7.あの悪役の相談室(前編)
………ぉ…………りぉ…………理雄………理ぃ雄!!
……呼ばれてる?
ふっと目を開けた。
同級生ぐらいの女の子が、俺を見つめていた。
俺は横たわっているらしく、体が重かった。
────理雄!もうっ、心配したでしょ!?バカぁ!
──うぉわっ!?
抱きついてきたお下げ髪の少女。
暖かくって、懐かしい匂いがした。
────この子、誰だ?
見たことがあるような…………ないような……あれ?
────理雄?ねぇっ、理雄ってば!ねぇ、ねぇ!!
頭が……………クラクラ…………す………る………
────理雄っ!!ねぇっ!ねぇ、ねぇ、、、、、、
「私を、1人に、しないでよ、、、、、、、」
アオーン………アオォーン…………
「───んぁ?」
目を開けると、チョコレート色の天井。
あれ?
お下げの髪型の、同級生ぐらいの女の子がいたような…………
……………夢か?
いや、そうだよな。俺は今、いつもの部屋、相談室の2階の住居スペースで寝ぼけてる気分だ。
そして、いつの間にか開け放たれた、青いドアの前で仁王立ちをしている、水玉パジャマを着た真花がいる。
「………なんでいんの!?」
「失礼な。部屋の前を通ったら狼の声がするんだもん。」
「お、狼?」
アオーン………アオォーン…………
「あー、俺の目覚まし音だ。」
「目覚ましぃ!?」
うん、と頷き、俺は枕元のスマホを手に取り、音を止めた。
「………は、初めて、狼の声を目覚まし音にする人を見た。」
「えー。やっぱり、俺以外いないのかー」
しゅん、とうなだれた。
なんで、狼の声を目覚まし音にする人、いないんだ。
「何その目。…………そういや、下宮くんの部屋にも、小さな机あるんだ。」
「は?どこ?」
そんなものあったか?
「ベッドの隣。って、違う違う。右っ右っ!」
「うわ。ほんとにある。」
ベッドと隣合わせで、昨日はなかったはずの小さな机があった。
小さなメモが置いてあり、目を通した。
───下の愚民へ、
褒美をもう少しやろう。
この机は、スマホを置くだけで充電できる、優れものだ。ちなみに、引き出しの中には、『ぽーたぶる充電器』と『水晶ケース』が入っている。大切に使え。
ガブリエル様より────
「………ぽーたぶる充電器って?」
「持ち運びできる充電器。てか、いつの間に置いたんだろうね、あの不法侵入野郎。こっそり入ったら、ヒロさんの部屋にもあったよ。」
───不法侵入野郎はどっちだよ。
そんな、おれの心の呟きにも気づかず、パンっと手を叩いた。
「てかさ、私は水晶の事すっかりわすれてたわけで、部屋中探し回ったよ。」
「あー。俺は、本棚の中に置いてある。」
ベッドから立ち上がり、6段ある本棚の一番下から、薄くホコリをかぶった、黄緑色の水晶を手に取った。
「………やーっぱり、誕生石。」
「た、誕生石?」
そういやぁ、真花は誕生石をほぼ知ってるんだっけ。
確か、俺の誕生石は、ペリドットってやつだった。
「ペリドットは、黄緑色なの。その水晶も、黄緑色でしょ?」
「………まぁ、確かに。真花は、青色だったっけ?」
「うん。アクアマリンだから。無許可で部屋を侵入したら、ヒロさんも真珠だから白だったよ。」
だから、不法侵入野郎はどっちだよ。
俺は、苦笑いをしながら、右手の中にすっぽりはまっている水晶を、静かに見つめた。
────────☆☆☆☆☆☆☆─────────
「は〜い、今日の朝食は、和食コースで〜す。」
「「うわぁー!!」」
1階の相談室兼リビングに、美味しそうな匂いが広がった。
俺は、真ん中、真花が向かい側に座り、「おぉー!」と声を上げた。
ツヤツヤの白米に、ワカメと卵の味噌汁。焼き鮭と大根おろしに牛乳。
ちなみに、料理はヒロさん担当になり、他の家事は真花と2人で分担している。
さあさあ、説明が終わったところで!
「「いただきまーすっ!!」」
「ど〜ぞぅ♪」
真花と向かい合い、美味しい料理を頬張った。
ヒロさんは、カウンターから嬉しそうに眺めていた。
「めっちゃ美味い!ヒロさん、マジ最高!!」
「焼き鮭、丁度いいです!味噌汁も最っ高!!」
「ありがと〜、真花ちゃん、ミヤリオくん♪」
あぁ、マジ最高に美味すぎる………!!
アオーン………アオォーン…………………………
─────んっ!?
「もぉー。下宮くん、目覚まし音、消してよぉー。」
「へ〜、狼の声を目覚ましにする人っているんだ〜」
「え、いや、それは事実ですけど、でも、」
「何故にしどろもどろになってんの?」
「ミヤリオく〜ん、顔青白いよ〜?」
「だ、だって、この音、俺の目覚まし音じゃな
バンッッッッ!!!
───大きな音を立て、ベージュ色のドアが開いた。
「「「……………え。」」」
人………………じゃなくて、狼がこちらを見上げていた。
ギロリ
「「「………………。」」」
次の瞬間、俺たち3人は、深緑色のドアの中へ駆け込み、階段を駆け上り、それぞれの部屋に駆け込んだ。
───でも、数分たって、同時にドアを開け、顔を見合わせた。
…………いやいやいや何今の狼だよね〜なんで狼がこんな所にいるのてか何しに来たんだろ〜まじ意味わからないんですけど誰か助けてHelp me!!
言いたいことを全て言い、少し落ち着いた。
すると、ヒロさんが部屋に戻り、何故かフライパンを持ってきた。
そして、ヒュッと息を吸った。
「────みんな、僕の後ろにいてね。」
「ヒロさん!!消滅しちゃうよ!!」
「俺の事は気にしないでください!俺が最初に行きますから!」
「大丈夫〜。僕が最年長だし、相談室でもただの料理係だから〜。」
「私たち、目玉焼きしか作れないんだよ!?ヒロさんいなきゃ飢え死にしちゃう!!」
「そうですよ!ヒロさんの激ウマご飯無しじゃ、相談員出来ないです!!」
「あ、それは嬉しい〜!…………でも、」
そこで言葉を切り、ヒロさんは、言った。
「…………僕は、2人のためなら消滅しちゃってもいい。大切な、家族同然の2人だから。」
「「………ヒロさん………」」
柔らかく笑い、ヒロさんは、そろりと歩き始めた。
俺たちは、フライパンを持つその背中を、潤んだ瞳で見つめた。
ギ、ギ、と音を立て、ようやく階段を下りた。
最後に3人で頷いた。
が、ちゃ
深緑色のドアをゆっくり開け、俺たちは、狼に襲われ…………………………
なくて、ふさふさの犬耳と尻尾を付けた人っぽいのが土下座しているところを見てしまった。。。。。。
「………てか、なんでヒロさんは、フライパン持ってたの?」
「僕ね〜、フライパン抱きしめないと眠れないんだ〜。真花ちゃんも、今度やってみてよ〜。」
「………遠慮しておきます。」
「あ、中編へ続きます。」