、『ラプンツェル』ですよ。」
「へえ~、ラプンツェルって、グリム童話だったのか~」
驚くヒロさんに、こくり、と頷く秋宮さん。
え、なんでグリム童話?どっから出てきた?てか、真花も普通の反応なんだけど。あれ?
「あっ!そういえば、今回演じる童話を言っていませんでしたね。タイトルは『だんじょ
ばごっっっっっ!!!!
突然響いた鈍い音。
前のめりに倒れる、秋宮さん。
...その、後ろに立つ、右足を大きく上げた、少女。
空色の、ワンピースのような制服。茶色いブーツ。ゆるふわカールの赤茶色の髪の上に、当たり前のようにかぶさっている、赤い頭巾。
.......赤ずきんちゃんが、そこにいた。
「ね~、真花ちゃんて、夜寝る前になにするの~?」
「え?一人しりとり。」
「..................へぇ~。」