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キリングアート  作者: カルラ
6/22

第二話 マリア5と赤咲の少しだけ楽しい日常風景 その1

皮靴製作から二日後。

今日、赤咲はマリア5のメンバーと新曲の打ち合わせをする予定になっている。

マリア5との打ち合わせは赤咲にとっては、仕事の中ではかなり楽しい方にあたる。

スタッフと違って年齢が近いのもあり、あまり気を使わず大人の会話を意識する必要も無いからだ。

また今回は、新曲では今までに無い新しい試みを行うつもりもあるので、その際のメンバーの反応も非常に楽しみである。


「待ち合わせ時間は……ちょうどいいかな」


集合場所である事務所の会議室手前。

赤咲が時計を確認すると、時間は待ち合わせの五分前。

途中で時間を確認した際に、このままだと遅刻してしまいそうと思い、少し急いだのが功を奏し良いタイミングで会議室につくことが出来た。


―全員居るかな?―


赤咲はそんな事を思いながらドアを開いた。


「おはよう」

「遅いっ! 何やってるのキリー」


と、ドアを空けた瞬間に聞こえたのは遅れたことを叱責する言葉だ。


「悪い悪い」

赤咲は謝りながら椅子に座る。

既にメンバーは五人全員が揃っているようだ。


「でも(はる)()。一応待ち合わせの五分前には来てるんだから、遅いってのは無いだろ」

「私は十分前に来たのよ。結果的には五分も待たせたじゃない。女の子を五分も待たせるってどういう神経してんのよ」


 陽菜の理不尽に近い怒りに赤咲は苦笑してしまう。


「そこまで言うなよ。それに待たせたことは本当に悪いと思ってるよ」


―はあ、陽菜は怒らせると大変だな。まあ十分も前に来てたのか。俺ももう少し早く来たら良かったかな―


赤咲は先ほどの少女、最年長の十七歳でマリア5のリーダーも勤める秋宮(あきみや)陽菜に微笑を浮かべると、他の四人の姿も確認する。


「久々って感じだね斬耶。(さくら)も会えるの楽しみにしてたんだよ」

「おいおい桜。久々って半月前にも会ったばかりだぞ」


 人懐っこい笑顔を赤咲に向ける少女。名前は(あお)()桜である。

その少女の笑顔には赤咲も思わず不思議な安らぎを覚えている。


「そっか、えへへ」

「ははははは」


―やっぱり話しやすいな。桜とは―


癒し系の空気を纏う少女。

彼女はまだ十五歳であるが、歌唱力も高く明るい性格であり、波長も赤咲と合うようで二人で話す機会も多い。

だがその空気に割り込まんと他のメンバーも声を掛けてくる。


「はふー、ヒサリブシですキリヤ」

「ちょっと待て、ミリア。多分久しぶりって言いたいんだな」


 新たに割ってはいる少女。

 意味の無い言葉を話すが赤咲はすぐにそれを理解し翻訳して返す。


「間違ってたですか?」

「まあいいよ。バラエティなら、良い感じに笑い取れるから」


 落ち込んだ様子だがすぐに笑顔で頭に手を置いて優しく撫でる。

「はふ―! ワタシ……時代劇にデタイんですけど」


 それにはすぐに嬉しそうなリアクションを返すが、次の要求は非常に難しい物だった。


「それは……また今度機会さえあれば、マネージャーと相談してな」

「はふぅ。お願いデス。キリヤ」


―ミリアは相変わらずか。本人はやりたいんだし、俺としても、やらせたい気持ちがあるんだけど……やっぱあの外見じゃ厳しいか―


時代劇への出演を希望するとても明るい性格の十四歳、麻倉(あさくら)ミリア。しかし髪の色は綺麗な銀色。顔立ちも外国人の雰囲気が非常に強い。

両親は父親がベラルーシ出身、母親は日本人ではあるが、ドイツと日本のハーフ。

つまり日本人の血はクォーター程度にしか入ってない以上、当然ながら昔の大和撫子といった雰囲気は全くといっていいほどに無い。もちろんそれは当然なのだが、それでは時代劇に出るのは厳しいだろう。

赤咲も、出してやりたいという気持ちは強いのだが、実現は困難である。


「あの斬耶君。コーヒーどうですか?」


 難しい顔をしていると、横からおずおずとコーヒーを差し入れてくれる少女がいる。

 赤咲はそれに優しい笑顔で返す。


「ああサンキュ。いつも悪いな(あんず)

「いえ」


先ほど赤咲にコーヒーを入れたのは陽菜と同じく年長の十七歳。柏木(かしわぎ)杏。マリア5のメンバーの一人だ。

最も、気弱な性格でグループ内でもいじられキャラが定着しつつある。


「斬耶。このままでは話が終わらないわ。早く話を進めて頂戴」

「ああそうだな。すまん、恭子(きょうこ)


 そして、そうしているとまた新しい方向から厳しい言葉が飛んでくる。

 赤咲は軽く頭を下げる。しかしそれにも特に反応は示さない。


「別に大したことじゃないわ。だから謝る必要も無いわよ」


先ほどのは(なが)()恭子。

あまり口数が多いわけではないが、たまに鋭いことを言ったりもする。

少々尖った言い方も多く、毒舌の要素も大いに含んでおり、しかしそれらは的を得た発言が多い。

十六歳の年齢の割には体は小柄な方ではあるが、クールビューティーというのが一番しっくりくるだろう。

こうして挨拶を終えると、ようやくとばかりに打ち合わせが始まる。


「じゃあ早速新曲だけど……今度のプロモーションビデオの撮影はハワイだ」


赤咲は最初にいきなり、今回の一番の目玉を言い出した。

すると当然メンバーから喜びの声が多数上がる。


「うっそ、やったじゃないキリー」

「楽しみだね。斬耶。当然斬耶も一緒だよね」

「はふー、遂に海デスー。レッツシー!」

「ハワイっことは水着? 何だかアイドルの仕事って感じですね。斬耶君」

「……ハワイ。初めてだし楽しそう」


―全員嬉しそうだな。まさか恭子まで嬉しそうな表情を見せるなんて思わなかったけど、全員が嬉しいならハワイも悪くないな―


この反応には、赤咲も思った以上にうれしくなる。


「予定は来月の末だからスケジュールはしっかりと空けて置くように。水着とかは全部スタッフが用意するから、基本的には持ち物は着替えと後は個人で必要な物をもって行けば良い。それとパスポートは絶対に忘れるなよ。これだけは忘れたらヤバイからな」


赤咲は諸注意を続けて述べる。

本来はこういうのはマネージャーの仕事だが、この五人はマネージャーは細かいミスがかなり多いので、重要な事は赤咲が言う事にしている。

そしてこうする事で実際に仕事でのトラブルは激減してしまったのだ。


「ねえ、斬耶も一緒に来るよね」

「あっ、ああ。もちろん行くよ。新曲のプロモの大事な撮影だ。俺が行かないわけ無いだろ」

「そうだよね。あっ、じゃあもしかしたら一緒にどこか観光にも行ける?」

「えっ? ……まあ滞在日数は少し長めに抑えてるから、行けないことは無いと思うけど」

「はふー。駄目デスサクラ! ワタシもキリヤと一緒に観光したいです」

「じゃあ三人で行くか」

「えっ? ちょっと斬耶」

「どうした桜。別にミリアも一緒に三人じゃ駄目なのか」

「べっ、別に嫌じゃ……ないけど」

「そっか、ミリアもいいよな」

「もちろんです。はふー!」


赤咲は笑顔になるが、桜は少しばかりうつむいてしまう。

最も赤咲は全くそんな桜の様子に気付いてはいない。


「鈍感ね」

「ん? どうした恭子?」

「別に、なんでもないわ」


 恭子が思わず呟くが、赤咲はその意味も特に分かっていない。


「そっか。でも鈍感って……」

「自分で気付いてないのなら意味が無いわ。そんなことより他にも何か話があるんじゃない。もったいぶってないで、さっさと話して頂戴」


 話が進展しそうにないので、恭子が少し語尾を強めて赤咲に先を促す。


「あっああ、そうだな。実は新曲なんだけど……まだ歌詞が出来て無い」


 赤咲の言葉には全員が耳を疑った。

 そして次にはリーダーである陽菜から怒りの言葉が飛んでくる。


「はあっ! 何言ってんのキリー。歌詞が無いってヤバイじゃないのっ!」

「まあそう怒るなよ」

「怒ってない無いわよ。ただ歌詞がまだってレコーディングどうするのよ!」


陽菜はかなり驚いているようだ。

プロモ撮影が決まったのに、歌詞がまだ出来ていないというのは、非常に珍しいケースなので反応としては普通のものだ。


「それじゃ斬耶君はどうするつもりなんですか? 歌詞が無いなら歌入れも無理だからプロモーションビデオの撮影は……」


杏は不安そうな表情を見せる。

他の三人も動揺に戸惑っているようだった。

しかし赤咲はこの反応も予想通りとばかりに、椅子に深く座り少し冷めたコーヒーを一口飲む。そして一度間を取ってから、今回の試みを告げる。


「そこでだ。歌詞は……みんなに書いてほしい」

「「「「「えっ!?」」」」」


五人の声は戸惑いの色を重ねながら綺麗にはもる。

だが、赤咲は気にせずに続ける。


「今から曲を聴いてもらう。それからデモテープを持ち帰って、作詞をしてほしい。テーマはハワイでプロモ撮影を行うから、その雰囲気にあった夏をイメージした物。期限は今日から三日間。三日後にもう一度ここに集まってもらって、それぞれの書いた詩を出し合う。その中で一番良かったものを採用しようと思う」

「……なるほど。つまりメンバー内で作詞コンテストを開くというわけね。面白そうだわ」


まっさきに恭子が趣旨を理解した上で賛同する。

邪悪な雰囲気を帯びた笑みを浮かべた顔は、ドラマでも悪役をやらせればかなりの高い評価を貰えそうだ。


「はふー。作詞デスネ。ワタシ絶対に書いてミセマス」

「面白そうな事考えるじゃない。やるわねキリー」

「作詞ですか。どうしよう……でも……頑張らないと」


他の三人もそれぞれが乗り気な感じで承諾する。

そして、最後に桜が顔を上げた。


「分かった。つまり斬耶が胸をときめかせるような歌詞を書いたらいいんだよね」

「そうだよ。桜が考えるような夏の歌を書けば、それでいい」


少しテーマとずれてはいるが、桜もやる気を見せる。

 そしてその態度には赤咲も満足している。


「ふふふ。頑張りなさい」


恭子も静かに桜へとエールを送った。


「じゃあ、早速一度曲を聴いてもらうよ」


女性達の思惑に気付かない赤咲は曲を流し始める。

こうして、打ち合わせの初日は少女達に新たな試練を与え終了したのだった。


ここから第二話です。

ついにヒロインが出ました。


ここから物語が大きく動いていきます。

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