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キリングアート  作者: カルラ
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第一話 殺戮と作曲のある日常風景 その4

最初の作業の工程を終えて赤咲は次の工程へと移る。

靴底や靴の内側の為の筋肉と脂肪の切除の作業だ。

どの箇所が適切な硬さ、柔らかさを持っているかの確認を行う。

赤咲は順番に少女の体を触り調べる。


「あっ! いっ、いや、やめっ! ……ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


少女は赤咲の手つきに、今までよりも強い反応を返す。

今の少女の体は皮膚が無い。

つまり、むき出しの神経や血管に直接触れているのだ。

その刺激は常人では、生涯をとしても知りえないほどに強く、そして激しい。

都市伝説ではドラッグを使えば、神経が過敏になって非常にハイになるといわれている。

だが、むき出しの神経への直接の触診。それはドラッグを使って得る刺激よりも更に激しい。

そのような刺激に小さな少女が耐えられるはずもない。


「あっ! ぁぁぁ、いぃぃきゃういいぃぃああぁ」


ただ叫び続けるだけだ。

それもやがて意味を無くし、次第に少女は廃人の如く虚ろな目でその刺激に身を委ねていく。

そのようになるまで、五分と掛からない。

一人の少女の精神を完全に破壊させ、それでも赤咲の触診は続く。

靴底に最適な強度の筋肉を探すために、靴の内側に最適な柔らかさを探すために、赤咲は妥協を許さない。

全力を持って、神経を集中させ、自身の今出来る限りの全てを持って、最高の出来の皮靴を作る。

赤咲は最高級の逸材としかいえない少女と接し、その気持ちをより強めていたからだ。


「ここか……いや、こっちの方が衝撃を吸収するか」


赤咲のその目つきは真剣そのものだ。

そして、二十分にもわたる吟味のすえ、切除して靴底に使用する筋肉を決める。


「決めた。これで必要な物は全部集まるぞ」


赤咲は嬉しそうな表情でナイフを手に取る。

一方で、少女の目からは既に光は失われていた。

もちろん息はしているし意識もある。

しかし、その意識は既に正気じゃない。

赤咲が触診を止めると、その刺激が終わったことに安堵ではなく、更なる刺激、快楽を求めていた。


「きゃふぁぁ、もっふぉう」


呂律の回っていない、その言葉は異常者を思わせる。

だが赤咲は構わずに再びナイフを少女へと構える。

恐らくは靴に使う筋肉や脂肪の切除を行えば少女は息絶えることとなる。

しかし少女は寸前に迫った自らの死を理解していない。

いや、理解出来ないのだ。

粉砕された精神は、ただ強く激しい快楽を求めていた。


「さあ行こうか。これで最後だよ。君は世界でも最高の皮靴となって世界に残る。光栄に思っていいんだよ」


赤咲はナイフを振り上げ、狙いを定めつつも勢い良く振り下ろす。

狙いは左の腹部。

そこへと赤咲がナイフを走らせた瞬間だった。


「いっ! いぃぃぃ!!」


少女は叫び声を上げた。

少女はどこか幸せそうな、少しばかり大人な表情を見せたのだった。

僅か十二年の生涯、最初で最後の絶頂を味わって、少女は息を止めた。

赤咲はそんな少女から切り取った、左腹部を手に取る。


「……これだ! これで皮靴が完成するぞ」


赤咲は嬉々とした表情で歓喜の言葉を上げた。


それから約四時間後。

赤咲は黙々と作業を続けていた。

皮靴を作る作業というのは非常に地味なものだ。

靴底にあたる部分は筋肉を使用するが、全体のバランスが大事なのだ。

靴底には滑り止めの工夫もいるので、そういったところは一般に市販されている皮靴以上にデリケートな作業が求められる。

他の部分に関しても、元々は靴を作るには決して適していない材料を元に制作している以上、制作は難航せざるを得ない。

それは想像以上に難しいことである。


「思ったよりも難しいけど……これなら大丈夫」


しかし、赤咲はそんなきつい状況でも表情は前向きだ。

新しい事には困難が付き物である。しかし、それを苦と感じているようでは駄目なのだ。

もしも赤咲がそれを苦しいと感じているようであるならば、このようなアート作りは遥か昔に辞めてしまっているだろう。

でも赤咲はそれを苦しいとは思わない。

難しければ難しいほど、厳しければ厳しいほど、むしろ赤咲は情熱的に燃え上がる。

完成までのハードルが高ければ高いほどに、赤咲は前向きになれた。


「何事も失敗を恐れたら駄目だ。よしっ! 繊細なだけじゃなく、もっと大胆に行くぞ」


赤咲の手は血で赤く染まっているが、それは勲章のような物だ。

鮮血を勲章のようにして、赤咲の皮靴制作は続く。


そして更に二時間が経過した。

今回の作品作りは非常に難航してしまった。

しかし、それも遂に報われようとしている。


「あとは……つま先の部分に皮を重ねて補強して……」


赤咲は最後の作業を終えると一息をつく。


「よしっ、完成だ!」


赤咲は至極満足そうに、靴を一足揃えて眺める。


「うんうん。良い出来だな。デザインも悪くない」


色は当然真紅であるが、途中で水も使い色は少し薄めている。

この外観であれば、外出に使用しても違和感が無いほどの出来である。


「見た目は問題ない。後は履き心地か」


赤咲は靴を地面に置き、足を入れる。

サイズはピッタリだ。


「感触は悪くない。……歩いてみるかな」


赤咲はとりあえず部屋を一周歩く。

途中で小走りになったり、ステップを刻んだりもする。

軽くダンスターンも入れ、ダンサーさながらの振る舞いで、そして満面の笑顔で振り返る。


「最高だ。やっぱり最高だよ。全く違和感が無い。まさかここまでとは思わなかった。やっぱり出来ないことは無いんだ。人間からでも靴が作れる。他にも人から作れそうな日用品が無いか調べてみるかな。」


赤咲は自身の作品の完成度の高さに酔いしれた。

非常にハイテンションで、更なる創作意欲が湧き出ている。

その後赤咲はピアノに向かい、更に作曲活動も始めた。

 それも非常に順調に進み、かなりのクオリティの曲が何曲も生まれてくる。

その夜は結局、赤咲は一睡もせずに徹夜となったのだが赤咲は一度も睡魔に襲われることも無く、朝を迎えたのだった。


更新しました。

次回からヒロインが登場します。

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